表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

第11話 黒騎士の困惑と、男たちのログハウス作り

 アストラの朝は早い。

 小鳥のさえずりと共に目覚め、美味しい朝食を食べ、DIYに勤しむ。それが私のルーティンだ。


 しかし、今朝は少し様子が違っていた。


「……ありえん」


 リビングのソファで、黒騎士フレデリックが頭を抱えていた。

 彼は昨日、そのまま私の作った『人をダメにするクッション(聖獣の毛100%)』の上で寝落ちしてしまったのだ。


「この私が……近衛騎士団長たる私が、寝坊だと? しかも、野営地でもないのに、一度も夜警に起きなかったとは……」


 彼は信じられないという顔で自分の手を見つめている。

 どうやら、あまりの寝心地の良さに、戦士としての本能すらオフになってしまったらしい。


「おはようございます、フレデリックさん。よく眠れましたか?」


 私が声をかけると、彼はハッとして居住まいを正した。


「ま、マリエル殿! 失態をお見せした。……しかし、あのクッションは魔導具か何かですか? 吸い込まれるような感覚があり、抗えなかったのです」


「ふふ、ただのクッションですよ。さあ、顔を洗ってきてください。朝ご飯ができてますから」


 ***


 今日の朝食は、焼き立ての『厚切りバタートースト』と、新鮮な野菜のポトフだ。

 パンは、石窯で焼いた自家製酵母パン。バターは、森の野牛のミルクから分離させて作った手作りだ。


「いただきます」


 フレデリックは、やはり一口食べて震え出した。


「……パンが、甘い。外はカリッとしているのに、中はしっとりとして……そしてこの黄色いバターの芳醇な香り……!」


「森で採れた岩塩を少しかけてあるんです。美味しいでしょう?」


「殿下……いえ、アレクセイ様。貴方様はずっとこのような食事を?」


(……今、さらっと『殿下』って言いかけたわよね? もう隠す気ゼロじゃない? まあ、劇団の設定を守ろうとする心意気は買うけど!)


 私は心の中でツッコミを入れつつ、気づかないフリをしてコーヒーを啜った。


「ああ。ここに来てから、体重が少し増えた気がするが、筋肉量も増えたから問題ない」


 アレクセイがトーストを齧りながら笑う。

 男二人が並んで朝食を食べている光景は、なんだか暑苦しいけれど、賑やかで悪くない。


 食後のコーヒー(代わりの木の実茶)を飲みながら、私は提案した。


「さて、フレデリックさんもここに住むとなると、お部屋が必要ですよね」


 昨日はソファで寝かせちゃったけれど、ずっとそうするわけにもいかない。

 この屋敷には空き部屋があるけれど、リフォームが追いついていない。


「俺は床で十分ですが……」


「ダメです。DIY好きの名折れです。……そうだ! せっかく男手が増えたんですから、離れ(ゲストハウス)を建てちゃいましょう!」


「「 離れ? 」」


 二人の声が重なった。


「はい。庭の広いスペースに、男性陣専用の『ログハウス』を作るんです。アレクセイさんとフレデリックさんの部屋、それに武器の手入れができる作業場も付けましょう!」


「おおっ! 自分たち専用の城か! それは燃えるな!」


 アレクセイが乗り気になった。やっぱり男の人は「秘密基地」っぽい響きが好きだよね。

 フレデリックも、「殿下の城を作るとなれば、全力を尽くさねば……」と真面目な顔で頷いている。


(また『殿下』って言ってる! しかも真顔で! アレクセイさんも否定しないし! ……まあいっか、男の人の『ごっこ遊び』は本気だっていうしね)


 よし、決まりだ! 今日は大型建築DIYだ!


 ***


 まずは木材の調達だ。三人(と一匹)で裏山へ入る。


 必要なのは、太くて真っ直ぐな杉の丸太。

 普通なら切り倒して運ぶだけで数日かかる作業だが――。


「ふんッ!!」


 ズドォォォォン!!


