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姉妹揃って変人《ヘレス side》

「よ、良かった……」


 安心して力が抜けたのか、クラリス・アスチルベ・フィオーレは床に膝をつく。

僅かに表情を和らげて蹲る彼女に、私は一つ疑問を抱いた。


「何故、貴様がこいつのことを気に掛ける?」


 明らかに加害者と被害者の関係に見えるため、私は『単なるお人好しか?』と訝しむ。

すると、クラリス・アスチルベ・フィオーレが少しばかり目を剥いた。

かと思えば、そっと眉尻を下げる。


「分からない……ただ、一度は愛した人だから生きていてほしかったのかも……」


 愛した人だと?つまり、こいつはクラリス・アスチルベ・フィオーレの恋人……駆け落ち相手か?

なら、尚更憎悪するものじゃないか?


 『裏切られたのは、間違いない』と分かる状況ゆえに、私は疑問を深めた。

この女の気持ちや考えは全くもって理解不能だな、と思いながら。


「貴様、レイチェルとはまた別の意味で変な女だな」


 『姉妹揃って変人とは』と思案し、私は自身の顎に手を当てる。

その瞬間、クラリス・アスチルベ・フィオーレが勢いよく顔を上げた。


「そうだわ!レイチェル!」


 緑の瞳に焦りを滲ませ、クラリス・アスチルベ・フィオーレは立ち上がる。

が、勢い余って転倒。


「っ……!こんなところで、時間を浪費する訳にはいかないのに……!」


 擦り剥いた膝や強打した腕など構わず、クラリス・アスチルベ・フィオーレは起き上がろうとした。

でも、誘拐・監禁されていた肉体的・精神的疲労のせいか、あまり動けない様子。

『先程まで、ずっと拘束されていたからな』と考えつつ、私は────彼女の首根っこを掴み上げた。


「「えっ?」」


 思わずといった様子で同じ反応を示すクラリス・アスチルベ・フィオーレとロルフに、私はチラリと視線を向ける。


「レイチェルのところへ行くのだろう?なら、一緒に来い。私もちょうど、彼女を迎えに行くところだ」


 それにクラリス・アスチルベ・フィオーレの姿を見れば、レイチェルも安心するだろうから。


 とは言わずに、そのままクラリス・アスチルベ・フィオーレを引き摺って行く。

すると、彼女はハッとしたようにこちらを見上げた。


「ちょ、ちょっと待って!これはいくらなんでも、おかしい!もっと、持ち方が……!」


「文句を言うな。落とすぞ」


 持ち方を改善する気など微塵もない私は、さっさと倉庫を出る。

と同時に、後ろを振り返った。


「ロルフはその男を連れて、先に屋敷へ帰れ」


「畏まりました」


 胸元に手を添えて一礼し、ロルフは気絶した見張りの男へ手を伸ばす。

『クラリス嬢の拘束具を再利用して、運ぼうかな』と呟く彼を他所に、私は前へ進んだ。

────と、ここでクラリス・アスチルベ・フィオーレが口を開く。


「ねぇ……ウィルのこと、どうするの?」


 見張りの男のことを言っているのか、クラリス・アスチルベ・フィオーレは頻りに彼の方を振り返った。

心配という感情を前面に出す彼女の前で、私は停めてあった馬車へ乗り込む。


「それは当人次第だ。尋問の際、快く情報を提供すれば情状酌量の余地ありとして減刑されるが、そうじゃなければ普通に死刑だろうな」


 『貴族令嬢を誘拐・監禁など、有り得ないから』と説明すると、クラリス・アスチルベ・フィオーレは表情を曇らせた。

複雑な心情を露わにするかのように。

助かる道があると知って安堵はしたが、喜ぶことは出来ないのだろう。

じっと縄の痕を見つめる彼女を前に、私は『いっそ、憎めたら楽だろうに』と考える。

と同時に、クラリス・アスチルベ・フィオーレを向かい側の座席へ置いた。


「それより、貴様────いい加減、敬語を使え。あまりにも馴れ馴れしい。今まではレイチェルの姉妹だから見逃してきたが、そろそろ処すぞ」


 状況が状況ということもあり、敢えて触れなかった部分を指摘し、私は溜め息を漏らす。

放っておいたら、いつまでも友人のような距離感で接せられそうだったので。

『それは御免被る』と本気で嫌がる私を前に、クラリス・アスチルベ・フィオーレは固まった。

いや、呆気に取られたと言った方が正しいか。


「……レイチェルの姉妹だから、ね」


 何か引っ掛かることでもあるのかこちらの言葉を繰り返し、クラリス・アスチルベ・フィオーレはそっと目を伏せた。

かと思えば、フッと表情を和らげる。


「私、貴方のこと誤解していたかもしれない……です。思えば、悪い噂を吹き込んできたのはウィルだったし……ですし」


 取って付けたような敬語を使いつつ、クラリス・アスチルベ・フィオーレは胸の内を明かしてきた。

やはりどこか距離感の近い彼女を前に、私は少しばかり眉を顰める。

が、思ったより不快ではなかった。


「……そうか」


 相槌を打つだけに留め、私は窓の外へ視線を向ける。

と同時に、後ろの壁を軽く叩いた。

すると、馬車が走り出し、この場を離れる。

事前に次の目的地を伝えてあったからか、迷わず突き進んでいった。


 やっと、レイチェルを迎えに行ける。


 離れていたのはたった一日だというのに、妙に長く感じる私は『まだ着かないのか』と思案する。

最後に見たレイチェルの不安そうな表情を思い出すと、気が急いでしまって。

『早く安心させてやりたい』と考える中、ようやく目的地に到着した。

弟の所有する屋敷を前に、私はさっさと馬車を降りる。

クラリス・アスチルベ・フィオーレも、それに続いた。


「レイチェルが、ここに……」


 ギュッと胸元を握り締め、クラリス・アスチルベ・フィオーレは真っ直ぐ前を見据える。

どこか凛とした表情を浮かべる彼女の前で、私は正門の両脇に居る衛兵に視線を向けた。


「ここを開けろ」


 固く閉じられた門を見上げ、私は剣の柄に手を掛ける。

いざという時は強行突破するつもりなので。

『こんなところで足止めを食らう訳には、いかない』と思案し、私は鞘から少しだけ剣身を出す。


「もう一度だけ、言う。ここを開けろ」


 『これが最終通告だ』と強調しつつ、私は衛兵達を睨みつけた。

が、あちらは恐怖のせいか……それとも職務を全うしようとする使命感のせいか、動かない。

まあ、なんにせよこちらのすることは変わらない。


「────押し通る」


 そう言うが早いか、私は鞘から剣を引き抜いた。

と同時に、テンペスタースを発動する。

一秒でも、早くレイチェルの元へ行くために。


「少し眠っていろ」


 腰を抜かして後ずさる衛兵達に雷を落とし、私は目の前の門を切り刻む。


「なんて強さなの……」


 クラリス・アスチルベ・フィオーレは呆然とした様子で立ち尽くし、こちらを凝視した。

ゆらゆらと瞳を揺らす彼女の前で、私は屋敷の敷地内へ足を踏み入れる。


 確か、レイチェルは一階の奥の部屋に居るんだったな。


 事前にロルフから聞いていた情報を思い浮かべ、私は前へ突き進んだ。

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義弟は処断不可避
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