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あなたを忘れる方法を、私は知らない  作者: 長岡更紗
カルティカの涙〜フィデル国の異母姉編〜

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263.じゃ、なんかくれる?

ブクマ69件、ありがとうございます!

 クロエに頼まれたティナは、グリレル村へとやってきた。


 特になにもないこの村。そう思う人もいるかもしれない。だけどティナにとっては、かけがえのない場所だった。

 森が優しくざわめき、畑には四季折々の恵みが広がり、空は限りなく澄んでいる。

 そしてなによりも、空気が透き通るほど清らかで、人の心根もまた、そうなのだ。


 すれ違えば、まるで呼吸のように自然に「やぁ」と声が飛んでくる。

 それは、カジナルシティの慌ただしい人混みでは決して味わえない、温かな光景だった。


 るんるんと春の風のような足取りで、鼻歌を歌いながらグリレルの村を駆け抜けていく。

 木々の間から差し込む陽光が、ティナのダークブラウンの髪を柔らかく照らしていた。


 まずは村長の家へ向かい、預かっていた書類をさっと手渡す。

 それからすぐに、次の目的地であるブラジェイの家へと向かった。


「おばさん、こんにちはー!!」


 玄関の扉を勢いよく開けた瞬間、見知った顔が視界に飛び込んできた。


「ティナ!!」

「シャノン!!」


 二人の声が重なるように響く。


 サイドにざっくりとまとめられただけの髪。その素朴すぎるヘアスタイルは、誰が見ても〝田舎の女の子〟という印象を与えるだろう。

 けれどティナには、それがシャノンにとてもよく似合っているように思えた。

 変わらないな安心感が、胸の奥に広がっていく。


「ひさしぶりね、どうしたの?!」


 シャノンがにこっと笑って尋ねてくる。


「ええと……」


 ティナは一瞬、言葉に詰まった。


 クロエの口ぶりからして、この短剣はシャノンにプレゼントするものなのだろう。

 それをブラジェイに届けに来たと言っては、シャノンの楽しみもきっと半減してしまう。


「えーと……村長に用事があったから、ついでに寄ってみただけ!」


 えへへーと少しぎこちなく笑ってごまかしながら、そろりと後ずさった──その時。


 どんっ。


 背中になにかぶつかる。振り返ると、そこにはがっしりとした大きな影。


「ブラジェイ!!」

「なにやってんだぁ? ティナ!」


 呆れたような声が、ティナの頭上から落ちてきた。


「ちょっと、こっちきて!!」


 ティナはその逞しい腕をぐいっと引っ張り、玄関の外へと強引に連れ出す。


「オイ、なんだなんだ。告白なら受け付けてねぇぞ」

「も、もう! そんなじゃないったら!」


 口を尖らせながら、ティナは仕事用の大きな鞄から、箱を取り出し、ビシィッと突き出した。


「クロエから、預かってきたよ!」

「ああ、カルティカか」

「カルティカ?」


 その言葉に反応すると、彼は箱を開け、中から丁寧に短剣を取り出して見せた。

 一度見たはずなのに、それでも目を離せない。刃先が揺らめく光を捉えるたび、胸の奥がきゅっと引き締まるようだ。

 光の角度によって刃がきらりと煌めき、その美しさは、どこか神聖な気配すらまとっている。


「この剣の名前だとよ。どっかの国の神の名前だとさ」


 キンッと静かな音を立てて鞘が外される。

 剣が空気を切り裂くように抜かれ、その鋭い煌めきがひときわ強くティナの目を射る。

 ブラジェイは一瞬、見惚れたように眺めてから、すぐに鞘へと戻した。


「それ、シャノンにあげるんでしょ?」


 ティナが尋ねると、彼は視線を少しだけ逸らし、まぶたを閉じて息を整えるような仕草を見せた。


「まぁな」


 そう答えた声は、どこか照れ隠しの響きを帯びていた。


 そぶりは飄々としているが、これは確実に、図星だ。

 ティナは、胸の奥でこっそりと勝ち誇る。


「いいなーーーーーー! 私にもなんかちょうだいよ!」


 声のトーンをぐっと上げて、冗談まじりに声を投げかけると、ブラジェイはふいに真面目な顔でティナを見た。


「お前に武器を持たせるのは危険すぎる」

「どういう意味!? ククリなら持ってるよ!」


 ティナはすかさず腰からククリを引き抜き、構えてみせた。

 魔物への備えとしては当然のものだ。旅をするなら、最低限の装備である。


「仕舞えって。おめぇが振り回すとシャレにならねぇ」

「じゃ、なんかくれる?」


 きらーんと笑いながら見上げるティナに、ブラジェイはふっと肩の力を抜き、ため息混じりに笑った。


「ま、そのうちな」


 言いながら、大きな手でティナの頭をがしがしと撫でた。

 まるで弟か妹を可愛がるみたいに、容赦なく、遠慮もなく。


 同い年なのに、なぜかこうして子ども扱いされることがある。

 だが──ティナは、その手のぬくもりが、嫌ではなかった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
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しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
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キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
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第五王子
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急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

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王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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