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あなたを忘れる方法を、私は知らない  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜ストレイア王国軍編〜

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133/391

132.予測通りになったってことか

 マックスの話を聞いて一週間後、ジャンがカジナルから帰還した。

 アリシアはジャンの報告を一度で済ませるため、グレイとトラヴァスも執務室に呼び寄せる。一度アリシアが確認してからと思っていたが、このことに関して機密を多く知る二人に、今さら隠す意味はない。

 フィデル国から帰ったばかりのジャンだが、疲れた様子を見せてはいなかった。

 長い脚を黒い服でさらに長く見せ、相変わらず色気たっぷりの瞳でアリシアを見ている。


 集まったのは、アリシアの直属であるルーシエ、マックス、フラッシュ、そしてグレイとトラヴァスだ。


「揃ったわね。じゃあ報告してちょうだい」

「……ん。兎獣人(ラビュリス)集落(トライブ)を、シウリス様が襲撃した日から話すよ」


 ジャンは他には目もくれず、アリシアを見つめて話し始めた。


「襲撃の一報がカジナル軍部に伝わると、真っ先にユーリアスが出てったよ。すぐにブラジェイが一隊を組んで、それに続いた。集落(トライブ)にはマックスがいたから、俺はそのままカジナルで情報収集と情報操作に専念したんだ」


 ジャンは逃れてきた避難民から話を聞き取り、〝紺鉄の牙〟が来ていることを知った。

 紺鉄の騎士隊がいるということは、シウリスも来ているということだ。

 十中八九、目的は強襲だと当たりをつけたジャンは、即座に動いた。

 このままでは、獣人族が人と手を組む事態になりかねない。今までは静観していたが、実際に襲われるとなると、人の手を借りなければ自衛することは不可能だからだ。

 そのため、今回のことは獣人族が人間と協定を交わすきっかけになるとジャンは考えた。

 二種族が手を結ぶことは、ストレイア王国にとって最も忌避すべき事象である。それを阻止するために、ジャンは噂を流すことにした。



〝ストレイア王国が兎獣人(ラビュリス)集落(トライブ)を襲ったのは、カジナル軍が協定の話を持ち出していたからだ。獣人族が人間と手を組むことで、逆にストレイア王国は獣人族の集落(トライブ)を狙うに違いない〟


 ジャンはそんな話を避難してきた兎獣人(ラビュリス)に伝えた。話はジャンが予想するよりも早く、あっという間に広まる。

 元々軍人であるティナが集落(トライブ)に説得に行ったのは事実のため、信憑性はあると判断されたのだ。


 こうしてジャンは兎獣人(ラビュリス)たちの頭に、人間の争いに口を出さない方がよいという意識を植え付けたのである。これで少なくとも数年は、手を組むのは難しくなったはずだと、ジャンは報告した。

 その話を聞いたアリシアは、ジャンを見てニッと笑う。


「うまくやってくれたわね」

「これくらい、わけないから。ティナが生きてるっていうのは、多分マックスから報告が上がってるよね」

「ええ。カジナルに帰ってある程度回復したという報告は、マックスから受けてるわ」


 ジャンはこくりと首肯して続けた。


「カジナルでは、上層部で対策を練ってたよ」


 ブラジェイは事態を五聖執務官であるクロエに報告。

 ジャンはこんな時こそミカヴェルを頼るのではないかと注意していたが、特別な誰かに接触している気配はなかった。

 ティナはしばらく伏せっていたが、毎日の回復薬で、一週間もしないうちに歩き回れるまで回復した。

 クロエは兎獣人(ラビュリス)たちと協定を組もうとしていたが、長老は頷くことはなく、今のところは成功していない。つまり、ジャンの情報操作が効いていたということだ。


「結局、この件に関してカジナルは、ストレイアに報復措置をとらないことになってたよ。兎獣人(ラビュリス)が協定を結ばない以上、あの集落(トライブ)はフィデル国内にあっても治外法権の状態だ。他の四聖も、自分たちと手を組まない獣人族のためには、動いたりしないと思う」


