表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたを忘れる方法を、私は知らない  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜ストレイア王国軍編〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/391

140.とてもきれいな金髪だわ

「ようやく見つかったのね」

「ええ」


 水の書を習得した水魔法士ルティー。

 まだ幼い少女にアンナはにっこり微笑んで見せるも、ルティーは小さい体をさらに縮こませるだけだった。

 アリシアは困った顔を隠そうともせずに、アンナとグレイに目を向ける。


「でも見ての通り、ちょっと怯えちゃって……みんなでわいわいと和やかな雰囲気を作ってほしいのよ」

「なるほど。それで堅苦しい言葉はなしってわけね」

「そういうこと」


 アンナがルティーの様子を窺うと、彼女は目だけを動かしてグレイに視線を送った。

 アリシアに対しては異様なまでに緊張していたのに、グレイにはどこか安堵したような表情を浮かべている。怯える相手とそうでない相手がはっきりしているのだとアンナは考えた。


(子犬みたいな子ね。犬のようなカールもグレイに懐いてるし、ルティーも同じようなものかもしれないわ)


 そんな風に思いながら、アンナはルティーへと話しかける。


「いきなり王宮に連れてこられちゃったらびっくりするわよね。私はアンナ、彼はグレイよ。ルティーはいくつなの?」

「十歳に、なりました……」

「幼年学校三年ね。とてもきれいな金髪だわ。いい香り……カモミールね」


 アンナが言い当てると、ルティーはずっと俯いていた顔を上げた。アンナとルティーの間には距離があり、そこまでは近づいていない。なのに正確に香りを言い当てるアンナである。

 驚いた顔をするルティーに、アンナはふふっと笑みを向けた。


「ほつれひとつない繊細できれいな髪は、香油でしっかり手入れされているからなのね。本当にため息が出るくらい素敵だわ」

「あの……、アンナ様の黒いお(ぐし)も、とっても素敵です……っ」

「そう? ありがとう」


 アンナがお礼を言うと、ルティーの顔はようやく少しほぐれた。

 それでもまだ体は硬い状態だ。今度はグレイがフッと笑いながら口を開く。


「そんなに肩に力入れてたら、羽でも生えてきそうだな」


 グレイの言い草に、ルティーの後ろにいたマックスが声を上げた。


「はははっ。生えててもおかしくないよな。ルティーは天使みたいにかわいいし」

「え……あの、そんな……天使だなんて……」


 そっと頬を染めるルティーに、今度はジャンが口元を上げる。


「そのうち、小鳥が肩に止まりそうだよね。ルティーなら、簡単に捕獲できそうじゃない」

「ちょ、捕獲とかお前、天使に悪魔の所業させるのやめろよ……」


 マックスがジャンへと突っ込み、そんな二人のやり取りにアンナはくすくすと笑う。口元にほんの少しの笑みを見せたルティーは、正しく無垢な天使のようだ。

 ルティーが天使なら、いつも黒い服を着て目から怪しい光線を出すジャンは、悪魔に見えるグレイである。


「ジャンはあれだな。小鳥には逃げられて、カラスが寄ってくるタイプじゃないか?」

「本当ね。ジャンならカラスくらい、簡単に使役してそうだわ」

「無理だから。俺にはカラスも寄ってこないな。マックスはこの間、カラスにクロワッサンを奪われてたけど」

「なんでジャンが知ってるんだよ……」


 淡々と恥ずかしい場面をバラされたマックスは、嫌そうな半眼でジャンを見る。


「取られちゃったんですか……? カラスに」


 その話に食いついてきたのは、ルティーだった。チャンスとばかりにマックスは頷き、自分の恥ずかしい失態もなんのそのと、当時の状況を語り出す。


「天気が良かったから、外でクロワッサンを食べようとしたんだよ。けど食べようとした瞬間、カラスのやつが狙ったように奪っていって……近くにいたフラッシュに大笑いされたんだよなぁ」

