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第四十話 「ミレスとオルティッシオとの再会(中編)」

 セバスチャの戦斧がオルティッシオに勢いよく振り落とされた。


 ぐあぁんとけたたましい轟音が響く。

 

 思わず眼を(つむ)る。

 

 あ~なんてこと……。

 

 魔力欠乏症なんて言い訳だ。


 私が……私のせいだよ。


 なぜ、もっとうまく注意できなかったのか。


 オルティッシオ……。

 

 馬鹿で横暴で粗野で、散々迷惑を被った……それでも死んだのは悲しい。


 オルティッシオは私と同じだ。

 ティムちゃんやティレアさんを大事に思う同士だったのだ。

 

 仲間の(かたき)だ。


 自分のミスでオルティッシオは死んだ。


 せめて敵わないまでもセバスチャに一矢報いる。


 そう決意し、おそるおそる眼を開けた。


 えっ!? 血が出てないよ!

 

 オルティッシオの死体と血だまりがない!?


 オルティッシオの頭は、セバスチャによって見るも無残にかち割られたと思った。


 凄惨な光景を想像していたのに……。

 

 オルティッシオは、普通に仁王立ちしている。


 それどころか「ふっふっふっ」と不敵な笑みを浮かべているのだ。


 生きてる!?


「オルティッシオさん、大丈夫ですか?」

「当然だ。ぬるい、ぬるすぎる攻撃だ!」

「ば、ばかな……」


 セバスチャは、わなわなと震えていた。

 

 さもろう。


 セバスチャの戦斧は、最高のタイミングで振り下ろしていた。それが当たったにもかかわらず、オルティッシオは平気な顔でピンピンしているのだ。


「オルティッシオさんが無事で本当によかったです」

「人形、無用な心配だ。このようなクズ鉄の一撃、痛くも痒くもないわ」


 クズ鉄って……。

 

 セバスチャが持っている戦斧(ハルバード)は見るからに一級品だ。


 金剛鉄を使っている名工だろう。


 おそらく数百万ゴールドの価値がある。


 さすがプロの軍人、セバスチャの装備だ。


 それは同じ軍人のオルティッシオなら理解できるはずだ。


 性分なのかな?


 余計な一言で、この人は自分の株を下げている。


 黙っていれば、オルティッシオは超一流の軍人なのに。


 あの振り向いた一瞬でセバスチャの攻撃の軌道を予測、打ちつけられる箇所に最大限に闘気を集中させて防いだのだろう。


 一歩間違えれば一刀両断されていたのに、類まれなる戦闘センスだ。


 セバスチャの攻撃を上回る闘気。

 一瞬で軌道を予測したその動体視力。

 迅速に闘気を移動させた戦闘センス。

 

 オルティッシオは、東方王国の第二護衛隊長を務めるだけあるよ。


「オルティッシオさん、さすがです。すごい技術でした」

「ふん、自慢にもならんわ。雑魚の一撃を止めたぐらいではな」


 いえ、セバスチャは雑魚じゃなくて一流の軍人です。


 あぁ、なんでこんな言い方しかできないんだろう?


 言動さえ改めれば、英雄と讃えられてもおかしくないのに。

 

 本当にもったいない。


「オルティッシオさん……」

「なんだ、文句でもあるのか?」

「いえ、別に……オルティッシオさんが無事でよかった、それだけです」

「人形、あまりふざけた事を抜かすな。無事なのは当然だ。何度言えばわかる。このような雑魚の一撃、我が鋼鉄の肉体の前ではかすり傷一つつかぬわ」


 オルティッシオは、どんと胸を張る。


 言動が本当に子供だ。

 

 かすり傷一つつかないって……。


 うん!? よく見るとオルティッシオの額は血で滲んでいた。


 さすがにかすり傷はついたようだ。


 このままでは、ポタポタと血が垂れてきそう。


「オルティッシオさん、怪我してますよ。これ使ってください」


 常備しているハンカチをオルティッシオに手渡す。


「怪我だぁ? 何をたわけたことを言っておる!」

「ほら、額ですよ」


 わかっていない様子のオルティッシオに、ここっと指を指す。


「ぬ!?」


 オルティッシオは、言われて初めて気づいたようだ。


 額に手を当て、それを見る。


 額が切れている事を手についた血で確認した。

 

 そして……。


「ち、違うんだ。これは違うぞ」


 オルティッシオが猛烈な勢いで否定してきた。


「何が違うんですか。かすり傷ですが、血は出てます」

「勘違いするでない。これは古傷が開いたのだ。先日、ティレア様からデコピンを賜ったときにな。決してこのような小虫如きの一撃で受けた傷ではないのだ」


 いやいや、この人何を言ってるの?

