本編-0072 魔法適応のエイリアン達
さて。
各種の"属性魔法適応"因子を注入することによって、また俺のエイリアン生態系に深みが生まれたわけだが――ここに来て『因子枠の制限』がネックになってしまう事例が発生した。
……だから、名前だけ紹介はするものの、実際の能力については不明であり類推するしかないものも混じるが、ご容赦願いたいねぇ。
因子枠の制限。
ファンガル種で2枠、その他で3枠。
こいつを緩和するためには、対応するエイリアン種族技能を取っていかなければならないわけだが――『ゴブリン工場』の更なる効率化が急務だ。
目の前で絶対に取れない位置にエサをぶら下げられて嫌な気分ではあるが、無いものを無理にねだるのは仕方がない。せめて、そのエサを追いかける馬のように疾走していくのみか。
『任せろーきゅぴきゅぴ!』
「なるほど、これが『エイリアンネットワーク』ですか……確かにオーマ様の言うとおり、【止まり木】と似て非なる技術ですね」
「俺のは眷属達の能力、特にそこを這いずり回ってる『副脳蟲』どもの力を借りてかなり拡張しているが――迷宮領主は大抵皆似たような能力持ってるからな?」
「こんな連中の軍勢を、かの"英雄王"は一体どうやって追い返したのか、俄然興味が湧いてきましたよ、ハハ……」
「可愛いね、ウーヌスちゃん達」
「「え?」」
珍しく俺とルクの声がハモった気がする。
……ところで、ルクの奴、顔がやつれているな。そして引きつってるな。
【眷属心話】を使わずとも分かるぞ、MAJIDE? と戸惑うお前の本音が。
なぁに、すぐに慣れるさ。
『わーい』×6+α
普段俺が辛く当たっていることの反動か、副脳蟲達が"ウーヌスの部下"達も含めて、わらわらとミシェールの周りをぐるぐる回り始める。で当然の権利のようにミシェールはルクをすぐ近くに居させているから、ルクもそれに巻き込まれ、困惑気味の顔で俺を見てくる。
「うわ、ちょ!? なんかぷるぷるしてるんですけど、擦り付けてくる!?」
「ほら、ルク兄様怯えないで、可愛いじゃない」
――よし、ぷるきゅぴどもが夢中になっている隙に『性能評価』しちまえ。
<エイリアン種>
【縛酸蜘蛛】 ◆因子:紡糸 ◆進化元:噴酸ウジ
コツコツと【人界】側で狩り続けた『痺れ大まだら蜘蛛』から得た因子【紡糸】によるものだ。
うん、名前もわかりやすければ効果もわかりやすいというもの。
"蜘蛛"と銘打ってはいるが……まだまだ噴酸ウジに八本のゴムみたいに太い肢が生えたに過ぎず、某全身タイツ超人みたいなスタイリッシュな動きはとてもとても期待できそうにはない。
ただ、生態は非常に凶悪だ。蜘蛛の糸って正確には尻から出てるんだが、"現象"重視なのか、こいつは口から糸を吐く。そこそこ粘着質で投網のように絡まると厄介な"糸"なんだが――口から吐き出しているのがポイント。
つまり、スパイダ君の胸先三寸で、その"糸"に「強酸」を混ぜることも可能だ。
ん? いや、だってこいつ【噴酸ウジ】からの進化系だし、その能力は別に消えたわけではないとも。この"酸糸"は粘着すると同時に含まれた強酸で焼かれてしまう恐ろしい罠であり、通常の単なる粘着糸とも切り替えが可能。
ただし、本体の能力はかなり弱い。
相も変わらず、自分で自分の「酸糸」を間違って踏んづけて焼かれてしまうという噴酸ウジの弱点を引き継いでいるわけだが。あれだな、同世代の爆酸マイマイと同じで、エイリアン自身よりはその"生成物"の方がずっと価値が高いパターンだ。
ふむ。
噴酸ウジの分岐進化先もこれで4種か。しかもまだステータス欄には進化先があることが仄めかされているし。
【土喰いコブラ】 ◆因子:土属性適応・猛毒 ◆進化元:隠身蛇
さてと。
冒頭でも述べたが――今回の魔法因子大量ゲットを受けて、因子と進化のルールに関する検証を一つ行うことができた。
それは"複数因子"を一度に注入する進化パターンがあるか? ということだ。
