表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/50

安泰《マルセル(モブ商人) side》

 ────ラニット公爵家を中心に巻き起こった騒動が、収束した頃。

私マルセルを始め、様々な商会のトップが屋敷へ呼ばれた。

目的は言うまでもなく、ショッピング。またの名を、訪問販売。


 こちらの持ち寄った品を吟味してもらい、気に入っていただけたらお買い上げというシステムだ。


 などと考えつつ、私は広間に商品を設置する。

他の商会の者達も、同様に布やら宝石やら並べていた。

────と、ここでラニット公爵夫妻が姿を現す。


「これはこれは、ラニット公爵。それに夫人も。本日は我が商会に声を掛けていただき、ありがとうございます」


「お二人のために選りすぐりの品をご用意いたしましたので、どうぞご覧になってください」


「特にオススメの商品はこちらでして、宝石のアレキサンドライトをあしらったピアスなんです。お揃いで付けてみては、いかがでしょう?」


「もし、そちらをご購入されるなら是非こちらのお洋服もどうぞ。男女のペアになっていて、凄く人気なんですよ」


 他の商会の者達は我先にとラニット公爵夫妻の元へ駆け寄り、営業を掛けた。

が、二人は微動だにしない。


「そうか」


「なるほど」


 全然興味なさそうな様子で相槌を打ち、二人は室内を……というか、並べられた商品を見回した。

多分、自分達で静かに選びたい派なのだろう。


 なら、大人しくしているべきか……あまりしつこくすると、もう呼んでもらえなさそうだし。


 ────と、考えたのは私だけじゃなかったようで……先程まで商品紹介を行っていた他の商会の者達が、引いていく。

おかげで、ラニット公爵夫妻の……というか、公爵の機嫌を損ねることはなかった。


「レイチェル、何か気になる商品はあったか?」


「いえ、特には。ドレスも宝石も既に充分、持っていますし」


 『買い足す必要性を感じない』と述べるラニット夫人に、私達は衝撃を受ける。

貴族の女性と言えば、オシャレに熱心で可愛いものや綺麗なものに目がないと思っていたため。

だから、わざわざ装飾品を多く持ってきたのに……まさかの興味0。


 これはさすがに予想外だな。少しはお買い上げいただけると思ったんだが……でも、私にはまだ奥の手がある。

他の商会と違って、きちんとリサーチしていたからな。


 すぐ近くに置いてあった商品を手に取り、私はラニット公爵夫妻の元へ向かった。

本当はあちらからこの商品に気づくのを待ちたかったんだが、このままだと目に留まることもなく終わりそうだったので。

『それは困る』と思いながら、私は


「ラニット公爵、夫人。少しだけ、お時間をいただけませんか?」


 と、声を掛けた。

反射的に足を止める二人に対し、私は持ってきたものを見せる。


「こちらの商品────抱き枕と言うのですが、昼寝のお供にどうでしょうか?」


「「!」」


 ピクッと僅かに反応を示し、ラニット公爵夫妻は私の手元にある抱き枕を凝視した。

明らかに興味を引かれている様子の二人に、私は内心ニヤリと笑う。


 ラニット夫人が睡眠を大切にしている、という話は本当だったようだな。

情報屋に高い金を払って、調べた甲斐があった。


 『太客の趣味や動向は、把握しておくに限る』と思いつつ、私は抱き枕をラニット夫人に手渡す。


「抱き枕の使い方はその名の通り、抱っこするだけです。それなら、クッションやぬいぐるみで事足りると思うかもしれませんが、こちらは見ての通り細長に作られています。そのため抱っこしやすく、また足で挟むのにちょうどいい」


「足で挟むと、何かあるのか?」


 ラニット公爵は『むしろ、寝るとき邪魔にならないか?』と懸念を零し、少しばかり眉を顰めた。

抱き枕を使って熟睡するところが、あまり想像出来ないらしい。


「個人差はありますが、安心感があるそうです。あと、凄く体勢が楽なんだとか。女性は特にそういう効果を得られやすい、と聞いております」


 抱き枕を利用している客から聞いた感想を口にし、私はチラリとラニット公爵の顔色を窺った。

すると、彼はおもむろに自身の顎を撫でる。


「本当にそんな効果があるのか、甚だ疑問だが……まあ、いい。買おう」


 『物は試しだ』と主張するラニット公爵に、私は目を輝かせた。


「ありがとうございます!ちなみにサイズは今のところ、三段階ありまして。色やデザイン、弾力性なども含めると全二十種類以上あり……」


「全て買う」


 さすがはラニット公爵家とでも言うべきか、気になるものには惜しみなく金を使う。

『妻が気に入れば、また買おう』と述べる彼に、私は満面の笑みを浮かべた。

上手く行けば定期的にラニット公爵家と取り引き出来る、と思って。


「畏まりました。では、直ぐに全種類の抱き枕を手配しますね。あっ、それとこちらはサービスになります」


 そう言って、私は安眠効果のあるアロマや茶葉をオマケした。

『睡眠大好きなラニット夫人なら、きっと気に入るだろう』という確信があったため。


「本日はお買い上げ、ありがとうございました」


 ────と、告げた数週間後。

こちらの目論見通り、ラニット公爵家から抱き枕やアロマの追加注文を受けた。

どうやら、ラニット夫人のお気に召したらしい。


 思ったより、早く連絡が来たな。しかも、一度にこんな量を注文するとは。

公爵も妻に関することでは、財布の紐が緩むようだ。


「ふふふふふふ……これで我が商会は安泰だな!」


 自室で一人祝杯を上げ、私は今後もラニット夫人に安眠グッズを紹介することを誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