 

 何か譲れないものがあるようだ。

 

 それ(デコピン)のほうが恥ずかしいと思うけど……。


「わかりました。とにかく拭いてください」

「うぬぬ、信じておらんな。これはだな――」

「おのれぇえ! 化物がぁあ!」


 えっ!? 

 

 突然の大声に固まる。


 し、しまった。

 

 オルティッシオの背後に目を向けると、セバスチャが咆哮し襲いかかってきた。手に持った戦斧で二撃目をふるってきたのである。


「後ろ! 後ろだって!」

「騒がしい。後ろがなんだというのだ」


 今度は大声が出せる。

 身体も動く。

 

 明瞭な声で、身振りで、オルティッシオに危機を伝えた。

 

 オルティッシオが後ろを振り返ると、セバスチャが戦斧を横殴りに一閃していた。


 今度はオルティッシオの首を狙った一撃である。


 さらに戦斧の刃には、セバスチャのほとばしる闘気があらんかぎり加味されていた。最強の一撃と言ってもよい。

 

 だめ、間に合わない。


 気づくのが遅かった。

 

 あぁ、なんてこと……。

 

 セバスチャはショックを受けてたとはいえ、無力化していなかった。


 失態よ。


 セバスチャは、すぐにショックから立ち直り攻撃に移ったのだ。この辺の切り替えの早さは、さすがプロの軍人である。


 そんな敵を前に私達は、無防備に会話していたのだ。


 迂闊すぎる。


 セバスチャの戦斧が再びオルティッシオと激突していた。


 ぐあぁんとけたたましい轟音が響く。

 

 あぁ~一瞬目を(つむ)るが、今度はわりと早く目を開けた。


 うん、凄いや。

 

 オルティッシオはまたもや平然としていた。


 セバスチャは、目を見開いて驚愕している。


 これで二度目だ。


 まぐれでないオルティッシオの実力にセバスチャは動揺を隠せないようだ。

 

 本当に心配していたのが馬鹿みたい。

 

 オルティッシオは、平気な顔で仁王立ちしている。


 傷一つない――いや、首筋からポタポタと血が垂れていた。


 やはりかすり傷くらいはつくらしい。


「オルティッシオさん、ここ」


 額の時と同じように、首から血が出ている事をオルティッシオに伝えた。


「ぬ!? ち、違うんだぁあ! これは、これはだな。あ~そうだ。この前、カミーラ様に手刀で首を刎ねられそうになったのだ。その時の傷が開いたのだ」


 そう、今度はティムちゃんが……。

 

 一流の武人、セバスチャの戦斧でもびくともしないオルティッシオの首だ。


ティムちゃんの手刀は、その首に怪我を負わせられる。それはそれはすごい攻撃だったのだろう。

 

 ティムちゃんの手はオリハルコンでできているのかな?

 

 ……オルティッシオの言動には、あきれる。

 

 そんなことあるわけが……いや、ティムちゃんならありうるかも。ティレアさんのデコピンの話より納得してしまう。

 

 オルティッシオは「こんな小虫如きの攻撃で傷つくか!」とわめいている。


 一体何が彼をそこまで追いたてるのか?

 

「オルティッシオさん、落ち着いて」

「それより聞け。この傷は、決してこの小虫にやられた傷ではない。わかったな」

「は、はい。わかりましたが、別にそこまで言い訳しなくても。あのセバスチャ相手にかすり傷で済んだんです。誇っていいと思いますよ」

「あほかぁああ! 誇るどころか馬鹿にされるわぁあ! いいか、誰にも言うなよ。絶対だからな」


 一体、誰が馬鹿にするのか?

 

 上司のニールゼンさん?

 

 いや、ニールゼンさんはできる人だ。セバスチャの実力もわかるはずだ。オルティッシオの戦果を褒めこそすれ、貶める事はない。

 

 あ~ドリュアスさんかな?

 

 うん、きっとそうだ。


 会った事はないけど、オルティッシオと仲が悪いって聞いたことがある。


「はい、誰にも言いません。特にドリュアスさんには内緒ですよね?」

「おぉ、わかってるではないか! そうだ。あの嫌味なクソ参謀には要注意だぞ。言いがかりをつける事にかんしては、天才的な野郎だからな」


 はは……本当に仲が悪い。


 東方王国にも派閥争いはあるみたいね。


 いろいろ話を聞いてみたい――ってそれどころじゃないって!


