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27 殿下との距離とドレス作り

 無事な大役を何とかやり仰せてほっとしたのも束の間、それからもカリスト様との時間は日に日に増えていく。

 授業と授業のごく短い休み時間中にも構わず顔をだし、立ち話程度の会話をし、そして授業開始の鐘と共に去っていく。

 お昼も内庭で一緒に。

 人目を気にしたくないという理由で食堂のテラスで食べるということもすっかりなくなっている。

 それにしても。


「カリスト様、ち、近いですわ」


 今日も今日とて、お昼の時間。

 私たちはいつものように内庭で食事をしていた。

 肩が触れあうほどの距離にカリスト様がいる。

 日に日にカリスト様は私との距離を詰めてきていた。

 そのたびに、私の胸はこれまで感じたことがないくらい、ドキドキと高鳴ってしまう。

 きっとこの胸の高鳴りは、緊張のせい。

 そうとしか考えられないわ。

 このままいくと、そのうちカリスト様の膝に乗せられてしまいそうな気も……。


「トレイニ大公国との交渉だが、オリヴィエの言う通りに動いて順調に進んでいる。君がいなければ、質の悪い石炭を大量に買い、国益を損なっていただろう。礼を言う」

「私は、できるかぎりのことをしたに過ぎません。それよりも私の言葉を受け止め、実行に移して下さった賢明な陛下たちがいらっしゃったからで……」

「これは君の手柄だ。もっと誇っていい。母上も大層、喜んでいる。もちろん私も」


 カリスト様が? 何故?


「伯爵様はどうでしょうか」

「君が気にすることじゃない。父上もさすがに伯爵家への肩入れを諦めるだろう。父上ももう、公爵……いや、君が王室にとってかけがえのない存在だということを理解しただろうから」

「カリスト様は、それでよろしいのですか?」

「決まっている。君のことを誰もが認めているんだ。これ以上、嬉しいことはない」


 伯爵家が力を失うということは、それだけミリエルへのダメージになるのに。

 それとも殿下は、私を隠れ蓑として、ミリエルを側妃として迎え入れるつもりなのかしら。

 それは予想外だし、嫌。

 がんじがらめにされて自由が利かなくなるし、お飾りの王妃だなんて最悪だわ。


「そうだ。今日の放課後、空いているか?」

「は、はい」

「だったら迎えに行くから教室で待っていてくれるか?」

「どちらへ行くのですか?」

「内緒」


 カリスト様はどこかいたずらぽい笑顔を見せて言った。


 ……本当に殿下は変わられたわ。



 放課後、私はカリスト様と馬車で向かったのは王宮。

 カリスト様の私室へ通されると、中年の女性がいた。


「王太子妃様、ごきげんよう。わたくしはマダム・ハッサンと申します」

「私は王太子妃では……」

「今はまだ、だろ」


 少し後退ろうとする私の背中を、カリスト様が優しく押す。


「……ハッサン工房の方、でしょうか」

「王太子妃様に名前を覚えて頂けているなんて光栄の至りでございます!」

「あなたの作るドレスは社交界で有名ですから。……カリスト様、これは」

「月末に学校で開かれるダンスパーティーで着るドレスを、マダムに発注するんだ」

「学校の……」


 あぁ、そうだわ。

 石炭論争のことや、カリスト様が距離をつめてくることですっかり忘れていた。


「パーティー好きのオリヴィエが忘れるなんて、珍しいこともあるものだ」


 カリスト様は浮かれたように言った。

 私は曖昧に微笑んだ。

 ダンスパーティー。私の最大の過ち。

 回帰前。私は愚かにもミリエルに毒を盛った。

 ミリエルは一命をとりとめたものの、私は身ひとつで国から追い出された。


「……どうかしたのか?」

「いいえ、何でも。ですが、家にはたくさんのドレスがございますし、わざわざ新しいものをお作り頂くのは……」

「確かに君はたくさんのドレスを持っているだろう。でもまだ一度として、私は君にドレスを贈ったことがない。今度のダンスパーティーでは、私が贈ったドレスを着てもらいたい。駄目だろうか」


 回帰前はどれほどねだっても、受け入れてはくださらなかったせいで、自分で仕立てたドレスをカリスト様からのプレゼントと偽ったほど。


「ありがとうございます。カリスト様のご厚意、お受け致します」

「良かった」


 カリスト様はとても嬉しそうに、無邪気に笑われた。

 まただわ。また胸の奥がくすぐったい。

 これは一体何なのかしら。

 嬉しい……のとは少し違うような。

 回帰前はたくさんの経験をしたけれど、こんな感覚は一度も体験したことがない。

 ここにきて人生初体験って……。

 一応、お医者様に診てもらおうかしら。


「マダム、では早速、もろもろよろしく頼む。何かあれば呼んでくれ。私は執務室にいる」

「かしこまりました」

「では、オリヴィエ。また」


 カリスト様は優雅な笑みを浮かべ、部屋を出ていった。

 マダムは羨望が滲む眼差しを向けてくる。


「王太子妃様は愛されていらっしゃるのですね。ふふ、そんな方のドレスを作れるだなんて光栄ですっ!」

「あはは」


 どうしてこうなっているのかは分からないけど、カリスト様が愛していらっしゃのはミリエルなんです、とは言えないし。

 私は曖昧に微笑んだ。

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