本編-0039 迷宮制作③~地下部と有機的結合
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・ダンジョン現況図
地上部でも言及したことだが、『領域』を設定することでいくつもの特典が得られる。
一つは【眷属経験点共有】に影響するもので――エイリアンやル・ベリ、ソルファイドらが得た『経験点』が迷宮領主である俺に還元されてくる"距離限界"に影響することである。100%とはいかないが、それでも『領域』の外で俺の眷属達が得た"経験"よりは、ずっと割が良くなっている……気がする。
それはそれとして――『領域』は、その空間から算出される魔素と命素を俺自身の"迷宮経済"に引き込むものである。そしてその副次効果として、『最果て島』全体を渦巻く魔素と命素の"流れ"が分かるようになった。
まぁ大体は予想通りで……『裂け目』に近づくにつれて魔素と命素は濃くなり、距離が離れるほど薄まっているようだが。
≪肝臓~結晶畑≫
ここで、面白い事実としては、当の『裂け目』の最至近が最も魔素・命素が濃いわけではないというところ。
何らかの、まだ俺自身がわかっていない魔素と命素の流れを決定づける法則みたいなものがあるのか……「魔素溜まり」「命素溜まり」みたいになるところがあって、現在の『結晶畑』もそうした場所に建設しているところだ。
ただし、それは別に【結晶花】が一箇所に設置できるフローが限られているというわけでもない。魔素と命素の主要な消費者となった【魔素結晶花】と【命素結晶花】が「溜まり」から吸い取る分、領域全体から魔素・命素がずおおおおおという感じで流れてきて――結局魔素6,200と命素7,000を1日ごとに収入することはできているようであった。
ふうむ――魔素・命素の収支という意味でも、どうにも『迷宮』は一体のものとなっているように思われるな。
なんというか、赤血球と白血球が血液のように「体内」を巡るかのような。
「魔素」と「命素」が迷宮全体を巡っていて、一つのシステムを構築しているとでも言うような。
そこまで発想して、俺は各「施設」の位置付けを変えることにしたわけである。
イメージはまさに「有機的結合」……まぁ、簡単にいえば動物の内臓みたいな相互連携である。
この意味では、例えば多数の【産卵臓】を並べた『産卵室』が、労働力となる奴隷蟲や走狗蟲を排出する"心肺"と言えるならば――『結晶畑』とは、まさに迷宮の維持に不可欠な栄養を供給する肝臓"であると言えるだろう。
ちなみに『結晶畑』それ自体は、今せっせと拡張しながら魔素花120、命素花220を目指しているところである。多分、拡張の過程で隣の貯蔵室も吸収することになるだろうな……。
≪心肺~大産卵室≫
ちなみに"心肺"の方だが、現在ではさらに機能が拡張されている。
ポイントは【産卵臓】から胞化した【揺籃臓】を配置したことで、現在は両者を20株ずつ置いているところである。ちなみに『進化室』とも合体させ、戦闘種である走狗蟲系統育成のための【進化臓】も配置されている。
『液体因子』はまだゼロスキルレベルでしか扱えないため、日に何度か俺が訪れる必要があるが――将来的に、もっと大規模に勢力を拡張する際には、自動化も検討しなければいかんだろうな。常に俺がここに女王蟻みたいに張り付いているわけにもいかないだろうし……別に後方に引っ込んで配下に前線を任せるのが性に合わない、とかそういう意味じゃあない。
若い成り立ての女王蟻だって、最初のうちは自らせっせと働き蟻達の世話をするだろう?
