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どきどき初女装

次の日、康子と共に康太は再び三中の文化祭に向かい、直接生徒会室の戸をノックした。


『はい、どうぞ。』


康太を待っていた知香は康子の姿に驚いた。


『はじめまして、上田康太の母です。』


知香は康太を唆した事を母親に咎められると思いしまったと思った。


『実は昨日、康太が大勢の人の前で白杉さんの様に女の子になりたいって言ったとか聞きまして、康太に糺してみたんです。』


このみは康子の話を聞きながら昨日の会話を思い出す。


『そうしたら今日は白杉さんが服を貸してくれると言ったので失礼ながらお伺いした訳です。』


康子は知香に詫びた。


『昨日、保健室の浅井先生と一緒に康太さんにお話を聞きました。康太さんの気持ちはまだ固まっていない様ですが、女の子になりたい思いはかなり強いみたいです。私も悩んで結論を出して両親に話をしましたから康太さんにはちゃんと結論が出るまで焦らない様に話をしました。』


知香の話を聞いて、康子は意外としっかりしていると感じた。


『康太がそんな事を言ったのですか?』


『今お話した通りです。ただ、私の様になれとは言ってません。後悔しない様に自分で考える事を伝えました。』


なるほど、やみくもに自分と同じ様な存在だから安易に同じ道を強制しているわけではないと納得した。


『でも康太さんが結論を出した時は出来るだけ話を聞いて欲しいんです。私もそうですが、この先決して一人じゃ生きていけません。私も親や先生、友だちに支えて貰って初めて頑張れるんです。』


康子は知香が康太の傍にいれば大丈夫だと思った。


『分かりました。康太が結論を出すまで待ちます。その時はどういう結論でも親として支えてあげたいと思います。』


優しく、話の分かる母親で良かったと知香は安堵する。


話の途中、康太は知香の持ってきたブラウスとスカート、カーディガンを着て準備した。


『まぁ!』


康子は康太の女装が予想以上に似合っている事に驚いた。


『とりあえず私は生徒会の仕事で見回りに行かなくてはならないんですが、康太さんも一緒に連れて行って宜しいでしょうか。』


女装をしたまま康太は校内を歩くと言う。


『白杉さんにお任せします。中学一年生でそんなにしっかりされているのに驚きました。これからも康太の相談相手になって下さい。』


『じゃ、こうちゃん、行こっか。』


『はい。』


前日は女装したとはいえ教室の中だけだったが、今日は学校中を練り歩くのだ。


康太は緊張して知香の後を追った。


『ちょっと恥ずかしい。友だちに会ったらどうしょう?知香さん、初めて女の子の服着て外出た時どうだったんですか?』


康太は知香に聞いてみる。


『お正月の初詣だったけど、全然平気だったよ。クラスの子とその妹に会ったけど。』


廊下を歩くと何人もの知らない生徒から声を掛けられ、知香は笑顔で応えた。


『知香さん凄いですね。』


『え?何が。』


『だってみんなから声を掛けられたり手を振られたりされてますよ。』


『この腕章のおかげじゃない?』


知香は謙遜するが、自分が注目されている事に気付いていないみたいだ。


(いろいろな意味で凄い人だ。)


康太は知香がもともと天然なのか、わざと気付いていない振りをしているのか分からない。


『A組は昨日行ったから良いよね。』


そう言って素通りしようとしたが、クラスメイトから捕まった。


『チカ、少しくらい教室寄んなよ。』


(大森さん?)


知香のクラスメイト・大森のぞみは1年間放課後見守り隊で一緒だった事もあり、お互いの母の康子と千奈美も仲が良い。


『お、昨日の六年生だね。チカの妹みたい。』


のぞみは康太の事を覚えていない様だ。


『チカねぇの男の妹?』


のぞみの妹・いずみも来ている。


いずみとは見守り隊で一緒になった事はないが、のぞみと同じ様にメガネを掛けているので姉妹そっくりだという印象は残っている。


『ほら、さっき初詣で会ったって言った姉妹。大森のぞみさんといずみちゃん。』


『六年の上田です。ぼくも青小だよ。』


いずみはにこにこして可愛い。


『こうちゃんって呼んであげて。いずみちゃんは四年生。どっちが友だちたくさん出来るか競ってるの。』


知香がお互いを紹介する。


『チカねぇの妹なら友だちじゃ無いよね。青小だからいずみの友だちだよ!』


なんか面白い子だ。


『お姉ちゃん、チカねぇとこうちゃんと一緒に行って良い?』


いずみがのぞみに聞いてみるが、康太もいずみが一緒なら楽しそうだし恥ずかしさも軽減される気がした。


『チカはお仕事で回ってるから迷惑だよ。』


『のぞみん、一人も二人も変わらないし大丈夫だよ。ありちゃんより迷惑じゃないし。』


『じゃこうちゃん、いずみちゃん、行こうか。』


いずみを加えた3人で各教室を回っているうちに、少しずつ康太も自信が付いてきた。



『ご迷惑を掛けてすみません。ありがとうございました。』


生徒会室に戻ると待っていた康子が知香にお辞儀をした。


『私の方こそ連れ回してすみませんでした。』


『康太が知香さんみたいになりたいと言う気持ちが本当なら私も真剣に康太と向き合って考えます。』


康太は康子の思いに心の中で感謝する。


『知香さん、これからも宜しくお願いします。』


『焦らないでね。いつでも相談に乗るから。』


知香の言葉は力強く、康太は自信を持って康子と帰路に付いた。



『お母さん、ありがとう。』


『ごめんね。こうちゃんの気持ちに気付くのが遅くて。お父さんはたぶん理解してくれないと思うけど、知香さんの言った様に焦らないで頑張ろう。』


こうして康太は女の子への道を歩き始めた。


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