 やばい。


 またオルティッシオとの会話に集中していた。

 

 セバスチャを見る。


 セバスチャは呆然としたままだった。

 

 さすがに二度も必殺の攻撃を防がれたのだ。ショックもでかかったのだろう。

 

 セバスチャは、化物でも見るかのようにオルティッシオを見つめていた。


 その身体は小刻みに震えている。

 

 そして……。


「し、信じられん。我が渾身の一撃を一度ならず二度までも……この私がかすり傷しか負わせられないだと?」


 セバスチャがあきれたようにつぶやく。

 

 その瞬間――


「だから、違うと言っておろうがぁああ!」

「へぶらっ!」


 オルティッシオがセバスチャの顎に右アッパーを喰らわせた。


 哀れセバスチャは壁にたたきつけられ、がくりとその場に倒れてしまった。


「まったく、何がかすり傷を負わせただ。ふざけた事を抜かしおって」

「はは……」


 オルティッシオにかかれば、曲者セバスチャも形無しだ。


 本当に戦闘力だけは大したものだよ。


 筆頭護衛官のセバスチャを倒したのも然り。

 

 辺りには多数の護衛官が倒れている。それもオルティッシオが倒したのだろう。

 

 改めてオルティッシオの強さを実感する。

 

 あ! 驚きの連続で失念してた。


 助けてくれたのにお礼を言ってなかったよ。


「オルティッシオさん」

「なんだ?」

「本当にありがとうございました。オルティッシオさんがいなければ、私、殺されてました」

「ふん、主君の所有物を守るのは臣下として当然の事だ」


 オルティッシオは、少し照れた感じでそう答えてくれた。

 

 エビーンズに捕まった時は、もうお終いだと悲観していたけど、なんとか生還できた。


 ほっとしたよ。


 張り詰めていた緊張が解けたとたんにくらっとして倒れそうになった。


 疲労で限界みたい。このまま気絶しそう。


「む!? 人形、ふらふらではないか! ほれ、飲め!」


 オルティッシオが私を支えて、ポーションを飲ましてくる。

 

「ごふっ!? はぁ、はぁ、はぁ。ち、ちょっとそんな無理やり、むせちゃう」


 オルティッシオは、あいかわらずの粗野。そして、あいかわらずの高品質なポーションだ。


 王家御用達と言ってもよい高濃度で高品質なポーションである。


 むせ返りながらもポーションを飲み干す。


 さすが東方王国御用達のポーションだ。極限まで溜まっていた疲労がだいぶ解消されたよ。

 

 まだまだ眠いが、我慢できる程度までは回復した。


「ふぅ~ありがとうございます。だいぶ楽になりました」

「人形、貴様は脆弱だからな。持ってきて正解だった」


 オルティッシオは、鞄に入っているポーションを見せてきた。


 凄い。十数本はある。

 

 持ってきすぎだ。

 

 私、どれだけ脆弱と思われてんの?


 これだけの高品質なポーションなら一ビン、いや一口だけでも十分に回復できる。


 でも、あれ?


 あれだけ高品質なポーションでも完全には回復しきれていないかも。


 精神の奥深く、芯から疲れているみたい。


 魔力も依然回復しない。

 

 それだけ今回身体に堪えたのかな?

 

拷問とかされそうだったしね。


「とにかく、人形褒めてやる。脆弱なくせに、これだけの護衛を倒したのだ。期待以上の働きだったぞ」

「えっ!? 私が?」

「何を驚いておる? 金庫の位置を探れなかったのは減点だが、陽動の役割はきっちり果たしたではないか。貴様がこれだけの人数を引きつけたおかげで、楽に潜入できたのだ。まぁ、欲を言えば全員きっちり殺しておればパーフェクトだったがな。貴様は脆弱ゆえ、最後、やられそうになったのは仕方があるまい」

「あ、あの、さっきから何を言っているんですか? こいつらオルティッシオさんが倒してくれたんですよね?」

「貴様こそボケておるのか? 私が到着した時は、一人を除いて全員ぶっ倒れておったぞ」

「えっ? えっ? じゃあ誰が倒したんですかね?」

「人形、貴様だろうが。何を訳のわからんことを言っておる。だいたい貴様の魔力の残照が残っておるぞ」

「うそ?」

「本当だ。そこの足元を見ろ。凍っておるだろうが! 貴様が戦闘で水魔法を使った証拠だ」


 オルティッシオが指した方向を見る。

 

 地面が氷結していた。


 確かにこれは水魔法の氷止の跡だ。


 その跡を考察するに、私の水魔法の放出傾向に似ているといえば似ている。


「じゃあ、私が倒したんですかね?」

「いや、なぜ疑問形だ? 貴様が一番知っておろう。疲労でふらふらなのは極限まで戦闘したからだろうが!」

「そ、そうですよね」


 状況証拠は私が戦闘した事を示している。


 ただ、その記憶がない。


 エビーンズを倒し、地下室を脱出する。

 さらには駆けつけてきた護衛相手にバッタバッタと大立ち回りをして数十人を倒した。

 

 本当に私が?