「実は俺もこっそり見てた」

「お前、いるなら声かけろよ。いっそのこと、笑ってくれた方がマシだからな!?」


 マックスの突っ込みに、ジャンはニヤリと笑っただけだ。

 ルティーはそんな二人のやり取りに、ふふっと長いまつ毛を揺らして笑った。

 その表情は本当に天使のようで、見ているだけでアンナの心がほわりと温まる。


「ルティーは小鳥も似合いそうだけど、リスも似合いそうだわ。小動物に囲まれてそうだもの」

「確かにな。物語のお姫様役にぴったりといった感じだ」


 グレイの言葉にルティーはピクリと耳を動かし、照れながらも嬉しそうに微笑んだ。

 それからもルティーへと話しかけて、皆で話を続けていく。

 和気あいあいとする姿をアリシアは邪魔せずに見ていたが、途中で部屋を出ていった。少しするとルーシエと一緒に戻ってきたが。

 和やかな話し合いで、ルティーの緊張もかなりほぐれてきていたのだが、戻ってきたアリシアに気づいた瞬間、ルティーの顔はこわばった。

 会話が途切れてしまったところで、ルーシエが柔和な笑みを見せる。


「アンナさんとグレイさんもいらしたんですね。お二人にも参加していただきましょうか」

「参加……?」


 なんのことだかわからず、アンナは首を傾げながら言葉にする。


「協力できることならなんでもするけど……」

「では三日後にある、シウリス様の成人を祝う宴に出席をお願いいたします」

「宴に?」


 グレイとアンナは、その宴に警備騎士として参加する予定だ。

 多くの貴族が参加し、舞踏会場では盛大な晩餐と華やかなダンスがメインとなり繰り広げられる。

 アンナとグレイはその舞踏会場の警備を担当するなっていて、ドレスにテールコートなど、考えもしていなかった。


「でも、その時私たちは……」

「大丈夫です。トラヴァスさんあたりに警備の交代をお願いしましょう。私も補佐しますし、問題はないはずです」


 ルーシエはなんでもないことのように言い放つ。それでもアンナはわけがわからずに首を傾げた。


「それはいいんだけど、どうして私たちがそのパーティに?」

「将来的なことも含めて、ですかね。もちろんメインはアリシア様ですが」

「ええ!? 私も出席するの!?」

「当然です」


 名前を出されたアリシアは、目を見開いて大きな声で驚いた。

 その声でまたルティーが体をこわばらせるのではないかと思ったアンナだが、予想に反してルティーは興味を持った瞳でアリシアとルーシエのやりとりの行方を見守っている。


「うーん、悪いけど私は……」

「アリシア様」


 鋭く名前を呼んだルーシエが、チラリと視線だけを一瞬ルティーに向けた。そこには、ルティーが憧れの眼差しでアリシアを見る姿。先ほどまでの怯えていた目は、すでにどこかに消えていた。

 ルーシエの思惑を受けとったアリシアは、とうとう頷く。


「……わかった、参加するわ」

「ありがとうございます」

「でも私はアンナのようにパートナーはいないし、どうしようかしらね」

「誰でも好きな人をお連れ下さい。私は警備に入るので行けませんが」


 ルーシエに言われて、アリシアは三人の男を見た。

 アリシアは最初にグレイに目を向けたので、アンナはすかさずにグレイの横に立つ。


「グレイは連れて行けるわけもないし……マックスは……」

「すみません、筆頭。俺は辞退します」

「結婚したばかりだものね。仕方ないわ。となると……」


 視線の先には、エロビームをこれでもかと発しているジャンの姿。


「俺でよければ行くよ、筆頭」

「……そう? じゃあ、お願いしようかしら」

「決まりですね」


 すかさずルーシエが決定を下し、にっこりと微笑む。そして今度は彼は、ルティーに視線を合わすために膝を折った。


「もしよろしければ、あなたも宴を見にきませんか?」

「……え!! いいんですか!?」

「遠くから見るだけになると思いますが、それでもよければ」

「で、でも私みたいな普通の子どもなんか……」

「ドレスはこちらで用意しましょう。さながら舞台女優が着るような、素晴らしいドレスを」


 ルーシエがそう言うと、ルティーはモゾモゾモゴモゴと手足を動かしながら、「ありがとうございます」と嬉しそうに礼を言うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
まだ幼いルティーへの皆さんの配慮が素敵です。 強くて気さくで良い人たちばかり。 成人を祝う宴も、楽しそうですよね。 いつの間にか55万字超えましたね。 毎日更新すごいです、お疲れさまです!(๑•̀ㅁ•…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