考えてもみれば「第2世代」と「第3世代」だって、そのまま巨大化したりというわけではなく、元々注入されていた因子にさらに別の因子が組み込まれて、生態すら変化するような"進化"だったわけで、個人的には「できる」んじゃないかと予想していたが――なかなか難航していてな。
今回、魔法関連の因子が一気に手に入ったことを受けて、改めていろいろ試した。
で、そこでふと進化臓の『設定画面』見ながら、思ったんだよ。
進化臓1基に因子が1つ対応しているならば、だ。
ちょーっと発想を転換してみましょう。
……なに、【進化臓】を2つ連結してみたんだよ。
すると、この方法で、同じエイリアンに複数の【因子】をぶち込むことがなんともあっさり可能になったのであった。
その結果、今の手持ち"因子"で、複数因子による進化が上手く行ったのが2種類発見できた。
その一体目が、この土喰いコブラ君である。
見た目は、隠身蛇の時よりも若干太くなって、蛇というよりはツチノコじみた体型となっており、進化前の武器であった鎌が熊手みたいな形に変化して、かなり土を掘りやすいような形になっている。
皮膚も若干土気色ぽくなって、目がでかくなっているところなど細かい変化が中心といったところ。
でこいつ何ができるのかというと、言うなればクロークスネークの隠密能力を"土中潜行"に全振りした感じなのである。
……ここで【土属性適応】の効果がしっかり出ていて、だな。
なんとこのコブラ、初歩的な土魔法によって、土の硬さを自在に変化させることができるのである。
ただし、この効果はコブラ自身の周囲十数センチに限定されているようで、あくまで移動の補助的なものであるから、例えば大規模に落盤させたり液状化させたりすることはできなかった。
とはいえ、どんな硬い地盤だってMPと時間さえつぎ込めば【友好的な土塊】――に似た土魔法によって柔らかくしたり、固くしたりして、まるで泳ぐかのような気楽さで"潜行"できる……どうも、金属的な成分が多いとダメになるようだが。
で、ここからがこいつの真骨頂。
土に潜り込んで何時間でも獲物を待ち、一瞬の隙を突いて猛毒の熊手で斬りつける。そんで反撃を食らう前に土中に逃げる。獲物は土には潜れないから、反撃はできない、と。
「恐ろしいですね。事前にそうであると分かっていれば、【土】魔法で撃退はできそうですが」
「だったら【土属性障壁花】で邪魔してやるか」
「……あらゆる探知手段で、先にそれを潰すのが定石になりそうですね」
「そんなら探知手段を【擬装花】で撹乱することになるな」
「だったら――」
うむ、有意義な議論だが今力を入れることではないな。
【並列思考】を発動して【眷属心話】でルクと適当に議論しといておこう。
【蓄光フクロウ】 ◆因子:光属性適応 ◆進化元:誘拐小鳥
飛翔系統エイリアンの「第3世代」で――ちょっと面白い進化をしている。
見た目はエンジョイバードをずんぐりさせて目を大きくし、小さな嘴が発達し、あとちょっと羽毛を生やした感じで、正直肉弾戦では同世代の【風斬りツバメ】には圧倒的に劣るだろうが――特徴的なこととして、後頭部から背中にかけて、体長の3分の1もの巨大な結晶体が生えた。
で、だ。
なんと、そこに【魔界】の黒き太陽の太陽光(闇)を蓄えるのである。
……自分でも何を言っているのかよくわからないし、解説役のルクもなんか混乱して専門用語ぐちゃぐちゃに言い始めてるが、とにかく『黒き太陽の太陽光(闇)』なのである。
ただ、同じように【人界】でも試したところ、普通に『人界の太陽の太陽光』も蓄えた。だから、変なのは【魔界】の属性システムバランスなのであって、このフクロウの能力そのものではない――ということだけは断っておこう。
で、だ。