 

 う~ん、これだけの人数を私が倒せるかな?


 雑魚ならともかくエリザベス本邸を警護している精鋭部隊だよ。

 

 そんな部隊の面々を無傷で無力化している。


 そんな芸当、ただ殺すよりも難易度が高い。


 ありえない。

 自分が自分を信頼できない。

 私は自分が大した奴じゃない事を知っている。


 ただ、オルティッシオは、私が倒したと当然のように思っているみたいだ。

 

 ありえるの?

 私の中に眠る才能が一気に爆発したとか?

 俗に言う火事場の馬鹿力を発揮したのかな?

 

 う~ん、わけがわからないよ。

 

 って、なんで少女がいるの?

 

 周囲の倒れている護衛達を観察して思い悩んでいると、奴らに混ざって異質な存在(しょうじょ)がスヤスヤと眠っている事に気づいた。

 

 どう見ても護衛じゃない。


 じゃあ誰?


 可能性として考えるに……。


 私と同じでエリザベスに捕まっていた子とか?

 

 拷問部屋のどこかにいて、私がエビーンズを倒したので、一緒に脱出してきたと。

 

 あるいは、この子が実はかなりの強者でこの子に助けてもらったとか?

 

 う~ん、記憶がないからなんともいえない。

 

 うん、いくら考えても答えは出ない。


 この子が起きたら事情を聞いてみよう。一番事情を知っているのはこの子なはずだから。


 とにかく無事だった。


 真相は後で考えればいい。今は、やるべきことをやる。

 

 そうだ。やるべきこと……。

 

 何か大事な事を忘れてる気がする。


 エビーンズの拷問風景が強烈すぎてその前の記憶がとびとびだ。

 

 確か……。

 

 あ! ティレアさんが敵地(ここ)いるんだった。


 あ~もうなんでこんな大事な事を忘れてたの!


 まずは、ティレアさんを助けないと。


 すやすやと眠る少女を抱きかかえ、この部屋を脱出しようとしていると、


「む! 人形、貴様」

「え、なんですか?」


 オルティッシオが怪訝な顔で見つめてくる。


 少し口調に怒りが篭っていた。

 

 な、何、何よ! なんで怒ってるの?

 

 馬鹿の行動は読めないから怖い。


「人形、その手足に書かれてある線はなんだ? なぜそこまで汚しておる?」


 少女を抱きかかえた時に服の袖が露わになってしまった。


 書かれた線がオルティッシオに見られたようである。


「あ、これは……色々あって」

「ちっ、褒めたと思えばこれだ。貴様いい加減に人形としての自覚を持て!」


 オルティッシオは鞄から布きれを取り出す。


 真っ白で清潔そうな布きれだ。

 

 そして、おもむろに腕を取り、その布きれでゴシゴシと拭いてきたのだ。

 

 い、痛い、痛い!

 

 本当にモノみたいに扱ってくるな。


「ち、ちょっと、オルティッシオさんやめてください」

「えぇい、頑固な汚れめ!」


 聞く耳を持ってくれない。

 

 黙々と作業をこなす。


 手の線を消すと、さらにスカートのスソまでまくってくる。


「きゃあ! ち、ちょっと何するんですか!」

「うぬぬ、足にまで落書きされておる。なんてことだ。なんてことだ」


 へ、変態……。

 

 乙女の肌を無断で……だが、本当に汚れを落とすだけのようだ。


 それ以外に他意はなさそうだ。一心不乱に汚れがないか見ている。

 

 別にオルティッシオが今さら襲ってくるなんて考えていないけど……。

 

