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15 「私たちは婚約者です! 用事がなければ、お会いすることも叶わないのですか!?」←回帰前の私の口癖

 バザール明けの学校。

 教室に向かう最中、私の行く手を遮るようにミリエルが現れた。

 彼女の背後には、取り巻きのクラスメートたち。


「オリヴィエ様、おはようございます」

「おはよう、ミリエル」


 軽く挨拶を交わし、そのまま通り過ぎようとした。


「あらぁ、ずいぶんみすぼらしいブレスレットですのねえ」


 取り巻きたちがクスクスと笑う。


「なんて古くさい」

「流行遅れ」

「あの赤い石、血のように不気味だわ」


 回帰前の私も同じようなものだったから人のことは言えないけれど、まったく物の価値が分からない人たちね。


「これ、何だと思います?」


 ミリエルはどこか勝ち誇るような笑みまじりにブレスレットを見せる。


「殿下がバザールで購入してくださって、プレゼントしてくださったものなんですよ。何でも南方の貝から採れる、とても希少性のあるものでぇ──」

「真珠ね」

「え?」

「アコヤ貝から採れる真珠でしょう」

「え、ええ。確かそういう名前だったかと。殿下が私に手ずからつけてくださったのですよ」


 窓から差し込む日射しを受け、真珠のブレスレットがきらりと光る。

 それを一目見た瞬間、眉を顰めてしまう。


「……よく見せてくれる?」

「ええどうぞ」


 小粒で、表面に細かなキズがいくつもあり、おまけに色合いが鈍い。

 怒りがこみあげた。

 これは悪徳商人がやる手口だ。

 現地ではとても値段のつかないクズ真珠を、何も知らない他の地域で売り出すのだ。

 他の地域の人たちは真珠への知見が欠けているから、物珍しさに惹かれて購入してしまう。

 バザールは知識のないカモをひっかけるのに格好の場所でもある。


「お、オリヴィエ様、痛いです……っ」

「あ、ごめんなさい」


 私はミリエルの手首から慌てて手を離す。

 あまりにひどいやり口に、つい手に力がこもってしまった。


「ミリエル。学校でつけるのはいいけれど、社交の場では絶対につけては駄目よ」


 ミリエルがにたりと笑う。


「嫉妬ですか? あなたは殿下から何ももらえなかったから」

「忠告はしたわよ」


 私は無視して教室に戻った。

 しかしその日、私が嫉妬のあまりミリエルから殿下がプレゼントした真珠のブレスレットを奪おうとしたという、明らかに間違った噂が流れたとクラスメートから教えられた。

 面倒なのでいちいち訂正はしない。

 どうせ私が根拠がないとどれほど言い立てたところで、噂というのは面白おかしく改変され、広まっていく。

 生徒たちにとって、私とミリエルが殿下を巡って争っているという構図は、暇つぶしのいい見世物だから。

 どうせそのうち飽きてしまうだろう。

 そう思っていたのだけど、昼休みに殿下が教室に訪ねてくるのは少し誤算だ。

 ミリエルとのことを責められるのだろうか。

 結局は、回帰前と同じ流れになるのかしら。憂鬱ね。


「別のところで話せるか」

「構いません」


 私たちは内庭へ向かう。

 これはさっさと先手を打っておこう。


「殿下、噂に関しては事実無根です。ミリエルが大袈裟に言い立てているだけです」

「噂?」


 殿下は怪訝そうに眉を顰めた。


「私が、ミリエルに殿下がプレゼントしたブレスレットを奪おうとした、というものです」

「……ミリエルに? 何も渡してはいない。なんだ、その噂は」

「真珠のブレスレットです。バザールで購入した……」

「なぜ私がミリエルとバザールに行かなければならないんだ」

「ミリエルが言っていました」

「私は行っていないし、ミリエルに何も渡していない」


 行ってない? どうして? 回帰前では行ったはず……。

 でも私を叱責するためでなかったら、殿下はどうして私をわざわざ呼び出したの?


「そんなことより」


 そんなことより?


「つけてくれているんだな」


 殿下は嬉しそうに頬を緩め、ブレスレットを見つめる。


「ええ、せっかくの頂きものですから。学校につけるには少し古風すぎるかもしれませんが」

「そうだな。でもよく似合うよ、やっぱり」

「ところで、どんなご用事が?」

「ん?」

「……どのような用事で呼び出されたんですか」


 すると、殿下は少し不満そうな顔をする。


「私たちは婚約者だ。用事がなければ会えないのか?」


 それは回帰前に、私の口癖では?

 どうして殿下がそれを口になさっているの?


「そういう訳ではありませんが……。わざわざ二人きりになるので。これまで学校でこのようなことはなかったかと」

「……他の人間に聞かせる必要はないだろう」

「はあ」


 しかし殿下は本当に特に話したいこともないようで、それからどうでもいいような世間話をする。

 それこそ脈絡もなく、今それを話さなければいけない、どうでもいいことを。

 あっという間に次の時間を知らせる鐘が鳴った。

 一体何の時間だったのかしら。


「殿下、教室へ戻りましょう」

「さっきの噂の件だが、ミリエルには注意しておく。私のことを含めて、変な噂を流さないように」

「殿下がそこまでなさらなくても」

「この噂には私も関係しているんだ。変な噂を広められるのは迷惑だ」


 確かに殿下からすれば、私との婚約が破棄されてない以上、噂先行でミリエルとのことが必要以上に広がり、陛下や王妃様の耳に達するを防ぎたいのだろうけれど、まるで本当に怒っているようね。


 ……殿下ってここまで演技がうまかったかしら?

作品の続きに興味・関心を持って頂けましたら、ブクマ、★をクリックして頂けますと非常に嬉しいです。

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