蓄光フクロウは太陽光を充電することで、それをMPの代わりに【光】魔法の発動媒体に使うことができるのである。つまり、攻撃手段としてはMP残量をあまり考慮する必要がない。発動される【光】魔法は"光刃"系と"閃光"系の初級レベル魔法であるが、充電状態の背中の結晶体が黄色く仄かに明るいため、インテリアとしても地味に便利である。
「……夜襲には向かなそうだな、主殿」
「おう、戻ったかソルファイド。ただまぁ、この【光】がことさら効果的な存在だっているんだ。なんでもかんでも、搦め手に頼るってもんでもないさ」
「まぶしい!」
「だから待てと言っているグウィース! ええい、逃げるな、乗るな!」
「……賑やかですね。というか、オーマ様、あの――樹人もどきの幼児は……?」
「エイリアンとは別だぞ。話すと長くなるから、後でル・ベリにでも聞いておけ。一応、あいつの『弟か妹』のどっちからしい」
「はぁ……いや、これ以上常識が壊れるとしんどいんで、もう少し落ち着いてからにしておきます」
「ルク兄様。それなら【冬嵐】の犬で、ちょっと気を紛らわしてくる?」
物騒な会話の後、兄妹が一旦『性能評価室』を退出した。
捕虜として捕らえてある男――【氷属性適応】を絞るのに貢献してくれた工作員アムーゼ氏で、溜飲を下げる作業にまた戻るようである。
ちなみに、そいつからは【水属性適応】の方も絞れており、それによって拓かれた進化先がこちら。そしてこいつは、さっき紹介した土喰いコブラと同じく、"複数因子注入"の2種類目でもある。
【水流カメ】 ◆因子:水属性適応・硬殻 ◆進化元:突牙メダカ
ファングフィッシュの背中が大きく肥大してコブのように盛り上がり、浮きの役目も果たすようになった"甲羅"が発達している。『環状迷路』から引き込んだ『水路』に放り込んでみると、ギュバと手足を"甲羅"の中に引っ込めて、そこから【水】魔法による水流操作を行っているのか、すいーと泳いでいく。
その間、浮きでもある"甲羅"は水上に顔を出したままで――なんというか、こう、実に乗りやすそうだ。
「おりる! あっち乗りたい!」
「何!?」
『性能評価室』の天井はかなり高い――頭上から蓄光フクロウに植物的な意味で絡みついて、せっかく蓄えていた"太陽光"をたっぷり吸い取って元気になったグウィースが飛び降りてきた。
ル・ベリは魔人樹幼児を連れ戻そうと、8本の触手を器用に使いながら、蜘蛛のように壁を登って天井までたどり着いていたようだが、すんでのところで取り逃したようである。
グウィースは、下半身の根や枝をパラシュートみたいにグバっと植物モード状態に広げて、上手く落下しながら――水柱を立てながら水路を浮かんでいた水流カメの"甲羅"に着地したようである。
そのまま、すいーと水路を『環状迷路』側に向かって泳ぎ去っていく。
慌てて飛び降り、自らも激しい水柱を立てるル・ベリ。
……うん、まぁ、なんというか頑張れ。さすがは元獣調教師の弟か妹ってところか? これで何種類目だよ、グウィースが乗りこなしたエイリアンは。
「ほう……」
だが、まぁそんな光景を見ていて、ふとこれは『母船』の海上走行用パーツとして使えるんじゃないか、とも思ったんだがな。
水流カメは頑丈なだけでなく、さらに通常の浮力以外にも【水】属性魔法による水流操作が可能なため、想像以上に「船」として支える力があるのだから。
【幻惑クリオネ】 ◆因子:精神属性適応 ◆進化元:突牙メダカ
リュグルソゥムのお家芸たる"精神"魔法の力を取り込んだエイリアン種であり、水棲系から派生した。
見た目は、突牙メダカを一回り大きくさせ、マンタだかエイみたいなゆったりとしたヒレに前足が変化したような姿なのだが――お前はどこの深海魚だと言いたくなるぐらい、皮膚が透け透けの半透明なのである。
……つーか、内臓がどくんどくん鼓動しているのが見えてるし。
フルーツ入りの半透明ゼリー型のマンタが優雅に泳いでいる、とでも思ってくれ。ただし入ってるのは果肉ではなくエイリアン的内臓だがな!
