姉妹の絆
『このみさんはワタクシの事をどう思っていましたか?』
今度は麗からこのみに質問する。
『ひと言で言うとお姉さまは強いです。何があっても信念を曲げないですし。私は直ぐ迷って泣いてしまいます。』
『ふふふ、このみさんは泣き虫ですからね。ワタクシも泣きたい事はたくさんありましたわ。しかし、ワタクシを産んでくれたお母さまは早くに亡くなってしまい、お父さまはお仕事で大変でしたし、誰かに頼る事は出来ませんでしたの。』
麗は本当は寂しかったのだ。
『ワタクシは強がりだけで頑張ってきました。バスケットボールもそうですわ。誰にも負けてはいけないと思って必死でした。でもそれが事故を呼び、気付いたら回りには誰ひとり居なかったのです。』
『事故の後誰にも相手にされなくてもずっと学校に通っていたんですよね。私なら引き篭もっていました。』
『負けたくなかったのですわ。知香さんに会うまでは学校中が敵でしたの。』
もともと負けず嫌いだったところで親がいないので人に甘える事が出来なかったのだ。
『なんで知香さんには心を許したんですか?』
『最初知香さんが入学して男の子なのに女の子になるなんて変な子だと思いましたわ。それで知香さんがワタクシと同じ多目的トイレを使っていると聞いて、少しからかってやろうと思いましたの。でも知香さんは真っ直ぐワタクシに向き合ってくれましたわ。歳はふたつ下ですがワタクシは初めて信頼出来るお友だちだと思いましたの。』
知香は歳が上とか下とかは関係なく人の心のすき間に入り込んでいくのだ。
『最初にお家にお招きした時に知香さんがメイドさんになってくれたらとお願いしましたが断られましたの。でも一年経って、このみさんというとても素直で可愛い方を連れて来てくれて、とても感謝してますの。』
『お姉さま、突然ずるいです……。』
素直で可愛いと言われ、このみは照れた。
『お母さまの再婚を考えられたのはお姉さまと言っておりましたけど。』
もし、母の再婚話が無くこのみが突然養女にと言われていたらどんなにお金を積まれても了承する事はあり得なかった。
『お父さまが養女のお話をされた時に母ひとり子ひとりのあなたたちを引き離す事は出来ないと思いましたわ。お母さまとは前に一度だけお会いしただけでしたが、お父さまと合いそうな気がしましたの。このみさんに似ていらっしゃいますし。それに……。』
麗は一呼吸置いて恥ずかしそうに言う。
『ワタクシもお母さまに甘えてみたいと思いましたの。』
このみは麗の気持ちをくみ取り、麗の妹になれる事を嬉しく思った。
『明日はお母さまと一緒に寝てみては如何でしょうか?私は遥さんと寝ますので。』
『それではこのみさんとお母さまが一緒に寝られないではございませんか?』
『私は14年近くお母さまを独占して参りましたから大丈夫です。』
このみはにこりと笑った。
『お姉さま……大好きです。私も今井の娘として、お姉さまの妹として精進して参ります。』
『このみさんたら……。』
二人は手をつないで眠った。
『おはようございます、お母さま、遥さん。』
『おはようございます、麗さん、このみさん。』
翌朝になった。
『昨夜はお二人でどのようなお話をされたのですか?』
康子が麗に尋ねた。
『二人だけの秘密ですわ。ただ、このみさんから今日の夜はお母さまとワタクシに一緒に寝る様に言われましたの。』
『まあ、このみさん。どういう事?』
『母娘の会話をお楽しみ戴きたいの。この機会に是非お願い致します。』
このみは麗に充分甘える様伝えた。
お昼には三崎港に足を伸ばし、予約した老舗旅館でまぐろ尽くしのランチを楽しむ。
『お刺身も美味しいし、本当にみんなまぐろなのですね。』
刺身はもとより焼き物、揚げ物に前菜から小鉢、酢の物と全てがまぐろの様々な部位を使ったものが出された。
『人数がもう少し多ければ名物の兜焼きも予約したのですが。』
まぐろの頭をじっくり時間を掛けて炭火で焼いた兜焼きは見た目も迫力があり、頭の部分はコラーゲンも豊富で脂が乗って美味しいが上西以外は全員女性なので食べきれないだろう。
『食べてみたいけれどこのお料理だけで充分お腹がいっぱいです。』
来年は高校生になる知香たちを誘えば来てくれるだろうか?
そんな思いで三崎港を後にし、午後はマリンパークでイルカやアシカのショーや水族館巡りをして楽しんだ。
『遥さん、如何でしたか?』
『ありがとうございます。とても楽しく過ごせました。』
遥も、だいぶ普通に会話が出来る様になった。
『では遥さん、楽しんだところで昨夜お母さまに私のどんな事をお話したのか白状して戴きましょう。』
『このみお嬢さま、それはご勘弁下さいませ!』
弄ったりからかったりするのも今井家に染まってきたこのみと遥だった。




