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第7話 念願のシステムキッチンと、胃袋を掴まれた王子様

 ガンテツ親方率いるドワーフ軍団との宴会から、数日が過ぎた。


 我が家の庭には、彼らが置いていった「鉄の延べ棒(インゴット)」が山積みになっている。

 これだけあれば、アレが作れる。


「ふふふ……やっと、やっとまともな料理ができるわ!」


 私は腕まくりをして、鉄の山を見下ろした。


 今日のリフォーム計画は、台所の全面改修。

 石を積んだだけの簡易かまどとはおさらばして、前世の記憶にある『システムキッチン』を再現するのだ!


「マリエル、今日は何を作るんだ? また風呂か?」


 朝の鍛錬を終えたアレクセイが、タオルで汗を拭きながらやってくる。


 最近の彼は、私のDIYを見るのが楽しみで仕方ないらしい。キラキラした目で見てくる。


「今日は『キッチン』と『フライパン』を作ります! アレクセイさん、美味しいご飯が食べたかったら手伝ってください!」


「望むところだ。君の飯のためなら、山の一つくらい切り崩してみせよう」


 頼もしすぎる返事が返ってきた。


 よし、作業開始だ!


 ***


 まずは、調理器具からだ。

 私は鉄のインゴットを一つ手に取り、作業台(切り株)の上に置いた。


 イメージするのは、熱伝導率が高く、焦げ付きにくい鉄のフライパン。

 厚みは均一に、底は平らに。持ち手は熱くならないように木でカバーする。


「――【創造クラフト】!」


 魔力を流し込むと、硬い鉄が飴細工のように形を変えていく。


 ドワーフたちは「叩いて鍛える」ことに拘るけれど、私の魔法なら分子レベルで結合を変えられるので、強度は十分だ。


 数分後。

 鈍い黒光りを放つ、直径三十センチの大型フライパンが完成した。


「できた! これならお肉も野菜も豪快に焼けるわ!」


「……ただの鉄塊が一瞬で鍋になったな。ドワーフが見たら卒倒しそうだ」


 アレクセイが苦笑しているけれど、私は止まらない。


 続いて、薄く伸ばした鉄板でボウルやバットを作り、余った鉄で包丁も新調した。切れ味抜群の万能包丁だ。


 道具が揃ったら、次は設備だ。屋敷の台所スペースへ移動する。


「アレクセイさん、そこの古い棚を撤去して、代わりに私が加工した石材を並べてください!」


「了解だ」


 彼が軽々と石材を運び、L字型に配置していく。

 私はその石材に【創造クラフト】をかけ、表面を大理石のように滑らかに仕上げ、さらに『シンク』となる窪みを作る。


 もちろん、お風呂作りで培った技術で、水栓も完備だ。


 そしてメインディッシュは、コンロ。

 魔石を埋め込み、火力を「弱火・中火・強火」の三段階に調節できるダイヤルをつける。


「完成……! 名付けて『アストラ・カスタムキッチン一号』!」


 そこには、王宮の厨房にも負けない、機能美あふれるキッチンが誕生していた。


 清潔な白い石のカウンタートップ。黒鉄の五徳。そして、蛇口をひねれば清水が出るシンク。


「素晴らしい……。これなら、どんな料理でも作れそうだな」


 アレクセイも感心してカウンターを撫でている。


「ふふ、驚くのはまだ早いですよ。本当の『ご馳走』はこれからです!」


 私は新品のフライパンを手に取り、不敵に笑った。


 さあ、こけら落としといこうじゃないか。


 ***


 今日のメニューは、この数日間ずっと食べたかった『ハンバーグ』だ。材料は揃っている。


 アレクセイが狩ってきたホーンラビット(※味は極上の豚肉に近い)と、野牛の赤身肉(※牛肉に近い)。これを贅沢な合挽き肉にする。つなぎのパン粉は、保存食の堅いパンを砕いて使用。卵は森で拾った鳥の卵だ。


