第96話「村は変わったな…」
よ~く見やがれ!
勇者軍の刻印も鮮やかなソレを取りだすと、目を丸くしている職員の前で『配達』の品を取り出してやった。
莚に覆われた四角の塊を手で掴むと、ゆっくりと袋の外に取り出す。
徐々に重さを感じるところで、サッと取り出し素早く職員の目の前に出してやった。
ズドンと出てきたのは依頼の『配達』にあった、乾物になった魚。
ポートナナン沖でやたらと取れる青魚で、食べてめっぽう美味いが、用途の大半は肥料にすることだ。
牛糞やら馬糞に鶏糞とウンコまみれのファーム・エッジでは必ずしも必要ではないが、良質な肥料でもあり、なにより近隣の村と交易をすることで優位に立ちたいという浅ましい考えもあるらしいファーム・エッジのエゴの塊───その一品だ。
「あ、あんた海の連中か…?」
突然、大量の肥料臭に包まれた買取窓口では、職員が驚いた顔でいる。
貧乏で臭い漁師の村…ポート・ナナンの人間が、異次元収納袋から依頼品を取り出したのだ。
内心見下している連中に鼻を明かされた気持ちで、顔の青くなった職員に代わり───
「お前…バズゥか?」
奥で作業をしていた別の職員が顔を見せた。
なるほど、
昔馴染みの人間のようだ。
とは言え、やはり顔も名前も覚えていない。
───バズゥ、薄情なり。
「おう、里帰り中だ」
突っけんどんに言い放つと、残りの肥料も次々に出していく。
「おうおうおうおうおう! 待て待て待て待て! こんなとこで出すな!」
職員は慌ててバズゥを止める。
「あ? 出せっつったのはコイツだ」
ビシっと、青い顔の職員を指さすバズゥに、
「あーあーあー、そうだろうさ。わからんでもないが、落ち着けや…」
存外冷静に返す職員を見てバズゥも動きを止める。
…一々突っかかってくる連中にウンザリしていたのもあるが、確かにやりすぎかもしれない。
「すまん」
素直に謝ると、職員に案内され奥のスペースに移動する。
最初に対応した職員にはキッツイ目で睨まれていたが…知らん。
「随分久しぶりだな」
平静の声で話しかける職員に適当に相槌を打ちつつ、
「まぁな」
ドンドンと肥料を出していく。
異次元収納袋がなければ到底運びきれるものではないが、これだけやっても大した金にはならない。
およそ、ついででなければ受けるほどの依頼ではない。
元がポート・ナナンなだけに、依頼料もお察しだ。
「…戦争行ってたんだろ?」
話しかける職員を煩わしく思いながらも、一言二言話し、仕事を淡々とこなす。
これから買取などで付き合うのだ、喧嘩しても始まらない。
幸いにもバズゥを知っている人間なら、この反応が普通だと知れているので大した問題にはならない。
先の職員にしても、そのうち慣れるだろう。
まぁ、友達には絶対なれないだろうがね…──俺もなる気はない。
「…ん。たしかに受領した。これをもってけ」
依頼に必要な木札だった。
受領証らしきもので使い古されているのか文字が掠れて殆ど読めない。
まぁ、問題ないだろう。
交易所で、横領も何もあったものではない。
信用第一の世界で、大きな偽取引などあるはずもない。
まぁ、なくもないのだろうが……
木札を受け取ると、
次の品を出す。
「コイツも確認してくれ」
地猪を取り出すと、依頼達成の確認と同時に買取も頼む。
「うぉ!! でっけぇ!!」
全部ではないが、『獣肉の確保』で必要な分以外はここで買い取ってもらおう。
フォート・ラグダのほうが高く売れそうだが…まぁ、俺は「出入禁止」状態のようなもの…仕方ない。
首は埋めてきたので、内臓を除去した半燻製を出す。
もも肉などのいい部分は依頼に必要なので今は出さない。
「成獣は全部で5頭仕留めた」
嘘だろ? といえるはずもない。見ればわかる。
しっかりと5等分の燻製だ。
「おいおいおいおいおい…地猪だぞ…」
