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あなたを忘れる方法を、私は知らない  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜オルト軍学校編〜

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18.光の……剣

ブクマ24件、ありがとうございます!

 アンナとグレイは二人で年末を過ごし、年が明けるとアリシアが帰ってきた。

 その後ろには、ジャンという青年もいる。


「ばばーん!! 母が帰ったわ! 今年はジャンも一緒よ!」

「おかえりなさい、母さん! ジャンも、新年おめでとう」


 相変わらず明るいアリシアを、アンナとグレイは迎えた。

 黒髪に黒服を着たジャンが、悪魔のような色っぽい笑みを見せた。


「久しぶり、アンナ。親子で過ごす時間を邪魔して悪いけど」

「そんなの気にしないで。久々に会えて嬉しいわ!」

「それを言われたら、俺も邪魔してるからな」


 グレイは苦笑いしながら、アリシアとジャンを迎え入れる。

 その言葉に薄く笑ったジャンは、慣れた足取りで室内シューズに履き替えると、中へと入った。

 すでに昼になっていたので、アンナとグレイがあらかじめ作っていた昼食を早速四人で食べ始める。

 暖炉が部屋の空気を緩めていて、皆でスープを飲むと、さらに体は温まった。


「母さん、今年はいつまでいられるの?」

「明日の朝には帰るわ。ジャンを客間に泊まらせたいんだけど、構わない?」

「じゃあ、後で寝具を軽く干しておくわ。ジャンが泊まっていくなんて初めてね」

「ふふっ、今まで遠慮してたのよ。私とアンナの邪魔をしたくなかったみたいで」

「そうなの? 邪魔だなんて思わないわよ、私も母さんも」


 アンナが首を傾げると、ジャンはほんの少し息をふっと出すようにして笑った。


「二人とも……似てるよね」

「なぁに、ジャン。当然じゃない、私とアンナは親子だもの」

「私は母さんに似てるって言われるの、複雑だわ……」

「ちょっとぉ、アンナ〜!?」

「ははっ」


 グレイが思わず声を出して笑い、アリシアに睨まれて「おっと」と口を閉じる。

 そんな三人の姿を見てニヤッと笑ったジャンは、次にアリシアへと目を向けた。


「ところで筆頭。アンナのあれ、気づいてないだろ」

「え? あれ?」


 ジャンの言葉に、アリシアは大きな目をさらに広げながら隣のジャンを見上げる。

 そんなアリシアの視線を受けたジャンは、促すようにアンナの左手に視線を注いだ。つられるようにアリシアも視線をそちらに移す。

 アンナの薬指に光っているのはもちろん、アシニアースにグレイから貰ったプレゼントだ。


「あらぁ! 指輪を貰ったのね! 素敵じゃない!!」

「ありがとう。これ、アシニアースプレゼントなの」

「まぁまぁ、うふふ。嬉しいわよね、アシニアースプレゼント」

「母さんもアシニアースに、父さんから〝救済の書〟を貰ったんでしょう?」

「そうよ! やっぱりアシニアースの贈り物は特別よね! アンナにも素敵な思い出ができたようで嬉しいわ。よかったわね」

「ふふっ」


 アンナは返事の代わりに笑みで答えて見せた。そんな姿を見て、アリシアは目を細める。娘の幸せを喜ぶ、母の顔だ。


「母さんは、父さんに指輪を貰わなかったの?」

「貰わなかったわね。結婚の話をした翌日に出てっちゃったもの」

「……それってどうなの……」


 アンナが半眼になると、アリシアは慌てて腰を浮かした。


「違うのよ、ちょうどタイミングがそうなっちゃっただけで! それに私、指輪を貰っても失くしちゃいそうだから、貰わなくてよかったのよ!」

「わかったわよ、母さん。いいから落ち着いて食べましょう?」

「むむぅっ」


 アンナに言われて、アリシアは口を尖らせつつ座り直す。

 どちらが親かわからないなと男性陣は思いながら、食事を再開した。


「まぁアンナは、指輪を失くしてもすぐ見つけるだろうから、心配ないでしょうけど」

「そうね」


 親子間で納得し合う様子を見て、グレイは「ん?」と視線をアリシアに向けた。


「どういう意味ですか?」

「あら、知らない? アンナはね、鼻が利くのよ。ロクロウの血よね」

「鼻が? 初耳だな。匂いに敏感ってことか?」


 今度はアンナの方を向いたグレイに、アンナは少し眉を下げながら笑って見せる。


「匂いにも敏感なんだけど、なんていうのかしら……貴金属を嗅ぎ分けられるっていうか。貴金属に限らないんだけど」

「お宝の匂いが感覚でわかるんだろ。第六感みたいなものだって、ロクロウは言ってたな」


 ジャンの言葉に、アンナは驚きながら頷いた。


「ええ、そうなの。なんとなくわかるのよ」

「ジャンは色んなことをロクロウと話してたのねぇ。ジャンはね、ロクロウが大好きなのよ、アンナ!」

「……違うから」


 どうにかして父親の株を上げようとするアリシア。なのにジャンは否定していて、アンナは苦笑いした。


「父さんも、同じ感覚だったのね……」