 フレデリックが剣を一閃させると、巨木が根本から切断されて倒れた。

 アレクセイも負けじと、別の木を切り倒す。


「どうだフレデリック、腕は鈍ってないか?」


「いえ、毎日の鍛錬は欠かしておりませんので。しかしアレクセイ様、その剣速……以前より上がっておられませんか?」


「マリエルの飯を食ってるからな。活力が違う」


 二人の超人(騎士)のおかげで、あっという間に数十本の丸太が確保できた。

 しかも、彼らはそれを「軽めの筋トレだな」とか言いながら、一人で二、三本ずつ担いで運んでいく。

 重機がいらないって素晴らしい。


 現場に戻ったら、私の出番だ。


「皮むきと乾燥は魔法でやりますね! 【創造クラフト・ドライ】!」


 丸太の樹皮を剥ぎ、内部の水分を一瞬で抜く。これで木材が反ったり割れたりするのを防げる。


「基礎は石組みでガッチリと。その上に、丸太を井桁いげたに組んでいきます!」


 私が設計図を書き、二人が組み立てる。

 丸太の刻み(ノッチ)を入れるのは、彼らの剣技ならミリ単位で正確だ。


 ガツン! ガツン!

 小気味よい音が森に響く。


「おいフレデリック、そっちが少し浮いてるぞ」


「む……修正します。しかし、釘を使わずに木を組むだけで、これほどの強度が出るとは」


「マリエルの設計は完璧だからな」


 男たちの連携もバッチリだ。

 私はその間に、窓ガラス(雲母製)や、ドアノブなどの金具を作っていく。


 ***


 夕方。

 夕日が森を赤く染める頃、庭の一角に立派な建物が出現していた。


「――完成!!」


 野性味あふれる丸太組みの壁。屋根には、薄く加工したスレート石を敷き詰めた。

 広々としたウッドデッキも完備した、男のロマン溢れる『ログハウス風・離れ』だ。


「素晴らしい……! これほどの砦が、たった一日で完成するとは!」


 フレデリックが完成した壁を撫でて感動している。

 砦じゃないよ、ゲストハウスだよ。


「内装はシンプルにしましたけど、家具はこれから揃えていきましょうね」


「十分すぎる。ありがとう、マリエル。ここなら気兼ねなく剣の手入れもできる」


 アレクセイも満足そうだ。

 二人の部屋ができたことで、母屋(私の城)のプライバシーも守られるし、一石二鳥だ。


「さて! 重労働のあとは宴会ですね!」


 私は石窯へ向かった。今日のご褒美ご飯は、これしかない。


 ***


 三十分後。


 ログハウスのウッドデッキに、大きな丸い皿が運ばれた。


「こ、これは……パイ?」


 フレデリックが目を丸くする。

 そこにあるのは、こんがりと焼けた生地の上に、真っ赤なトマトソース、とろけるチーズ、そしてたっぷりのベーコンとバジルが乗ったもの。


「『ピザ』です! 手で持って、豪快に食べてください!」


 私が手本を見せると、二人は恐る恐るピザを手に取り――かぶりついた。


「!!!」


 サクッ、モチッ。

 生地の食感の後に、熱々のチーズとトマトの旨味が口いっぱいに広がる。


「熱ッ、でも美味い! なんだこの中毒性のある味は!」

「チーズが伸びる! 塩気がたまらん! これは酒が進む味だ!」


 二人はハフハフと言いながら、次々とピザを平らげていく。

 用意しておいたエール(ドワーフの土産)との相性も抜群だ。


「はぁ……生きててよかった」


 フレデリックが、空になったジョッキを置いて空を見上げた。


「殿下。私、決めました」


「何をだ?」


「帝国には、戻りません」


「ぶっ」


 アレクセイがビールを吹き出しそうになった。


「おい、騎士団長がそれでいいのか?」


「構いません。国には『殿下は見つかりませんでした』と報告書を送っておきます(嘘は言っていない)。……こんな美味い飯と、快適な寝床を知ってしまっては、もうあの堅苦しい城には戻れません」


 黒騎士フレデリック、陥落。

 こうして、アストラの地にまた一人、頼もしい(そして胃袋を掴まれた)住人が定着することになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