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墜ちないイカロス  作者: 関宮亜門
第2章 トライアル
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59 イコライ & ケン VS サヤカ -Ⅰ-


「良い調子じゃないか、ケン!」


 サン・ヘルマン島沖二〇〇マイル、上空一万フィート。

 イコライはいつもの戦闘機のコクピットの中で、いつになくはしゃいで、無線でケンにまくしたてていた。


「長距離ミサイル試験は完璧、短距離ミサイル試験では相手を瞬殺だ。この調子なら、ドッグファイトも問題ない」

「はしゃぎ過ぎだ、イコライ」


 だが、返ってきたのは、思いのほか冷静な声だった。


「ドッグファイトはミサイル戦とはわけが違う。気を引き締めろ……それから、さっきみたいに無理に手柄を譲ってくれなくていい」

「ははあ、言ってくれるじゃないか!」


 そう言いながら、イコライはやっぱりケンは頼もしいやつだと思った。こちらが興奮してる時に冷静でいてくれるのも、立派なチームプレイだ。


「お前の言う通りだ、ケン……次で最後だ。集中しろ」

「ウィルコー(了解)」




「完璧ですね」


 そう言うマルコに対し、ギュンターは「フム」と意味ありげなつぶやきを返していた。


 サン・ヘルマン空港に併設された訓練用の施設(島に本拠を置く軍事企業の所有物で、有料でレンタルしているものだ)では、ギュンター、マルコ、そしてカイトの三人が、試験の状況をモニターしている。

 マルコは明るい表情で続けた。


「この調子なら、ドッグファイトを待たずに合格決定じゃないですか」

「……他の会社なら、まあそうだろうな」


 ギュンターの無表情はいつものことだったが、何か雰囲気が違うのを読み取って、マルコは顔色を曇らせる。


「ええっと……すみません、ギュンター隊長。私、何か失言をしましたか?」

「マルコ。ミサイル戦とドッグファイトの最大の違いは、何かわかるかね?」

「交戦距離、ですよね」

「それが何を意味するのかわかっているか?」

「……いえ」

「カイト」

「敵機との位置関係が急速に変化することです」


 カイトは答えた。


「航空戦のテキストには、そもそも戦闘機の任務とは『搭載する兵器の発射要件を満たす位置まで、兵器を運搬すること』と書いてあります。だから位置関係の急速な変化がもたらす影響は甚大だ。遠距離では相手がちょっと動いたぐらいじゃ位置関係は変わらないが、近距離では一瞬にして有利不利が入れ替わることが起こりうる。そのため、ドッグファイトでは戦闘機の機動や戦術は一気に複雑化し、勝つために必要な知識や訓練は膨大なものになる……ああ、もちろん体力も重要です。ミサイル戦ではほとんど目立たない要素ですが、ドッグファイトでは強いGに長時間耐えられないといけない。相手に少し粘られたぐらいで疲れ果てているようでは、話にならない」


「まあ、そんなところだ」ギュンターは表情を変えずに続けた。「最低限、遠距離からミサイルの撃ち合いができれば合格とする会社は多い。実戦ではそれが最も多い局面だからな。だが、私の部下がそれでは困る。いざという時に対応できるぐらい、タフでなくては……私はね、訓練不足のパイロットのために、自分の命をリスクにさらす気はないんだよ。まあ、マルコは自分では飛ばないから、わからないのかもしれないが」


「す、すみませんでした……」


 カイトはそのやり取りを聞きながら、二人からは見えないところで顔をしかめていた。


 ギュンターの嫌みったらしいところや、人をすぐに試したがる傲慢なところは不愉快だ。正直な話、あまりついていきたいと思わせるような上司ではない。


 それでも皆がギュンターの命令に従い、離職者も少ないのは、ある事情があるからなのだが……それもまた、カイトがギュンターを気に入らない理由の一つだった。


(せめて一矢報いてくれよ、イコライ、ケン)

 カイトは心の中で言った。

(この鼻の高いおっさんが「ぜひうちで働いてくれ」って頼みに来るような……そんな結果を見せつけてやれ!)




 いよいよ、次だ。


 サヤカは操縦桿を握りしめながら、思わず酸素マスクの中で舌なめずりをした。

 人を殺す直前というのは、いつだって気持ちが高ぶる。


 魂が、獲物を求めて走るために、身を縮ませて、力を貯め込もうとするのを感じる。

 実に良い気分だった。


 ニヤニヤと笑いつつ、サヤカがコクピット内のスイッチを一つ跳ね上げると、ディスプレイの表示が変化した。


 MASTER ARM ON

 GUN RDY


 ……安全装置解除。

 ……機関砲、発射準備完了。


「編隊長」

 その時、サヤカの相棒役を務める若い男が、無線で言ってきた。

「作戦はどうする?」


 すぐにサヤカは、用意していた作戦を伝える。


「お前は先に突っ込んで、敵の注意を引いて死ね。後はあたしがやる」

「……は?」


 男は呆気に取られていた。


「もう一度言ってくれ」

 サヤカは舌打ちしながら言う。

「先に突っ込んで死ね。後はあたしに任せろ」


「……別に俺は構わないが、本当にいいのか? そんな戦術は実戦ではあり得ない。試験の意味がないぞ」

「いいからやれって言ってんだよ!」

「……ウィルコー(了解)」

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