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突然の来訪者

朝、いつものようにダイニングテーブルを囲み朝食を摂っていると、麗がこのみに話し掛けた。


『このみさん、今日のご予定はどうなっていますか?』


『はい、お姉さま。広田先生が10時に入らして、4時までお勉強です。』


『そうですか。今日はお昼に来客がありますのでワタクシの方からお話しておきましょう。』


麗のお客ならこのみは関係ないはずだが、このみの予定を変更する客なんて誰なのかこのみには分からなかった。


(知香さんは受験生だから来ないだろうし。)


『お母さま、申し訳ございませんが、お昼は二人分余計に用意して戴けますでしょうか。』


『承知致しました。』


(お母さん、知っているのかな?)


このみはもやもやした気分で食事を終え、勉強の準備に入った。


『おはようございます。』


いつもより遥が来るのが早い。


『遥さん、どうしたの?』


『今日は頼子さんがテストをすると言われて早めに来ました。』


(テスト?私も頼子さんからいろいろテストを受けたけど、なんだろう?)


遥が通らなければならない道は全て通ってきたこのみだが、頼子の意図はまだ分からない。


家庭教師の広田が来て勉強が始まるが、気になって集中出来ない。


『どうしました?ぼーっとしていてはダメですよ。』


このみは何度も広田先生から指摘される。



一方、遥は頼子からテストの内容を知らされる。


『良いですか、遥さん。今日はこれから麗お嬢さま、このみお嬢さまのお友だちの白杉知香さんがお見えになります。知香さんは今井家にとっても大事な方です。遥さんがしっかり知香さんを案内出来るかが今日の試験です。』


『はい、かしこまりました。』


インターホンが鳴り、遥は受話器を上げる。


『どちらさまでいらっしゃいますか?』


まずは噛まないで言えた。


『白杉です。』


(出たぁ!恐怖の生徒会長!)


遥は知香が苦手だ。


入学して最初に食って掛かったが、簡単に手玉に取られたのだ。


それ以来、面と向かって話が出来ない。


『麗お嬢さま、このみお嬢さまのお友だちの白杉さまでございますね。承っております。少々お待ちくださいませ。』


胸の鼓動を押さえながら遥は完璧な応対をした。


『さあ、行ってらっしゃい。』


頼子に押されて遥は知香たちを出迎える。


『お待たせ致しました。ご案内致します、どうぞこちらへ。』


ロボットの様に歩く遥を見かねて知香が声を掛けた。


『遥ちゃん、頑張って。』


遥は自分の気持ちを見透かされている様でますます緊張した。


『お気遣い、恐れ入ります。』


遥は硬い表情のまま知香たちを案内する。


『こちらで少々お待ち下さいませ。』


知香と豊がソファーに腰掛けたところで試験終了の様である。


頼子が来て、知香に尋ねた。


『いらっしゃいませ、知香さま。本日の応対は如何でしたでしょうか?』


頼子と知香は目が合ってお互いニヤリと笑う。


『完璧でした。少し堅い感じでしたが。』


二人にお茶が淹れられるが、豊は緊張している様だ。


ドアが開き、頼子が押す車イスに乗った麗が現れる。


『知香さん、ごきげんよう。』


『こんにちは。ご無沙汰しています。』


二人の挨拶は一見儀礼的に見えるがお互い信頼する相手に久し振りに会った安堵感が見てとれた。


『あなたは先日いらした……。』


『こんにちは、このみさんの友人の清水豊と申します。』


『このみさんのご友人とお聞きしてはいましたが、貴方でしたのね。このみさんも喜ぶでしょう。』


麗は気さくに豊に話し掛けた。


『あの、このみさんは今……?』


『家庭教師の先生とご一緒にお勉強中ですわ。このみさんもだいぶ学力が上がって来たと先生もおっしゃっていますわ。』


一年の時に同じクラスだった豊はこのみがあまり勉強が得意とはいえない成績だと知っていた。


『失礼致します。』


康子が入ってきた。


『知香さん、こんにちは。あら、清水さんでしたの?このみさんのお友だちって?』


『こうちゃんのお母さん、ご無沙汰しています。』


知香が立ち上がって挨拶をした。


『どうも……こんにちは。』


豊も続けて挨拶をする。


康子は今まで厨房で昼食を作っていたはずだが、そうとは思えない装いである。


『麗さん、昼食の準備が整いました。』


『いつも申し訳ございませんわ。みなさん、どうぞこちらへ。』


『お食事はおばさんが作っているんですか?』


知香が不思議そうに聞いてきた。


『そうですよ。結婚の条件としてお話したでしょう。今まで普通の主婦だったのに、何もしないで暮らすのは苦痛だって。厨房は今の私の居場所なの。』


康子の話に知香は納得した様だ。


ダイニングテーブルにはすでに食事が並べられ、このみが来るのを待つだけとなった。


『失礼致します。』


ノックの後にこのみの声がして、豊は息を飲んだ。


『え?知香さん、清水くん。』


来客があるとしか聞いていなかったこのみは、知香と豊の顔を見て驚いた。


豊は編み上げた髪に清楚な白いブラウス姿のこのみを見て目が点になった。

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