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22 ミリエルの苛立ち

「オリヴィエ様のおかげで、首長国との問題が解決なさったという話だわ!」

「オリヴィエ様、ずっと首長国の王女様とご一緒していらっしゃったそうだわ」

「我が国が首長国と真珠の独占的な取引契約を結べたのは、オリヴィエ様のお陰らしいわ!」

「まあ……!」


 バン!


 私が勢い良く立ち上がると、くだらないことを喋っていたクラスメートたちがはっとしたように黙った。


「お待ち下さい、ミリエル様」

「ど、どちらへ……」


 取り巻きたちが煩わしく追いかけてこようとするのを睨み付ける。


「私がどこへ行こうと、あなたたちにいちいち言わなければいけないのっ!?」

「い、いえ……」


 顔を青くした取り巻きたちが引き下がった。

 本当に腹が立つ。

 今回の接待で、公爵家よりもずっと有能であることを示せるチャンスだったのに!

 首長国の王女だかなんだか知らないけど、あんな無礼な奴のせいで、陛下や王妃様、カリスト様の面前で恥をかかされたのよ!?

 私が一体何をしたというの?

 真珠が名産だというから、私のアクセサリーを見せただけじゃない!

 なのに引きちぎられて……。

 それに加えて、事態を収拾したのがよりにもよってあの高慢女だなんて!

 父上には叱責されるし、最悪だわ!

 それだけじゃない。

 私が真珠のブレスレットの件で、カリスト様から注意までされてしまった。


『下らない噂を流すのはやめてくれ。私は、君とバザールなど行っていないし、そのブレスレットを贈ってもいない』

『……あ、あれは、周りが勝手に誤解して、変な噂を流されてしまっただけです。私の責任では……』

『君が当事者になっているんだ。訂正して回る必要はないが、クラスメートたちにあれは間違いだと言うだけでも噂の広がりをある程度おさえられるのではないか? 放置しておくのはその噂を認めているようなものだろう。それから、オリヴィエにブレスレットを奪われそうになったという話もだ。あの時の状況を見ていた生徒が教えてくれた。オリヴィエは別にブレスレットを奪おうとなどしていなかった、と。それについてはどうだ』

『私にはそう思えたのです。オリヴィエ様は、私が殿下に近づくのを好ましく思っていらっしゃらないのは明らかで……っ』

『婚約者がいると分かっていて、君が近づいてくることにそもそも問題がある』

『え……?』


 どうしてそのようなことを仰るのですか?

 あなただって、オリヴィエにうんざりしていたのでしょう?

 私が初めて話しかけた時、笑顔で応えてくださったではありませんか。

 あの女が将来の妻であることを嫌っていたのではないの?


『だが、君を一方的に非難するのも間違っているな。私にも大きな非がある。そもそもオ婚約者がいながら、他の女性と親しく接していると誤解を受けるような真似は厳に慎むべきだった』

『な、何を仰っているのですか?』

『悪いが、これからは君とは距離を取らせて欲しい。君にはまだ婚約者がいないだろうが、将来できるだろう相手のために、周囲から誤解を受けるような真似は互いに慎もう』


 カリスト様はそうはっきり言ったのだ。

 そんなことありえない。

 おかしいわ。

 あんな感情的になる女のどこがいいの? 

 将来の王妃は私こそ相応しいに決まっているのに!

 婚約者がいないのも、私の婚約者は、カリスト様であるべきだからなのよ!?

 あの高慢な女なら、少し揺さぶってやれば簡単に挑発に乗って騒ぎを起こすはずだと思っていたのに、ぜんぜん乗ってこない。

 まるでカリスト様と私がどうなろうとどうでもいいことみたいに。

 一体どうなっているのよ。

 そんな我慢強い女だった?

 いいえ、そんなはずない。

 まるで人が変わったみたいじゃない。

 こんなところで引き下がる訳にはいかないわ。

 私はカリスト様の妻に、この国の女王になるの。

 だって、私こそ最も女王に相応しいんだから。

 お父様もお母様もそう言っているんだもの!


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