12 王太子カリストの喜び
オリヴィエを屋敷まで送り、私室に戻る。
今日はなんて充実した日だったのだろう。
寝椅子にごろんと横になりながら、今日を振り返った。
すると、自分でも驚くほどに、招待客と朗らかに話すオリヴィエの姿ばかり思い出すことに気付き、頬が熱を持つ。
彼女は一体、どうしてしまったのか。
彼女は煩わしいことを嫌い、身分が低い者を理由もなく憎悪した。
施設の子どもたちだけではない。
庶民のことも蛇蝎のごとく嫌っていた。
なのに、今日の彼女はまるで別人。
自分から進んで招待客たちの中に入り、相手が商人だろうがなんだろうが関係なく、微笑み、言葉を交わした。
あまりに積極的なものだから、話しかけられた商人の妻や娘たちのほうが戸惑っていたほど。
オリヴィエは彼らの言葉に耳を傾け、親しげに言葉を交わし続けた。
傍から見ていても、一瞬のうちに彼らの心を掴み、魅了していた。
彼女だけが宝石のようにきらめいて見えた。
その姿はまさしく、王太子妃。
その場の誰もが彼女に、自然と敬意を払う。
そしてオリヴィエが振り返り、私と目が合った途端、笑いかけてくれる。
ドクン、と大きく鼓動が弾んだのをはっきり意識した。
婚約者の一挙手一投足に目が離せないなんて、まるで初恋を知りたての子どもじゃないか。
ほら、こうして思い出しただけで頬が……。
「だらしのない顔だな」
「!」
その言葉に、意識が現実に引き戻される。
「ソウル、お前いつから……」
「ついさっき。侍従がいくら扉をノックしても反応がないから心配していたぞ」
「……気付かなかった」
それくらいオリヴィエのことを考えるのに夢中になっていたのか。
なんて恥ずかしい真似を。
体を起こす。
「今日のパーティーも盛況で、目標金額もクリアできた。いいことずくめだな。が、今の顔はそれを喜んでいたんじゃないだろ?」
ソウルは意味ありげな視線を向けてくる。
この年上の幼馴染は、分かっていながら、私をからかうためにわざとそんな持って回ったような言い方をする。
ぷ、とソウルが小さく噴き出す。
「何がおかしい」
「お前がそこまで笑み崩れた表情なんて、初めて見ると思ってな」
「……嬉しかったんだから、しょうがないだろう。私の理想のために、オリヴィエが初めて力を貸してくれたことが……。まるで父上と母上のお姿を見ているようで」
将来はあの二人のように仲睦まじく、互いが互いを支えられる夫婦でありたい。
両親も最初は政略結婚だった。
それでも傍から見ても二人の間に確かな信頼関係と愛情があることは分かる。
これまでオリヴィエとはそんな関係を築くことはできなかった。
会話を交わすたび、顔を合わせるたび、抱いていた期待が崩れ、失望することばかり増えていった。
そんな彼女がアイディアを出すだけでなく、様々に手を貸してくれたことが嬉しかった。
興奮だってしてしまうのは無理からぬことではないか。
あれほど嫌っていたはずの子どもたちと一緒に遊び、そしてあれほど美しい笑顔を振りまいていたオリヴィエ。
母上との茶会のこともそうだ。
いつもオリヴィエとの時間を過ごした後は不機嫌であられるというのに、笑みをたたえていらっしゃった。
「……今のオリヴィエとなら、うまく関係を築いていけるかもしれないんだ。どう思う?」
「確かにな。今の彼女なら王太子妃の務めを果たせそうだ」
ソウルの言葉に、自分が感じたことは決して間違いでないことを確認できて、さらなる喜びがこみあげた。
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