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キャサリン再び

キャサリンは毎年夏の間だけこの海の家で働いているが、本職は新宿二丁目のお店のキャストで所謂オカマだ。


タイで性転換手術を受けたが帰国したら好きだった男性が別の相手と一緒になったという悲しい過去を持っている。


『今回はもう一人の……知香ちゃんは来てないのぉ~?知香のママさんたちと一緒に飲みたかったのにぃ~。』


『知香さんは受験生ですから。あの後、私たちバンコクで病院とかを見学に行ったんですよ。』


年末年始にタイのバンコクに行ったのはキャサリンの話を聞いたのがきっかけだった。


『そのまま取ってもらえば良かったのにぃ~。』


『キャサリンさん。あまりお話が長いと飲み物を注文しないで海に出ますわよ。』


麗が話を遮断した。


『ごめんなさいねぇ~。飲み物は何がいいかしらん?ワタシのおっぱいも特別サービスよぉ~ん。』


『ここは新宿ではありませんし、中学生が居るのですから。』


麗に睨まれ、キャサリンは静かになった。


一通り飲み物を頼み、注文をカウンターに通す。


『外にいるゴリラみたいな人、ワタシの彼氏よぉ~ん。』


あれから新しい相手が出来たのは喜ばしい。


飲み終わると一行は海に出た。


と言っても海に入って遊ぶのはこのみと遥だけであり、康子と頼子はパラソルの下で寝ている。


一方麗は上西を相手にバスケットボールでキャッチボールをしたり、砂浜の上でも出来るトレーニングをしていた。


『お姉さま、バレーボールをやりませんか?』


このみが麗を誘った。


バレーボールと言っても輪になってビーチボールを打ってラリーをするやつだ。


『お母さまや頼子さんも来て下さい。』


6人は輪になってビーチボールを打つ。


麗は自分の手に届く範囲のボールは確実に拾い、正確に相手の正面に返している。


『これはこれで練習になりますわね。』


『さすがお姉さまです。』



夕方になり、一行はホテルに戻った。


ロイヤルスイートルームにはツインの部屋がふたつあり、上西夫妻は別にダブルルームが用意された。


『遥さん、麗お嬢さまのお世話は大丈夫ですか?』


『は、はい。』


遥は頼子に念を押され、緊張した。


遥は日中、麗の世話をする事はあったが夜は勤務時間外なので初体験となるが、部屋のバランスを考えるとこのみと康子、麗と遥が一緒の部屋がベストなのだ。


『私、お姉さまの世話を致しますから今夜はお姉さまと一緒の部屋で宜しいでしょうか?』


このみが頼子に申し出た。


『このみお嬢さまの手を煩わす訳にはいきません。』


あくまでも麗の世話はメイドの仕事と頼子は言う。


『お姉さまと二人きりでお話したいのです。お願いします。』


『仕方のない妹ですわね。頼子さん、ワタクシからもお頼みします。お母さま、申し訳ございませんが遥さんと一緒で宜しいかしら?』


『良いですよ。遥さんにこのみさんの事を聞いてみたかったの。』


(そういう事になるのか……。)


このみは遥が変な事を言わないか心配になった。



食事が終わり、スイートルームのリビングで4人は寛いでいた。


上西夫妻は二人きりの時間を楽しんでいる様だ。


『お母さまはお酒は召し上がらないのですか?』


スイートルームの冷蔵庫にはいろいろな酒が入っている。


『私は飲めません。少し飲むと直ぐ顔に出てしまいます。』


去年はキャサリンの乱入に加え、知香の母・由美子とのぞみの母・千奈美が酒乱で大騒ぎだった。


『お姉さま、お休みの準備を致しましょう。』


麗は夜中にひとりで用を足す事が出来ないので寝る前には必ずトイレに行き、さらにオムツを交換する。


このみは手際よく一連の作業を終えた。


『早いですね。』


作業を見学している遥が感心した。


『これは先ずお姉さまに信頼される事が大事なの。遥さんも出来る様になりますよ。』


『妹にオムツを交換してもらうなんて恥ずかしいですわ。』


麗は手で顔を覆った。


『お姉さま、今までも散々やりましたよ。メイドでも妹でもこのみはこのみです。』


康子も窮屈なお嬢さまよりメイドの方がこのみには合いそうだと思う。


『お休みなさいませ、お母さま。』


康子に挨拶をして、麗とこのみは寝室に入る。


『お姉さま、一緒のベッドで寝ても宜しいでしょうか?』


ツインと言ってもキングサイズのダブルベッドなので二人が一緒でも充分な広さである。


『まあ、このみさんは甘えん坊さんですわね。どうぞ、お入りなさい。』


このみは麗に顔を近付けた。


『お姉さま……。』


『なんですの?このみさん。』


『今さらなのですが、まだ信じられないのです。これは夢ではないかって。』


このみは神妙な顔で麗に迫った。


『何故私を養女にしようと言われたのでしょうか?』


源一郎は康子と再婚する前段階からこのみを養女にしたいと言っていた。


『それはこのみさんの人柄ですわ。お父さまは人柄を見て、自分の傍に置きたいという方なのです。上西さんも頼子さんもリカルドもみんなそうでした。最初にこのみさんが来られたのは偶然ですが恵まれない環境に負けないで一生懸命なこのみさんにお父さまは胸を打たれたとおっしゃっていましたわ。』


『私はただ知香さんの後を追っていただけです。』


『知香さんのバイタリティーは才能だと思いますわ。しかし、このみさんは常に謙虚ですし、応援したくなりますの。ワタクシは知香さんも好きですが、このみさんも大好きですわ。』


姉に大好きと言われ、このみは嬉しくなった。


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