「マリエル、その肉をどうするんだ? ステーキじゃないのか?」


「見ててくださいね。まずはこのお肉を細かく刻んで……」


 私は二本のナイフを両手に持ち、タタタタタッ! と高速で肉を叩き始めた。

 ミンチを作るのだ。


 ボウルに挽肉、炒めた玉ねぎ(もどき)、パン粉、卵、塩コショウを入れて、粘りが出るまで手で捏ねる。


 ペチ、ペチ、と空気を抜く音を聞きつけて、モコが足元にやってきた。


「メアッ?(なにつくってるの?)」


「モコのご飯じゃないよー。でも、あとで少しあげるね」


 小判型に整えたタネを、熱したフライパンへ投入する。


 ジュワァアアアアア……ッ!!


 屋敷中に、食欲をそそる脂の弾ける音が響き渡った。同時に、香ばしい肉の香りが立ち込める。


「ゴクリ……」


 背後でアレクセイが喉を鳴らす音が聞こえた。振り返ると、彼は犬のように鼻をひくつかせ、フライパンを凝視している。


「な、なんだこの香りは……! ただ焼くだけとは違う、複雑で濃厚な……」


「蓋をして蒸し焼きにするのがポイントなんです。こうすると、肉汁が逃げないんですよ」


 仕上げに、肉汁が残ったフライパンに赤ワイン(ドワーフの土産)とケチャップ(森のトマトで作った)を煮詰めて、特製ソースを作る。


 それを焼き立てのハンバーグにたっぷりとかければ――。


「お待たせしました! 『特製・肉汁たっぷりハンバーグ』です!」


 ***


 リビングのテーブルに、湯気を立てる皿が並んだ。付け合わせは、揚げ焼きにしたポテトと人参のグラッセ。彩りも完璧だ。


「い、いただきます……」


 アレクセイは恭しくナイフとフォークを構えた。ナイフを入れた瞬間、溢れ出す透明な肉汁。


「おおっ……!?」


 彼は一口サイズに切ったそれを、口へと運ぶ。

 咀嚼した瞬間、彼の動きが止まった。


「…………」


「ど、どうですか? お口に合いますか?」


 沈黙が怖い。

 もしかして、庶民的な味すぎたのだろうか。


「……マリエル」


 彼がゆっくりと顔を上げた。その蒼い瞳は、潤んでさえいた。


「結婚してくれ」


「はい?」


「いや、間違えた。……美味すぎる。なんだこれは。俺は今まで何を食べて生きてきたんだ?」


 彼は興奮気味にまくし立てると、猛烈な勢いで食べ始めた。


「肉が、口の中でとろける! 噛むたびに旨味が爆発する! このソースの酸味と甘味も絶妙だ!」


「ふふ、よかった。ご飯も炊いたので、一緒にどうぞ」


「この白米とも合う! 無限に食えるぞ!」


 あんなに上品な顔立ちの人が、頬にソースをつけるのも構わずにパクついている。

 作り手として、これ以上の喜びはない。


「メアッ! メアッ!」


 足元では、私がお裾分けしたミニハンバーグを、モコが夢中で食べている。

 どうやら、一人と一匹の胃袋を完全に掴んでしまったようだ。


 あっという間に完食したアレクセイは、満足げに椅子に背を預け、ふぅと息を吐いた。


「……参ったな」


「何がです?」


「こんなに美味いものを毎日食べさせられたら、もう他の場所では生きていけない。……俺は一生、君の尻に敷かれる運命らしい」


 彼は冗談めかして言ったけれど、その瞳は熱を帯びて私を射抜いていた。


「責任、取ってくれるんだろう?」


「〜〜ッ///」


 意味深な言い方に、顔が沸騰する。ハンバーグの熱気のせいだけじゃない。


「そ、それは……アレクセイさんの働きぶり次第ですね! 明日は井戸にポンプをつけたいので、手伝ってくださいね!」


「ああ、望むところだ。君のためなら、竜だって狩ってこよう」


 こうして、念願のキッチンを手に入れた私は、最強の「胃袋の支配者」となったのだった。

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