熊系を除けば、近隣で最も強い害獣になる。
しかも、地羆などと違い、かなりに頻度で人里に姿を出すので、ファーム・エッジの様な農村では忌み嫌われている。
好かれているのは肉の味くらいな物だ。
「どうってことねぇさ」
今のファーム・エッジじゃキツいだろうがな、と暗に込めて言う。
猟師の塒のような村だ。
本来なら自分たちで狩ればいいものを、外部に依頼を出す段階に来ている。
どれほどの村人が気付いているかは知らないが…猟師の練度は危険なまでに下がっているようだ。
自分たちで狩る! という矜持すら、もはやないのかもしれない。
「はー…まさか5頭も狩るとはな…」
驚いたと、言った表情の職員。
「すまんが、ギルドに出した依頼金は1頭分だ。すまんな…」
「構わねぇよ…それより肉だ。買い取ってくれ」
1頭でも十分な額だ。
しかも、肉の料金とは別に、討伐報酬なわけだから…1頭分余分にボーナスがついたと思えば悪くはない。
討伐証明の木札を貰い、肉は別に買取だ。
ついでに見てくれと、熊肉も取り出す。
当然、子猪もだ。
一部は『獣肉の確保』依頼のためポート・ナナンに持ち帰るし、背骨なんかはキナのお土産にするが、……それでもかなりの量になる。
それ以外は、持ち歩いていても腐らせるだけ──
…撃って、殺して、換金したほうが…
───世のため人のため、
俺のためキナのため───
獣を食し、
換金するのは人のため…
文句あるか?
俺たちは人間様なんだ。
「おおお…!! すごいなっ」
職員は開いた口が塞がらないといった表情で驚いている。
そりゃ、交易所の一角を埋め尽くさんばかりの肉の山だ。
…知らずに見ればスプラッターな現場にしか見えない。
しかも、一部の肉はかなり古くなっているので少々臭う。
この手の臭いになれているバズゥと職員だから冷静なだけである。
「こりゃ買取計算に時間がかかるな…そもそも支払いは、即金じゃ無理だ」
まいったなーと、頭を掻く職員に、
「すぐじゃなくてもいい。また来る…その時に頼む」
あいよ、
と心良く引き受けてくれる職員に感謝しつつ、
こういった信用取引ができるのも、バズゥがこの村と人間と顔見知りだからだ。
もっとも、最近は若い連中ばかり増えてバズゥを良く知らない職員も多いらしい。
実際、勇者の叔父としてそこそこ名の知れた人物になるまでのバズゥの扱いは、
「魚を食う日帰り猟師」やら「女の子のヒモ」だとか……まぁ、良くて──タダの偏屈猟師として顔を知られてるだけだ。
普通に、人付き合いのいい人間から比べれば、知り合いも少ないし…
なにより、バズゥ自身が他の連中のことをよく覚えていない。
ゆえに、
相手に顔を覚えてもらっていなければ、正門前のような一幕は、そこここで起こるだろう。
「まぁ、肉も毛皮もいくらでも売れるから全部買うけど…熊肉はあまり期待するなよ?」
加工すれば使える熊肉も、やはり古くなっているため金額は落ちるらしい。
毛皮は十分に使用に耐えるため、問題ないという。
「で、だ───」
最後にバズゥが取り出した品───
依頼とは別に、余った分の熊の肝と、
──純粋な労力の果てに手にした、キングベア(妃)の毛皮だ…
「おいおいおい、マジか? ………こんなデカいキングベアは見たことがないな」
ぽかんと口を開けて唖然とする職員。
「だろ? 俺も初めてだ」
元々遭遇率どころか、存在すらがほとんどないキングベア。それの…さらに変異種だ。
いったいどれほどの価値が…
「むぅぅぅぅぅぅ……バズゥよ」
「あん?」
ガッシリと肩を掴まれて真正面から見られる。
「こりゃ、王室が欲しがるクラスだ…すまんが──」
なぬ?
「──こりゃ換金に時間がかかるぞ?」
……
…だろうな。
「ま、そうなるだろうな…」
通常の地羆ですらそれなりの高値で取引される毛皮。
それ自体が希少種なキングベア…その変異種でデカイ!
