表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/62

お父さまといっしょ①

文化祭初日の朝、二年C組の生徒たちは全員で最後の準備をしている。


教室の机を二つ合わせて白いクロスを斜めに掛け4人が座れる様にイスを配置した。


『これで装飾は完成だね。じゃあローテーションの最初の組と上田さん、着替えちゃって。』


学級委員の久保田菜摘が指示を出す。


『え?開会式の前に着替えちゃうの?』


『そうよ。開会式が終わったら直ぐスタンバイだから。他のクラスだってやっているし。』


他の生徒のメイド服はミディ丈だがこのみはロングスカートなので着慣れた服だが校内を歩くのは大変だ。


このみたちは控え室として借りている家庭科室で着替え終わると裾を摘まみ上げて体育館に急ぐ。


体育館に入ると、必然的にライバルの三年C組の生徒たちとめが合う。


三年C組の制服たちも一部メイド服を着た生徒がいる。


パッと見で二年C組は清楚に見えるが、カラフルな三年C組は華やかさに勝る。


全校生徒が座り、文化祭実行委員長の北野が挨拶を始めた。


『みなさん、おはようございます。今日、明日の文化祭、準備は宜しいでしょうか?今年は目玉対決などもあり各クラス盛り上がっていますので事故等がない様頑張って下さい。では、白杉生徒会長、開会宣言をお願いします。』


知香はこの後直ぐにこの体育館で始まる劇のシンデレラ姿で登場した。


(さすが知香さん。似合ってるな。)


『おおーっ!』


まさか生徒会長がシンデレラの格好で挨拶をするとは思わなかった生徒たちが歓声を上げる。


『只今より、2021年度市立第三中学校文化祭開会を宣言します!』


このみはこの後直ぐに体育館で始まる知香のクラスの劇を観たいと思ったが、メイド長という役職のため初日の最初は教室にいなければならない。


(明日は観られるかな?)


後ろ髪を引かれる思いで教室に向かった。


9時を過ぎ、開場されたがなかなか人が入らない。


『暇だねぇ。』


他の生徒はついあくびが出てしまうがこのみは直立したまま静かにしている。


(たぶん今頃体育館は人が集まって大変だろうな。)


このみは2年前に初めて知香に会った時、知香目当ての卒業生や生徒の父母で教室がいっぱいだった時を思い出していた。


『上田さん。誰も来ないから少し楽にしなよ。』


『大丈夫。10時を過ぎれば来るよ。』


知香のクラスの劇が終わるのは10時頃だし、歩き疲れた父母たちが休みたいと思い始めるからその頃には客が来るとこのみは読んでいる。


『いらっしゃいませ。』


最初の客は二年C組の岡村博和の母親と妹だった。


『お兄ちゃん、メイド服可愛い~!』


『なんで俺の担当の時に来るんだよ?後で案内するって言ったのに。』


『岡村くん。言葉遣い、気を付けて。』


メイド長のこのみは直ぐダメ出しした。


『大変申し訳ございません。こちらの席にどうぞ。』


岡村が母と妹を席に案内した。


『みなさん、お身内の方でもお客さまという事を忘れてはなりません。言動にはお気を付け下さい。』


このみはメイドたちに注意をしながら自分が頼子になった気がした。


10時を過ぎ、廊下がざわつき始めた。


『今井さん、こちらです。』


『え?お父さま?』


担任の田口先生が源一郎と康子、リカルドの3人を案内して教室に入ってきた。


『いらっしゃいませ。』


このみが深々とお辞儀をした。


『やっぱりこのみのメイド姿は可愛いなぁ。』


源一郎は上機嫌である。


『お席までご案内致します。こちらへどうぞ。』


まさか源一郎たちが来ると思わなかったので驚いたが、たった今他の生徒に身内もお客さまと言ったばかりだ。


このみは他の生徒のお手本となる様に源一郎たちを案内した。


『さすがねぇ、岡村くんとは違うわぁ。』


比べる相手が違うとは思うが、メイドの生徒たちはこのみに感心した。


『ご注文を承ります。』


『アイスコーヒーを4つお願いします。』


『アイスコーヒーを4つですね。畏まりました。』


オーダーといってもメニューはアイスコーヒーとウーロン茶、それにジュースが2種類くらいしかない。


オーダーを通した後、言葉遣いに気を付ければ身内や友人と会話をするのは構わないというルールがあるのでこのみは源一郎たちの席に戻った。


『お父さまもお母さまも来られるとは聞いておりませんでしたので驚きました。』


『先生のところに連絡が入ったの。上田さんには内緒にして欲しいって。』


田口先生は知っていたのだ。


『康子さんが是非一緒に行きたいと言ってな。ゴルフをキャンセルしたんだ。先に知香くんの劇を観てきたので遅くなったがな。』


『だいぶ観客が盛り上がっていたわ。このみさんも頑張りなさい。』


回りを見ると徐々に席が埋まってきた。


『お父さま、お母さま。11時になれば私も交代しますので少々お待ち戴ければご案内致します。』


『上田さん、ご自宅でもその様にお話されているの?』


『はい、先生。お姉さまほどではございませんが。』


このみはお嬢さまらしく微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