そして、こいつの何が『幻惑』なのかというと。
我慢してよくよくその『内臓入り生体アクエリウム』な体内を観察していると、ゆっくりとだが、臓器やその間を巡る赤と黄色の中間的色彩の"体液"が循環しているのが見えるのだが――こいつに強烈な"催眠"作用がある。
ゴブリンはおろか哺乳類など、一定程度の脳の大きさがある生物に作用する様子。
混乱による無力化はかなり有り難い手段なので――うーん、水棲系というのが惜しいな、是非とも陸上でも運用したいんだが……。
そうだな、道中で"水族館"的に、侵入者にも見せられるようにする、というのも有りかもしれないな。
ちょっとウーヌス達に『設計』を考えさせておこう。
――さて、と。
ひとまず以上がエイリアン種の方で、新たに誕生した面子である。
で、まぁ何回も言ったように『因子枠』の制限さえなければ、更なる進化先――「第4世代」を含む新エイリアンも何種類か現れているのだが、とりあえず判明している名前だけ。
【城壁獣】から進化する【要害象】。
【塵喰いウジ】から進化する【腐蝕蝿】。
【千腕サメ】から進化する【波嵐サメ】。
【水流カメ】から進化する【氷鎧カメ】。
後は、因子枠とは別に、進化に"年単位"とかいう阿呆みたいな時間がかかりそうだってことがあるせいで……因子枠の問題が仮にすぐにクリアできたとしても、先は長いんだよなぁ。
<ファンガル種>
各種属性砲撃花・障壁花については割愛だ。
予想と特に変わらず、性能を実際にルクやミシェールに魔法を使ってもらって確認したというところだ。
――ただし【精神属性】については、砲撃花が存在しなかったがな。代わりのような能力を持ったファンガルである【黒視花】にニッチを奪われたのかもしれないが、まぁ後述だ。
最初は、新たな労働種達から。
【鉱夫蟲】 ◆因子:土属性適応 ◆進化元:奴隷蟲
【潜水蟲】 ◆因子:水属性適応 ◆進化元:奴隷蟲
なんと、ファンガル種にしかなれないと思っていた奴隷蟲達が――"通常進化"をしたから、軽く驚いた。
……ともあれ、見た目は大きく変化したわけではなくHPMPも毛が生えた程度にしか増加していないんだがな。その意味では「第2世代」の割には打たれ弱いが、ワーカーなんだから、そこはあまり気にするべきじゃないだろう。
それよりも、特筆すべきはやはりそれぞれの【属性】で原始的な魔法を使えるようになった点だ。
鉱夫蟲は土を掘る能力が格段に上がっているどころか、時間はかかるが土を掘らずに地中を自在に移動することも可能になっているのである――土喰いコブラと比べると下位互換だが、運搬能力などがある分、例えば"落盤工事"なんかでの使い勝手はこちらが圧倒的に上。
素のスレイブよりは半回り大きくなり、ハサミが長くなってより坑道を掘りやすそうな形状になり、身体の柔らかい部分を覆う殻がトゲトゲしている。
一方で潜水蟲だが、肢に小さなヒダみたいなヒレみたいなものがびっしり生えて、正直見た目はなかなかキツイ。あと耐水仕様になったのか、殻が原始的なウロコのなりかけみたいなものになって体表を覆っており――フォルムが魚の流線形に近づいている。
ただ、スレイブの存在意義とも言える運搬兼作業用のハサミはさほど変化してはおらず、水中で何か運んだり作業したりするのに向いた存在となったようだ。
――ふむ。
水棲系エイリアン達の種類が充実しつつある。
これは……そろそろ、ヒュドラの特性や行動パターンを調査するための『海中探索部隊』を設置する頃合いだったりするんじゃないか?
「どうしてオーマ様の眷属、エイリアン達はあんなにおぞましい口の開き方をしているんですか?」
『それはね……君を丸かじりするためだきゅぴぃぃいいい!』
"息抜き"を終えて『常識値』を快復したらしいリュグルソゥム兄妹が戻ってきていた。
と、そこでちょうどアムーゼ氏に関心を抱いていたらしい、ソルファイドが口を開く。
「それで、リュグルソゥム。あの氷使いの男は、何か言っていたのか?」
どうも、ソルファイドを見て、アムーゼが竜人などと口走っていたようで、念のためということで兄妹に『尋問』の一項目に入れてもらったのである。
「――特筆すべきことは、特にありませんでしたよ、ソルファイドさん。竜人について、我が国でどういう存在であるかは、さっきお話した通りです」
ミシェールが肩をすくめながら答える。
ルク? スイマーとスレイブを見比べながら、なんかまたル・ベリと生物学的な議論を始めてしまったよ。収斂がどうたらこうたら。
「そうか……だが、それでもお前達から聞いた話だけでも十分だ。竜人の"傭兵団"、か――マーレフェスの"枝"辺りか? あるいは……」
ミシェールの話を聞くに、ここにも500年前の【大戦】による亀裂が遠因として横たわっている。
簡単に言えば「英雄王に協力しなかった裏切り者達」である、オゼニク地方西方の諸国家へ【輝水晶王国】は長いこと"懲罰戦争"を続けており、稀にその「竜人傭兵団」と戦うこともあるらしい。
さて、ファンガル種紹介に話を戻そう。