「幾らくらい値が付くのか…想像もつかん」
そう言いつつ地羆のほうはテキパキと指示を出し処理のため運んでいく職員たち。
キングベアだけは広げた状態で置かれているが…改めてみるとマジでデカいな!?
これを広げただけで、交易所の一角が埋まってしまう。
「取りあえず、地羆のほうは今換金する…ところで──」
おうよ。
「肝もあるぞ?」
ズイっと袋に入った肝を差し出した。
デローっと、内容液が零れており、スプラッターである…
ちなみに肝、肝、といっているが肝臓ではない。
肝臓も価値はあるが、薬として売れるのは胆のうという臓器だ。
乾燥させて生薬としたり、
…このエキスも使えるとか?
味は…まぁ、うん。苦い。
チョー苦い。
万能薬だとかいうけど、俺にはわからん。
「……おいおいおいおいおい。何だこのデカさは」
職員が呆れた声を出すくらいにはデカイ。
めっちゃくちゃデカイ。
地羆の肝が拳程度なのに対して…このキングベアのものは、なんとまぁ、人の頭ほどもある。
「だろ? …これも厳しいか?」
つまりは換金についてだ。
交易所にも資金の限界はある。
一回の取引で使う分の金はあるだろうが…当然、盗難や事故などを恐れて金は分散していた。
近年では、戦争の影響か諸国連合が発達しているため銀行も全世界規模で展開。
ファーム・エッジやポート・ナナンのようなド田舎でさえ金は一カ所に集中させない。
まぁ当たり前だな。
金を無造作に保管するのは…キナくらいなもの。
キナちゃん駄目よ?
お金の管理はちゃんとしないとね。
「う~む…厳しいな。地羆のほうは引き取るが…」
む…
それは困る。
あまり長時間放置していては腐ってしまう。
せめて加工くらいはして欲しいものだ。
「どうする?」
職員は困り顔でバズゥの目を覗き込む。
大口取引は歓迎したいところなのだろうが…
資金をすべて使って買い付けするわけにもいかないのだろう。
まだまだ、商人は沢山いる。
ほとんどが輸出だが、村で手に入らない産品を購入もしているのだ。
その資金に手を付けるわけにもいかないし、流れの品も見定めて必要なものは買い取りをしたいのだろう。
「コイツも今すぐじゃなくてもいい。鑑札だけはくれよ?」
まぁ、妥当な手段として信用取引しかない。
フォート・ラグダくらいの都市でないと大金を扱うのは難しいだろう。それは初めから分かっていた。
「わかった…待ってろ!」
そういうと、肝をすべて受け取り奥の保冷魔法具の中へと保管している。
あれだけの量だ。
いったい幾らになるのか。
奥の方で職員同士で何事か話した後、木札をもって戻ってくる。
「ほら…特別札だ。無くすなよ?」
当然だ。
まぁ、無くしたからと言って取引が中止になるものではないが、少々面倒事になるのは必須…大事に大事に保管しよう。
ちゃんと、……名前と取引日、
そして使い回しの物だが、大口取引用の札にはちゃんと交易所の焼き印が入れられている。
品についてもキチンと記載。
うーむ…
保護者として駆り出されて戦争に行ったのは──じつに酷い話ではあったが……
唯一良かったことは、教育を受けられたことかな。
うむ、
文字が読めるとは素晴らしいことだ。
で、だ。
その他細々としたものも、すべて売っぱらう。
採取した依頼外の薬草やら、木の実やら…あとは地猪の肉に子猪達───と。
「おいおいおい! いったいどんだけ売る気だ? 一人で交易所を開店するつもりかよ…」
半ば呆れ気味で言う彼の前に、ドンッドンッと──品に肉に売れるものを全部出していく。
馬の背からは子猪が外され、飼育小屋へ放り込まれていった。
あとはなんだ?
あー異次元収納袋にゴチャゴチャ入れてて、わからん…!
ズン!
……
…
「ひぃ!」
職員が驚き腰を抜かした。
…あん?
「なななななななん、なななんん何なんだその数…!」
邪魔だな~とばかりに、
ゴロゴロゴローーと取り出したのは…地羆とキングベアの王と妃の首…
小さい熊に大きな大きな熊の──デッカイデッカイ首がぁ、ゴ~ロゴロ…!