「俺は子どもの頃、火事に巻き込まれてロクロウに助けられたことがある。俺がコムリコッツの短剣を持ってたから見つけられたって言ってたな」


 そう言いながら、ジャンは脚に装備してある短剣を抜いて見せた。


「それ、ジャンが昔、父さんに貰ったっていう短剣よね」

「ああ。俺が六歳の時に貰ったんだ。普通そんな子どもに真剣を渡したりしないよ。ロクロウは間違いなくイカレてた」

「っぶ!」


 吹き出したのは、グレイである。

 その理由がわかったアンナも、くすくすと笑う。


「俺はもう一人、イカレてる人を知ってますよ」

「母さんでしょう? 六歳のグレイに真剣を渡したって聞いたわよ!」

「あらぁ、聞いちゃったのね! まぁそれでグレイが強くなったんだから、いいじゃないの!」

「もう、母さんったら……」

「まぁ普通は刃物を子どもに与えないよね。特にコムリコッツの遺産の短剣なんて、与えたりしない。これだけのものを、よくくれたと思うよ」


 コムリコッツの武器は、刃こぼれは一切せず、よほど強い力が加わらない限り折れたり朽ちたりもしない。

 研がずとも、切れ味はずっと変わらないのだ。


「それ、高いんでしょう?」

「売ればね。結構えげつない値段するよ。売る気はないけど」

「ロクロウから貰った宝物だものね。もう、ジャンったらロクロウが大好きなんだから!」

「……違うから」

「でもさすがロクロウだわ! そんないい物をひょいとあげちゃうんだもの!」


 ジャンの言葉も聞かず、うふうふと幸せそうに笑うアリシア。

 アンナはそんな母親を見るのはいつものことなのでスルーする。


「父さんって、そんなにすごかったの? ジャン」

「古代遺跡に関する知識は世界一じゃない。強いし、トレジャーハントの才覚もある。俺が知ってるだけでも、デュランダルとかクレイヴ・ソリッシュを手に入れて売り捌いてたしね」

「クレイヴ・ソリッシュ?」


 あまり馴染みのない言葉に、アンナは首を傾げた。


「光の剣と呼ばれる、神聖な武器だよ」

「光の……剣」


 なぜか心揺さぶられる言葉。ぶわりと体がなにかを駆け抜けていくアンナに、ジャンは続けた。


「クレイヴ・ソリッシュは、持つ者に絶大な力と勝利を与えると言われてる。ロクロウが売る前に見せてくれたけど、青白く輝く綺麗な細身の刃だったな」

「ちょっとジャン、私はそんなの見せてもらってないわよ!?」

「デュランダルをいるかと言われた時、筆頭は断ったんだろ。あれより細身の剣なんて、興味ないと思ったんだよロクロウは。筆頭は大剣使いだから」

「むむぅ……でも綺麗な剣なら、見たかったわぁ」


 アリシアの言葉にアンナも頷いた。

 青白く輝く、光の剣と呼ばれるクレイヴ・ソリッシュ。

 どんな剣なのか、気になって仕方がない。


「図書館で武器図鑑を見れば、出てると思うけどね」

「それじゃあ形状はわかっても、色も剣の鋭さもわからないわ……」


 しょぼんと肩を落としたアンナの背中に、グレイはそっと手を置く。


「剣との出会いは運だからな。こればっかりは仕方ない」

「そうね、残念だけど……でも、その光の剣は父さんが発掘したんでしょう? どうして武器の図鑑に載ってるの?」


 アンナの疑問には、アリシアがえっへんと胸を張って話し出した。


「それはね、アンナ! 収集癖のある魔物が、遺跡の宝箱に入れちゃうからよ! 魔物に襲われたり奪われたり拾われたりして、遺跡に戻るの。それをまた人間が発掘する。その繰り返しなのよ!」


 ふんすと鼻息を吹き出して、アリシアはドヤァッという顔をしている。

 しかしアンナにはわかっていた。アリシアが普通にこんな知識を持っているわけがないと。


「それ、父さんに聞いたの?」

「ロクロウがジャンに話したのよね! 私はジャンに教えてもらったわっ」


 得意げな顔をするアリシアに、ジャンは隣でクスッと優しい笑みを漏らした。


「ジャンは父さんから本当に色々聞いてるのね」

「筆頭が聞かなさすぎるんだよ。別に俺は、普通だから」

「母さん、父さんといつもなんの話をしてたのよ」

「晩御飯の話かしら? 父さん、料理上手ですごかったんだから!」

「もう、母さんったら」


 あきれながら言ったアンナだが、アリシアは気にもせずに「うっふふふふ!」と嬉しそうに笑う。

 アンナはやはりそんなアリシアをスルーして、ジャンへと目を向けた。


「ジャンはトレジャーハンターにだってなれそうよね。母さんと違って」

「どうだろうな。やっぱりロクロウみたいに宝の匂いがわからないと、稼ぐのは難しいと思うけど。そういう意味では、アンナの方が適正あると思う」

「……私?」


 トレジャーハンターの適性よりも、騎士の適性の方が嬉しいアンナである。

 しかし、遺跡という言葉を聞くと、なぜか勝手に心が躍る自分もいるのは確かだった。


「あとでゲームでもしようか。宝探しの」

「なぁに、それ! 楽しそうだわ!」


 髪も目もキラキラさせながら喜んだのは、もちろんアリシアである。

 しかしアンナも負けず劣らず、わくわくとその心を打ち鳴らしながら、四人は食事を終えた。


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