とりあえず因子枠制限ですぐには胞化できない【徘徊触肢花】とかいう、もう、名前だけで何をしでかしそうなのかがようっくわかる【触肢花】の胞化先は置いておいて。
――本命だ。
【亜種化臓】 ◆因子:混沌属性 ◆進化元:進化臓
進化臓の胞化先であり、見た目はケバケバしい悪魔のお菓子といったところ。触手と突起物、脈打つ血管のような太い管などはじつに「邪悪なモンブラン」といった感じであり、しかし生物学的用途のわからない、よくわからない突起物や管が大小垂れ下がっていたりして、そこからガスみたいな緑色の煙が吹き出したりしているんだが、まぁそれは良い。
生成コストも、魔素・命素合わせて5,000弱も費やしたが――それだけの価値はあった。
なにせ、その特性は、その名の通り既存のエイリアン達を"亜種化"させることなのだから、な。
……と言ってもわかりづらいな。
例えば【火】に弱いはずの走狗蟲に【火属性適応】因子をぶち込めば、火耐性が上昇した。そしてこの時、ランナーの見た目はほぼ変化していないのである――"維持コスト"すらも変化していなかった。
しかも『亜種化』に使える因子は、一部を除いてほぼ俺の手持ち全てが大丈夫であったため、手軽な強化手段としてはかなり便利だろう。
他にも【猛毒】因子ならば爪や牙に微量の毒が含まれるようになったり、迷宮経済的に大きいこととしては【葉緑】因子で亜種化すると、ファンガル種限定ではあったが、太陽の光を浴びている間は維持コストがかなり軽減されたのである。
……だが、まぁさすがに万能とはいかず【因子】同士の相性を大きく覆すことまではできないようで、噴酸ウジに【高機動】を与えても、気休め程度の効果しか無かったんだがな。
とまぁ、俺の迷宮のエイリアン達のバリエーションを一気に広げてくれる夢のファンガル種ではあるんだが――その生態から予想できる通り、この『亜種化』は「因子枠」を食うのである。
"名無し"の量産兵達を使い勝手良くするならともかく、単純な強化という意味では、やはり「進化>亜種化」であろう。その意味では"名付き"達の亜種化を考えるのは、まだまだ先の話になるだろう。
因子枠を上昇させるためには大量の経験点が必要で、それを解消する手段の一つである『ゴブリン工場』の更なる効率化が求められるのは、先にも述べた通りなのだからな。
だが――例えば、進化させない走狗蟲には全員に【火属性適応】を突っ込む選択肢だって今後は取れる。
いや。虚を突くという意味では、わざと普通のランナーを【火】で撃退させておいて、油断したところを"亜種"ランナーで襲わせる、といった運用も有りだろうな。
迷宮の防衛体制を、より盤石で"初見殺し&経験者殺し"なものとするために、どのように組み合わせていくか、想像が非常に広がって良い感じだぁな。
次。
【黒視花】 ◆因子:精神属性 ◆進化元:観視花
見た目は観視花を黒く着色して、少し触手を増やして一回り大型化させた感じなのであるが――エイリアンの黄色い体液で"充血"した、血走った眼をしている。
観視花時代の探知能力は衰えており、正直そっち目的で使う分には胞化させない方が良いようだが、罠や拘束具としては、有用な特性を備えている。
こいつを「視る」とだな。
他の者から強制的に引き剥がされない限り、いつまでも、強迫観念的に「見つめ続け」させられてしまうのである。これはかなり強力な作用で、少なくともゴブリンで試したところ、三大欲求すら貫通して乾き死ぬまで"見つめ"合い続ける結果になった。
――それに、この「引き剥がす」という対処法も曲者でな。
結構な割合で狂暴化状態になるんだよ。
一応、仲間であるエイリアン達には悪影響は及ぼさないようだが、事故が怖いので俺やル・ベリやグウィース、ルク兄妹達が視るのは禁じており、【黒視花】自身にも最上位命令で、普段は目を閉じているように指示した上で、更にその上からゴブリン奴隷達に編ませたボロ布を被せている。
俺? いや、視てみようなんて好奇心はぶち殺しておいた。
――何せ、冗談交じりにでもそのことを考えた瞬間。
『視ちゃダメ!』
とウーヌスが絶叫した直後、続けてモノが、
『創造主様、お仕置きは何でも受けるから!』
とか言いながら、近くを巡回していたランナーを全力で俺に突っ込ませてきて、黒視花との間に壁になるように覆い被させたんだからな。
――さて、はて。
俺は何か良くない物でも生み出したのか? というわけだ。
モノはともかく、お気楽なウーヌスまでもが、いつもの語尾を付け忘れてまで、ここまで焦るのはかなり珍しく、それだけの異常事態であることが理解できる。
……これは、ちと保留だな。
あえて好奇心猫を殺す的なリスクを、こんなつまらないところで負うこともない。優先順位と危機意識と好奇心のバランスを間違えて、失敗したばかりだしな。
『罰することなんてしないとも、むしろお前達の忠誠心に感動したぐらいだ――気を取り直そう、そう怯えるな、俺の副脳蟲達。「母船」で、ちょっと良いことを思いついたから、手を貸してくれないか?』