熊からすれば、ちょっとした地獄絵図だ。
あちゃ~…やっちまった。
これだから異次元収納袋は使いにくい…
どうしよ。
揉め事なしのギルドの依頼だったら、この地羆の首一つで銀貨一枚で…
キングベアならもっと高値の討伐報酬が出たというのに…──クソぉぉ。
買ってくれないものかね?
と、ばかりにチラリと職員の顔をみると、滅茶苦茶顔を引き攣らせている。
あー…これは違うよな。
無理だわなー……
やはり、首だけだと売り物としては微妙だ。
つうか、臭う!
クッセェ…
「で、でっかすぎるだろ!」
妃の首と、王の首…
のけ反りつつ、大声を上げる職員。
いや、お前さっき毛皮を見ただろ?
「それに…なんでキングベアの頭が2つある?」
あ───
「こっちは、毛皮の方だとしても…」
もう一頭のデカいキングベア(妃よりは小さいが…)の首を訝し気に見る職員。
チラリとバズゥの顔を見る。
…───なんでもう一頭の毛皮はないんだ? とそう言っているようだ。
「訳アリだ…聞くな」
チっと舌打ち一つ。
頭を仕舞おうとするバズゥを職員が止めた。
「まぁ、待てよ」
ニィ、と厭らしい笑み。
な~んか悪いことを考えてますって顔だ。
嫌な予感しかしないが…今更隠すこともできない。
どうしたものか。
すーっとわざとらしく目をそらす職員を、難しい顔をしたバズゥが睨むと、
「ここからは独り言なんだが…」
職員は、そう前置きし、
「──フォート・ラグダじゃ、衛兵たちの活躍でキングベアの大群を撃退したって聞いた。それもすべて自分たちの手でな、」
あぁ!?
なんで今その話をする…! ──クソ…面白くもない話題だ。
「──そのキングベアだが、ほぼ成獣はおらず、成長途中の子クマばっかりだったという…一頭を除いて、」
ん?
「──そのデカいボス級の首なんだが、どこにもなくてな…街の連中が血眼になって探しているんだとさ、」
そういえば、あの最中でも王の首は刈り取ったな。まぁこれなわけだが…
コレと、言ってキングベア(王)の首をペシペシと叩く。
で、コイツはいったい何が言いたいんだ?
こんなもん、
討伐証明以外には、悪趣味な金持ちのインテリアくらいにしかならんぞ?
脳も食えるというが…もう腐り始めているから無理だろう。
「──笑える話だろ? 大群を仕留めておいて、そのボスの首が無いんだとさ。死体はあってもな」
当然、手柄を示すためにも首は絶対に確保したいところだろう。
フォート・ラグダの連中には悪いが、ここにあるわけで…
ギルドも引き取ってくれないなら、捨てるしかないのだが──
「──で、だ」
ズズイと体を寄せる職員。
気持ち悪いなコイツ…
「……買うぜ」
ニィィィィと、極限まで口をひん曲げて笑いやがる───
絶ぇぇッ対、ろくなこと考えてないな。
事情を知らずに面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ。
ヘレナも大人しくしていろと言っていたしな…
「断る──」
「──まぁ聞けよ」
急に馴れ馴れしく肩に手を置き顔を寄せる職員。
なにか聞かれたくない話があるようだ。
「実はな、お前が持ち込んだ地羆の肉に肝、そして毛皮なんだが…」
ふむ…
買ってくれるんだよな?
「…──かなり値が落ちてる」
……
は?
え?
「通常相場の半分以下だ」
お、おい…
おいおいおいおい!
