04 第一印象
イコライたちが、アウトドア用品 (ちなみにレンタル)を片付けて格納庫へやってくると、リズベットはちょうど駐機作業を終え、戦闘機を降りるところだった。灰色のフライトスーツに長い金髪の組み合わせが、どことなく印象的だ。
「改めて自己紹介するよ」
イコライはリズベットと向き合い、右手を差し出した。
「イコライ・ブラドだ。よろしく」
「ん……リズベット・アドラーだ。リズでいいよ」
リズはどこか警戒したような面持ちではあったが、イコライとしっかりと握手をした。次いで、ケンやカイトとも握手を交わす。
だが、最後にソラと握手をした時、リズベットは怪訝な顔になってこう言った。
「あなたも、ブルーオーシャンの人?」
「いえ、私は……」
「彼女は俺の連れで」イコライが後を引き取る。「あー、ちょっと不適切だとは思ったんだけど……休みの日に別行動っていうのも、どうかと思って。不愉快だったか?」
「いや、不愉快ってほどじゃないよ……ふーん、大切にされてるんだね、ソラさん」
そう言われて、イコライとソラはちょっと驚いて顔を見合わせ、すぐに笑顔でリズに向き直る。
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
「私もです」
「うん……」
ところが、すぐにリズは元の気難しげな顔に戻って言った。
「でもさ、馴れ合いはここまでにして欲しいな」
「え……どうして?」
「どうせ私は短期の穴埋め。人間関係なんて、薄い方が気楽なんだよ。それに、何があったかしらないけど、あんたらの勝手な都合や気まぐれのせいで仲良しごっこに巻き込まれるのは、それこそちょっと不愉快だ」
そう言うと、リズはイコライたちに背を向けながら、機体翼下の荷物入れポッドから自分の荷物を取り出しつつ、こう言った。
「心配しないでくれ。仕事はちゃんとやる……ただ、戦闘機を降りたら、あまり干渉しないで欲しいな」
最後にそう言い捨てて、リズは荷物を背負って歩き去ってしまった。
イコライの背後で、カイトとケンが低い声でささやき合う。
「やっぱり、感じの悪いやつだな」
「派遣のパイロットというのは、気苦労も多いんだろう……」
「おいおい、何言ってるんだよ、二人とも!」
ところが、そんな二人に向かって、イコライは振り返って言うのだった。
「メチャクチャ良い人じゃないか!」
「は? どこがだよ」
「だってソラに向かって『大切にされてるんだね』って!」
それを聞いて、カイトとケンはげんなりした顔になる。
「……こいつの愛妻家ぶりには困ったもんだ」
「ああ。とりあえずソラさんを褒めておけば、何でも許してくれそうだ」
「いや、そりゃちょっと気難しいところがあるなって思うけど、でも絶対に良い人だって!」
力説するイコライに対して、カイトとケンは、やれやれ、こんなんで本当に大丈夫なのかと、深いため息をついた。
結論から言うと、とりあえずは大丈夫だった。
休戦明けの最初の出撃で、ケンと組んで飛んだリズは、二機撃墜という大きな戦果を挙げたのだ。
一機当たりの価値が大きい現代航空戦において、二機撃墜はかなりの戦果だった。しかもそのうちの一機は、格闘戦の末の、機銃攻撃による撃墜だった。まぐれでは決してできない撃墜の仕方だ。
この日は勝ち戦だったとはいえ、四人の中で他に戦果を挙げたのがイコライの一機撃墜だけだったこともあり、これを境に、誰もがリズの実力を認めざるを得なくなった。
だが、当のリズは至って淡々としたもので、
「敵が前に飛び出してきたから、撃っただけだよ」
などと、デブリーフィングで素っ気なく言うだけだった。
「くそ……」ブリーフィングルームの片隅で、カイトが言っていた。「手柄を立てたんだから、素直に喜べばいいのに……感じの悪い女だ」
「お前、語彙力乏しいよな」
イコライは「感じの悪い」を連発するカイトに呆れつつ、次はケンに向き直る。
「で、ケン。お前はさっきから、なんで目を拭っているんだ?」
「ん、いや、少し感動してしまって……女性で、しかも派遣で、あれだけのスキルを得るに至るには、きっとさぞ苦労したんだろうなと思って……なんて素晴らしいサクセスストーリーなんだろうと」
「……それ、本人には言うなよ?」
「は? なんでだ?」
などと三人が言い合っていると、デブリーフィングは解散になった。
「リズ!」
私物の入った鞄を手にして帰ろうとするリズを、イコライが呼び止める。
「なんだよ?」
「飲みに行かないか。もちろん、アルコールはなしで。明日も出撃だからな」
「遠慮しとく。悪いけど、もう誘わないでくれ」
そう言ってそっぽを向いて歩いて行こうとするリズに、イコライは食い下がった。
「今日は俺たちのおごりにするけど!」
瞬間、リズの足がピクッと止まった。わかりやすい反応だなと、口の悪いカイトならずも、全員が思う。
「おごり……なのか?」
振り返らずに言うリズに、イコライは説得を続ける。
「ああ、もちろんだ。二機撃墜なんて、すごいじゃないか。毎回ってわけにはいかないけど、最初ぐらいはお祝いを」
鞄を持つリズの手が、ギュッと握りしめられるのが、イコライには見えた気がした。
「ダ……ダメだ」
「え? どうしてだよ?」
「一度おごられてしまったら……次の誘いを断るのが、難しくなる」
「そ、そんなに飲み会が嫌なのか?」
「私は早く帰って寝たいんだ! 明日も生き残れるように、身体を休めないと……」
「そりゃ、正論だけど……」
さすがに見かねたのか、ケンとカイトもイコライに加勢する。
「精神的な疲れも、解消した方が良いと思いますよ。ストレスが溜まった状態だと、集中力が削がれる」
「人がせっかく誘ってやってるんだから、難しく考えずに『はい』って言えばいいんだよ」
「……おいカイト。なんだその高圧的な物言いは」
「ああん? お前こそなんだよ、その情緒の欠片もない説得の仕方は。まるで人間は仕事のために遊んでるって言わんばかりじゃないか。冗談じゃない。俺たちは働かされるために生まれてきた、ロボットじゃないんだぞ?」
「俺は相手が大事にしている物やことに対して共感を示したんだ。なのにお前は、自分の都合を押しつけただけじゃないか」
「やめろお前ら……」
「……一生やってろよ、この三バカ」
イコライがケンとカイトをなだめている間に、いつの間にかリズは帰ってしまった。