 ジャンの報告にアリシアは頷く。

 とりあえずは最悪の状況を回避できたとして、アリシアも胸を撫で下ろした。

 

「それを聞いて安心したわ。元よりも、いい形で終われたわね」

「うん。それで、これを見てほしい」


 ジャンが渡したのは、新聞記事だ。彼の指差した文面を見たアリシアが、眉を顰める。


「ティナは生きているんじゃなかったの?」


 そこには、ティナの死亡記事がひっそりと載っていた。


「ティナは、死んだことにされたみたいだ。多分、もうストレイアに狙われないようにっていう措置だと思う。本人はもう元気だよ」

「そう……でも、好都合だわ。シウリス様にはティナは死んだと思っていてもらいたかったのよ。この記事があれば、もしティナが生きているのがバレた時でも、調査不足と詰られることもないわ」


 アリシアはふうっと息を吐いて新聞を畳み、机の上へと置いた。


「それでひと段落がついたし、俺は情報操作がバレる前に戻ってきた。ティナが復帰して、いつものようにブラジェイやユーリアスの近くにいるようになったから、これ以上は危険だったし」

「ええ、よくやってくれたわ。お苦労様だったわね」


 アリシアのねぎらいの言葉に、ジャンはふっと目を細める。そんなジャンの様子を見たルーシエ、マックス、フラッシュの三人の表情もまた、柔らかくなっていた。


 色々とイレギュラーがあった割には、悪くない結果に収まった。ミカヴェルを見つけ出せなかったという一点を除いては、だが。


「ルーシエ、一連のことをまとめて」

「はい」


 アリシアに指示を受けたルーシエは、息を吸うと空気を震わせる。


「シウリス様強襲の一件で、結果的にフィデル国は人と獣人族との間に亀裂を生みました。修復には時間が掛かり、協定はしばらく結ばれないものと思われます。

 ティナの捕縛については失敗しましたが、彼女の命を繋ぎ止めたことで、戦争は回避できたと言えます。しかし機会があれば、ティナの捕縛を狙うことは必要でしょう。

 ティナが生きていることは、ここにいるメンバーだけの機密となります。

 ミカヴェルの居所は依然として不明。カジナルにはいない可能性もあります。

 今後はミカヴェルの居場所と動向を探りながら、カジナルの出方を様子見する形で良いかと存じます。

 そして、シウリス様が戦局を乱すことのないよう、慎重に対応していく必要があるでしょう。

 まとめとしては、以上となります」


 綺麗にまとめ上げたルーシエに、アリシアは頷く。


「この件に関しては、フィデル国側からの報復攻撃もないようだし、一応の収束と見ていいわね」


 収束という言葉を聞き、グレイはシウリスの執務室での言葉を思い出した。


 ── 逆だ。人間に加担すれば犠牲が出ると、奴らは結論付けるのだ。ちょうどティナ(あの女)が仲間に引き入れようとした時期だったからこそ、人の争いに手を出すべきではないと理解したであろう。そのためにも、あの勇敢なる戦士の犠牲は必要であったのだ。


「結局、すべてシウリス様の予測通りになったってことか……」


 グレイの呟きにアリシアは目を向ける。


「そうなるわね。でもトラヴァスのティナを助ける行動や、マックスやジャンのフォローがなければどう転ぶかわからなかったわ。結果的にシウリス様の思惑通りに動いたと言っても、ギリギリのラインであったことは確かよ。それはつまり、私たちの立ち回りが重要だったということ。これからも気を引き締めていくわよ」

「っは!」


 グレイは胸に手を当てて敬礼し、アリシアはふっと軽い笑みを見せた。

 筆頭大将の執務室を出たグレイは、気持ちを新たにし。日々の隊務を、遂行していくのだった。

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