「理由はわかるか?」
「…知らん」
だろうな、というしたり顔の職員。
「最近のことだ。…フォート・ラグダで大量にキングベアの素材が手に入ったらしくてね、」
う…
「──今は供給過剰気味…価格は暴落している」
ぐおぉぉ…
「そのうえ、加工に手が回らないとかで、一部はウチに売りに出されたわけだが…」
ツイっと視線を向けた先を見遣ると、
あらまぁ、小振りなキングベアの毛皮が積まれている。
…なるほど、
いくら街がデカくても、そうそう毛皮の加工業が多いわけでもない。
そりゃ、専門の職人がいるファーム・エッジにも話は行くわな。
「ウチとしては毛皮の需要はいくらでもあるから買取するのは良いんだがな…なんせ街の連中ときたら…」
そこで初めて、歪んだ笑みを憤怒の表情に変化。
この人、顔の表情がとても豊かだ。
なんというか、こう…
憤懣やるかたないといった様子の職員は続けて言う。
「威張り腐って…欲しけりゃ、高値で卸すと言いやがる…! 即金は無理ということで一先ず追い返したが、仕事は受けちまったからな」
やれやれと首を振る。
ん?
話が見えないぞ…
「何が言いたい?」
本当にわからないバズゥは「?」顔だ。
それを見て、職員はため息一つ。
大きな大きなため息だ…
はぁぁぁぁー…
「…お前は、本当に儲け話に疎いな」
職員の呆れた声に、意味が分からず疑問顔のバズゥ。
は?
???
「…ったく、わからん奴だなぁぁ……この首は売れる。いや…こっちの首も売れるな」
パシパシと、キングベアの王と妃の首を叩く。
「はぁ? …飾りにでもするのか?」
わけが分からん。
「だから儲けに疎いと言うんだよ…キナちゃんの借金のことも知ってるぜ」
ぐ…!
うるせー関係ないだろ!
「それと何の関係がある…」
殺気を十分に載せる凄むバズゥに、職員はたじろぐ。
「おいおい、別にキナちゃんをバカにしてるわけじゃない。お前のこともな…」
だから落ち着けよ…と、
ブンブンと首を振って全力で否定──…ビビり過ぎだろ?
…そんなに俺って怖いか?
「じゃなんだよ? こんなもん誰が買うんだ」
つーか、クッセ…
これ大分腐ってるな。
「ウチで買うさ」
……
…
はぁ?
「お前らんとこは冒険者ギルドでも始めたのか?」
でなきゃ誰がこんなもん欲しがる?
「…見ての通り、タダの交易所だ。…わからねぇ奴だなー」
やれやれと首を振る職員に、いい加減苛立ちが募り…バズゥの沸点の低い怒りの天井を突き破りそうだ。
「わからん。わかんらんよ! それでいいか? いいから何がしたいのか言えや」
面倒事は勘弁だ。
「フォート・ラグダに売るに決まってるだろ?」
…はぁ?
「だからぁぁ…連中は、キングベアを討伐したのが自分たちだと言いたいのさ」
そりゃなー…
…
…ん?
「──でも、首がない。ボスの首がないのに、どうやって倒したのが自分らだと言える?」
…首は砲撃でぶっ飛んだ…とか?
「ちなみに、爆発説もあったらしいが…切断された毛皮を自分たちで晒しやがった。言い逃れはちょっと無理だろうな」
…あー…たしかに、体は残置してきたしな…それを剥いだわけかー。
綺麗に毛皮を剥いで残したんじゃ…爆発して消えたって言う、言い訳は立たないな。
なるほど…
読めてきた。
「そ・こ・で、…本物の首が出てきた、と」
───そういうことか。
「なるほど…事情は分かったが…」
俺が自分で売るとは思わないのか?
「漸く話が進むな」
「無学なもんでね…で、俺が自分で売るとは思わなかったのか?」
ヘレナの話したフォート・ラグダでの俺の立場については、コイツ等は知らないはずだ。
普通に、俺がフォート・ラグダに出入りして、そのまま売るとは思わなかったのだろうか?
