番外 マリナとマノス
式の準備が着実に進んでいる。
昨日は豪華なドレスを着させられ、手の込んだ化粧をさせられてびっくりしちゃった!でも、よくよく見ると、エンディングで着ているドレスで納得した。
マノスくんのお父さんのミロ王曰く「自分の金じゃないから使っちゃおう」ということで豪華にするらしい。本当にそんな豪華にしてしまったら、国民からああだこうだ言われないだろうかとマノスくんに聞くと「まだこの前の戦争の傷跡があるから、むしろこういうことで国の雰囲気を明るくするべきだろう」と言われて納得した。確かに結婚式は、見知らぬ人でも手を叩いて祝福したくなっちゃうものだもん。
1年前はこんなことになるなんて想像していなかったな。今の自分を見たら昔の自分はなんて言うんだろう。なんてベタなことを考えてしまう。でも、きっと「そりゃそうだよ!だって、私はヒロインなんだもの」なんていいそう。
ヒロインなんて笑っちゃう。
そもそも、考えてみれば私は本当に生まれ変わってここにいるのかも曖昧で、本当にそうなのかはわからない。でも起こることは本当にその通りできっとそうなんだろう、という不思議な確信をもっていたし、今でも持っている。
ただ、ここが本当にゲームなのか、私はヒロインなのか、死んでいるのか生きているのかわからない。自分の存在が本当は幻のもので、実際はただの虚無なのかもしれない。なんて考えてしまう。
だって、物語の通りに進んでいたけど全然違うし、ゲームの登場人物としか思ってなかった相手にはちゃんと考える頭も感情もあるんだもん。
私は、物語が始まる時からずっと彼らはただのゲームの登場人物としか思ってなかったし、頭の中にある性格と同じままで私を嫌うことはそうそうないと思ってた。それに、私が動かないと物語が進まないんじゃないか、なんてのも思ってた。
実際は全然違って、それが顕著だったのがディミトリくんとブリジットさんだった。
彼らを見て、私はちょっとだけ焦ったんだと思う。二人とも幸せそうで、私は馴染みの街から無理やり母が死んだからって引き取られて、見ず知らずの人ばかりのところに放り込まれた私にとっては嫉妬を覚えるものだった。
私だって幸せになりたいし、そのための条件とか資格は十二分に持っている。だって、ヒロインだから。
そのヒロインだからっていう高慢がダメだったんだなって思う。下心しかなかったもん、そりゃ、友達もなにもできないよね。
マノスくんもなんであの頃のあんな高慢ちきな私を好きになってくれたのかはわからない。
もしかしたら、物語の選択肢通りの反応と言葉をかけたからかもしれない。でも、それでもいいの。
マノスくんが私を大切にしてくれてることも分かってるし、これから先は昔よりもよっぽど裕福だし、お金だってあるもの。マナーとか責任とか色々あるけど、それでもいいの。
隙間風のない家でお金もあって、きちんとした相手もいる。これ以上何があるっていうんだろう。
時々考えるんだけど、あの頃、もっと純粋にこの世界を楽しんでたら、今とは違う結果になったんじゃないかって。今が嫌ってわけじゃないけど、時々考える。
もっと友達ができたんじゃないかなとか、あの4人と友達になれてたんじゃないかとか。そしたら、もっと楽しく過ごせてたと思うんだ。今更だけど。
別にあの頃も今も、彼女達が憎いわけじゃない。出会い方とか、私の思い込みとかなかったら仲良くなれてた自信があるもん。ただ、あの頃の私はちょっと変だったんだと思う。
長年暮らしてて、私はちゃんとここで生きて生活している一人間で、周りにいる人もそうだってわかってたはずなんだ。なのに、彼らに会った瞬間、なんだか彼らに話しかけなくちゃって思った。誰かを押しのけてでも。不思議な話だよね。
寂しかったからなのか、幸せそうにしているから嫉妬したのかって思ってるけど、本当にそうなんだろうかって思うの。
私って自分でいうのもなんだけど、粘り強いし、相手を貶めて奪ってやろうとかそういうタイプじゃない。あの頃の自分を思い出すと、黒歴史っていうかひどすぎて頭抱えたくなっちゃう。黒歴史以外のなにものでもないよね……。
あんな行動してて……、本当に恥ずかしい!
私が頭を抱えていると、メイドさんが手紙を持って来てくれた。彼女は笑顔で渡してくれる。あの2人の驚いちゃうような言い訳じみた作り話がなかったら、今頃私はそこら中で睨まれまくってただろうなって思う。2人に感謝だね。
手紙はブリジットさんからだった。それと社交辞令のようにディミトリくんからも。
『拝啓、マリナさんへ
お久しぶりです。式の準備は進んでらっしゃいますか?
そちらの6月は美しいそうですね。そんな時期に結婚できるなんて羨ましい限りです。是非一生の思い出の一つとして大切に楽しんでください。
今日の手紙は、私が行けなくなってしまったので、その知らせです。
流行病にかかってしまっていけなくなりました。きちんと安静にしていれば治るそうですのでご心配なく。
殿下はピンピンしていらっしゃるので、行かれるようです。
よろしくお願いいたします。
それでは、ベッドからで申し訳ありませんが、お二人がお幸せに暮らしていかれることをこころよりお祈り申し上げております。
敬具、ブリジット』
『拝啓、マリナ嬢
忙しいので簡潔な手紙で失礼する。
お2人の式にブリジットが流行病にかかり行けなくなった。私はいくので、よろしくお願い申し上げる。
行けずにブリジットは大変残念がっていた。
本来は2人そろって出席するべきところを私一人になってしまう失礼を先に謝りたい。
それでは、6月に会えることを楽しみにしています。
敬具、ディミトリ』
二人揃って出すあたり、とても仲がいい。
食堂の時から二人が仲がいいことはわかってたし、それが羨ましかった。別に元いた下町にそういう関係の人がいたわけでもないし、私は忙しかったから友達は少なかったもの。
だからこそ、羨ましかったのかもね。
ヒロインだから幸せになりたい。いいや、なりべきよ!なんて思って暴走して、結局馬鹿みたいだったなあ。
「マリナ」
「あ、マノスくん!」
「今手紙がきたんだが……。あ、君のところにも来てたのか」
「うん。ブリジットさんが来ないなんて残念」
「本当に?」
「本当だよ!」
「ふふ、ごめん。わかってるよ。少しずらしてみるかい、式」
「え?いいの?」
「もちろんさ。さっそく父上に言ってみるよ。了解されたら二人に手紙を出してみるよ」
「ありがとう!」
「うん」
「むこうの流行病って3週間くらい寝込むんでしょ?」
「だから手紙を急いでくれたんだろう。なんだかんだで律儀だよな、あの二人」
「ね!」
「じゃあ、私は父上のところに行ってくるよ」
「待って、私も行く!」
「じゃあ、一緒に行こうか」
マノスくんが腕を組むようにエスコートしてくれる。
私はてんでダメで変になってめちゃくちゃなこともしたし、後悔することも一杯あるけど、それでもマノスくんがいるなら、それでいいかなーなんて思ってる。
多分、これから先、それなりに幸せでいられると思う。
それってとってもいいことだよね、きっと!