 はぁ~どっと疲れる。


「わかりました。後できちんと汚れは取ります。今はそれどころじゃないでしょ。私達、敵地にいるんですよ」

「人形、今の状態を見てみたのか! 迂闊だったわ。貴様がこんなに汚れているとはな。それになんだこの臭い? 臭いぞ」


 オルティッシオは、鼻をクンクンさせて遠慮なしに嗅いできた。


 そうね。臭いでしょ。拷問部屋にいたせいだ。


 その通りだけど……デリカシーがなさすぎだよ。


「言われなくても汚れて臭いのはわかってます。私だって早くお風呂に入りたいし――って、それどころじゃありません!」

「何を言うか! カミーラ様の人形が汚れたままでいいわけがあるか。人形としての自覚が足らん」

「いや、そんないつもの問答している場合じゃないんです。実は、ティレア様がここにいるんですよ。こんな敵地に主君がいるんです。ピンチじゃないですか!」

「何を言っておる。ティレア様ならお戻りになられたぞ」

「えっ!?」


 嘘……。

 

 料理対決するってあんなに息巻いてたのに……。


 ティレアさん、絶対にエリザベス邸で料理していると思ってた。

 

 まぁ、脱出しているのならそれでいい。

 

 ただ経緯が不明だ。

 

 あれから何があったんだろう?


 ……だいたいオルティッシオの言葉だ。どこまで信じてよいやら。

 

 とにかく情報が欲しい。


 少女を抱えて物置のような部屋を出た。

 

 すると……。


 えぇえええ!!

 

 わが目を疑う。


 逃げ惑うパーティ客達。


 怒号に悲鳴が飛び交っていた。


 天井からパラパラと砂煙も落ちている。あちらこちらに爆炎も広がっていた。エリザベスの護衛達は右に左に対応している。

 

 まるで戦争状態だ。


「な、な、何があったんですか!」

「うむ、ティレア様からお許しが出たのでな。第二師団が突入したのだ」

「はぁ?」


 突入!?

 

 エリザベス家の護衛達は、侵入者を迎え撃っている。


 確かに侵入者の顔は、ティレアさんのお店でちらほらと見かけた事がある。

 

 うん、オルティッシオの部下達よ!

 

 こんなハチャメチャ行動を、ティレアさんが命令した?


「ち、ちょっとオルティッシオさん、本当にティレア様が――」

「申し上げます!」


 私の質問を遮るように、一人の男がオルティッシオの前で片膝をついてきた。


「どうした?」

「はっ、隊長ついに発見しましたぞ」

「そうか! でかした」


 発見したって?

 

 まさか……。


 オルティッシオは、伝令してきた男に連れられて外へと駆け出した。


 私も一緒に駆け出す。


 は、速い!?


 足の速さが違いすぎる。オルティッシオ達にぐんぐんひき離されていく。


 ま、待って……。


 途中でオルティッシオが私達を置き去りにしていることに気づいたようだ。


 慌てて引き返してきた。


 よかった。


 敵地にまた一人、正確には少女と二人で取り残されてたよ。


 そしてなんやかんやで……。

 

 本宅から少し離れた場所の倉庫に到着した。


 この倉庫、どでかい南京錠と何重にも魔法で結界が張られてある。


「ここってエリザベスの金庫でしょうか?」

「あぁ、間違いない。ここに財貨が置いてある。くっく今月のノルマは達成したぞ」


 オルティッシオは倉庫へとまっしぐら一人で駆け出して行った。


「ち、ちょっと待ってください。一人ではさすがに危ないですよ!」


 ここには、エリザベス家の財が置いてあるのだ。


 他のどの場所よりも厳しく警戒しているに決まっている。


 どんな罠があるかもわからないのに……。

 

 オルティッシオは、私の心配をよそに次々と護衛官を倒していく。


 さらには護衛官が持っていた鉄球を奪い取り、それをそのまま倉庫の扉にぶち当てていた。

 

 オルティッシオの腕力にまかせた剛力で、扉はどんどんひしゃげていく。

 

 そして、ついに……。

 

 ドォンとけたたましい音が響いて扉が開け放れた。

 

 「くっあははははは! オルティッシオ、一番乗り!」

 

 オルティッシオは高笑いをした後、単身中へと突入していく。


 それから遅れて幾許か……。


 オルティッシオの部下達も、どでかい大八車を持って後に続いて行った。


 怒号や悲鳴、もう間諜どころの話ではない。こんな昼間から夜盗紛いの戦争をしてめちゃくちゃだ。


 本当にティレアさんが許可したの?

 

 だれかに事情を聞きたい。

 

 オルティッシオは論外。


 その部下達も輪をかけたように暴走している。

 

 ギルさんに聞くしかないよ。


 ギルさん、今どこにいるんだろう?

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