「思わないね。…お前、フォート・ラグダに入れないんだろ?」
…
ぬ。
「図星だろ?」
「…誰に聞いた?」
…あ、この言い方は不味いか。
実際、職員がニヤァと笑っていやがる。
チ…ミスった。
「はは、当たりのようだな」
「てめぇ、カマかけたのか?」
「違う違う…半ば確信はあったさ…」
チョイチョイと売り物を指し示す──
そうか、普通ならフォート・ラグダに持っていくわな。
その方が高く売れるし、街の規模もデカいから換金も問題ない、と。
異次元収納袋持ちが近場の村で物を売るのは、ソレなりの事情ありと踏んだわけか。
この職員…名前は忘れたが、
まぁ、そこそこに遣り手らしい。
「ち………わぁぁったよ。お前ンとこに売る、それでいいか?」
「ヒヒ…助かるねぇ。…安心しろよ、ちゃんと金は出すからさ」
なんだよ…ヒヒって。
──悪だくみ前提じゃないか…
よほど高く売りつけるつもりなのだろう。
「金って言うか…分け前って認識でいいんだな?」
こんなもんを売って買い付けたって記録に残されちゃ堪らん。
フォート・ラグダの連中に睨まれるのは御免蒙る。
「あぁ、暫くかかるが…ま、期待しとけよ」
…まったく、どうせ──かなりピンハネされるんだろうが…、売れなきゃ捨てるしかない首だ。
有り難い話だと思うことにしよう。
「しかし、これだけ全てを金にしたら…ちょっとした小金持ちになれるな」
…借金返済のためだ、しょうがないさ。
「おいおい? 随分暗いな? 儲けたんだろ? キナちゃんの借金返せるんじゃないのか?」
……多分、この村で借りた額どころの話じゃない──
聞いたら腰を抜かすだろうな。
「ま、結構な額さ」
と、それだけに留めて置く。
金の話は危険極まりないからな。
「あー…なんか聞かない方がいいみたいだな」
その通り…!
いいから払えるだけの金をくれ。俺は今、自前の金は殆どないんだ。
「ま、頑張れよ、としか言えないが…待ってろ、キングベアの分は今は無理だが、猪と熊、その他の分の代金は払おうじゃないか」
それだけ言うと、バズゥを置いて金庫のあるらしい建屋に入っていく。
その後ろ姿を見送り、
「本当なら、良い酒でも買っていくところなんだがな…」
ボンヤリと、並んでいる様々な産品を見る。
樽に入ったワイン、
新鮮な野菜、
脂ののった肉、
どれもうまそうだ…
穀物から作った菓子も良い匂いをさせているな。
あーくそ。
貧乏は辛いね。
必要経費以外は借金の返済に回したので、どうしてもこの手のものは我慢せざるを得ない。
借金返済の期限はなくなったが…
キナの身柄が心配で、早々放置できるわけもなし。
ヘレナやら、
冒険者どもが店に居座るのも気に食わないしな。
まぁ、
オパイがいっぱいなのは良いことだが…───バズゥ!
…キナの声が聞こえた気がしたが、うん…気のせいだな。
さて、
次は銃を修理に出さないとな。
このあとの予定を考えている内に、
「待たせたな。数えてくれ」
皮袋に入った硬貨を手渡される。
ここを借りるぞ、と目で確認し、
交易所の商品の一つである、ワイン樽の上に皮袋を逆さにして中身をぶちまけた。
ジャリリンキャリィィン───ィィン
ひー
ふー
みー…
うお、結構金貨あるな!
しかも、ちゃんと王国金貨…連合通貨は一切なし。優秀だね。
金貨はこっち、
銀貨はこっち、
んで銅貨~っと。
地羆の肝は同量の金貨相当というが…それほどじゃないな。
やはり暴落しているのか?
毛皮もな~…くそ。
だが、猪の分は中々いいぞ!
薬草も高く売れたな…!
でだ。
買取金額は…
何と占めて───
金貨13枚
銀貨5枚
銅貨44枚っと!
おー…悪くない、のか?
地羆の値段がやはり…くっそ。
半分どころじゃないな……
まぁ、昔に比べて、『猟師』としての腕が上がったおかげで楽に倒せたんだから、悪い稼ぎではないが……釈然としない。
…───金貨2000枚には程遠いな。
「すまんな…地羆の分はもう少し勉強してやりたいんだが…」
本当にすまなさそうに謝られれば、何も言えない。
とは言え、多聞に演技も含まれていることだろう。
俺ぁ…君がさっき見せた悪い顔を見てるからな…
「いや、十分だ」
それだけ言うと、金を袋に戻し、さっさと後にする。
やることは、まだまだあるんだからな。