それと同じで――俺は少々働き者というだけの話である。そっちの方が、もっと効率的にいろいろできるからな。
でまぁ、このように"心肺"機能が強化された俺の迷宮。
自動化が成った暁には、俺がその場にいなくとも、まるで血液が心臓のポンプから送り出されて全身を駆け巡るかのように、エイリアン達がこの部屋から、迷宮内の各地に送り込まれるようになることだろうよ。
そのため、リアル心臓さながらの太い血管――通路をいくつも繋げており、地下部では最大級の交通結節点の一つにもなってしまっているのだが……そのせいで、ますますラルヴァ達の脱走との追いかけっこが大変なことになっている。地味に奴隷蟲の労働力が割かれてるんだよね、連れ戻し。
まぁそんなわけで内政においても闘争においても最重要区画の筆頭であることは間違いなく、周囲にはいくつもの『罠部屋』や『罠通路』を配置し、また『詰め所』で取り囲んで厳重に防衛しているところである。
ここだけは、絶対に攻められる事態自体に陥ってはならないし、仮にそうなったとしたら迷宮を一時放棄して再起を図らなければならないだろうな。
無論、リスクヘッジをする意味で、蟻の巣式に他に数カ所通常の『産卵室』を"副心臓"の如く配置はしているが――効率を考えると、気休めレベルでしかないかもな。
さて。
"肝臓"、"心肺"と来たから、次は"脳"あたり行ってみようかな。異論は認める。
『きゅぴ? 呼んだ?』
『違うお前じゃない――おいおい、奴隷蟲達の監督はどうした? キリキリ計算して可能な限り"掘削"班に回してやってるだろうが』
『アインス達に任せてるきゅぴ! 僕は、へっへ~ん、"チーフ"なんだよ? みんなを監督するのがお仕事なんだよ!』
俺が生み出したという意味では6体は立場的には同等のはずだ。
だが、1点だけウーヌスと他の5体に違いがある。
それは、俺から知識を吸収し、俺とエイリアンの間の"翻訳"体系を完成させたのが、他ならぬウーヌスであるということだ。切れ者のモノや、心配性のアインス等は、その意味ではウーヌスから教えられたに過ぎない存在達であるのである。
――というか、そうでなくとも戦闘種エイリアン達やエイリアン=ファンガル達と違って、副脳蟲どもエイリアン=ブレイン種はかなり個体間の個性の違いが大きいようである。
なるほどな。
"群にして群"たる、名無しのエイリアン達。
"群なれど個"なのが、アルファ達"名付き"。
ならば、"個にして群"であるのが、この小学生並知能の脳髄生物どもなんだろう。
……思ったよりも、かなり面白い成長を遂げそうな気がしている。
俺の権能である『エイリアン』が、単なる環境塗り潰し兵器以上の存在となる鍵を握っている――そんな気がしなくもないが、今は想像レベルに留めておこうか。
『ほら、あっちいけ、しっし』
『ぷぅ~!』
さて、気を取り直して次の施設だ。
≪脳~司令室≫
【眷属心話】の使い方にも慣れ、「エイリアン語」の翻訳作業もウーヌスが一晩でやってくれたため、俺が自分のMPを消化して個々のエイリアン達に指令を送る手間も省略された。
以前いた某平和な異世界において発達していた某アプリの如く、ウーヌス達が維持している「エイリアンネットワーク」に俺の意識は半強制的に接続されており――グループチャットと個別チャットを自在に切り替える感覚で、特定の1体から班単位、小隊、中隊、大隊、そして迷宮全体へと段階を分けた指令を即座に送ることができるようになっている。
こうした「班-分隊-小隊-中隊-大隊」の編成は、迷宮の維持管理や巡回体制なんかとも連動しているのだが、無論それはぷるきゅぴどもを酷使して構築させた苦心の体制でもある。
ここに俺自身の【並列思考】の能力が加われば――地上を通過するスレイブ1体に新鮮なポラゴの実をもいでくるよう伝えながら、野生の葉隠れ狼の群れを壊滅または従属化に置くために派遣した、デルタ率いる一個中隊からの報告をリアルタイムで受け取ることも可能なのである。
まぁ、前者についてはいちいち俺が自分で伝えずとも、ウーヌス達に丸投げしてしまう方が多いが。
そのあたりの中間管理的なことをやらせるために、ブレイン達を生み出したわけだしな。
すると必然、そんなことをやっていると俺自身が島内を駆けずり回る必要が無くなってしまうわけで。
最初のうちは島の地理を歩いて把握するという目的意識もあったんだが、それも終わってしまえば、この部屋に引きこもって心話で指示を飛ばすことが多くなった。
そんなもんだから「進化」とか「胞化」とかの待ち時間を使って、適当に呼びつけたスレイブの【凝固液】を使って、ミニチュアの制作に打ち込んでいたわけだ。
固有技能【精密計測】のおかげか微妙に精度の高いものができて満足ではあるんだが、考えてみたらこれからが開発のピークなんだから、今のミニチュアはすぐに陳腐化してしまうかもしれない。
まぁ、せっかくだし飾ってはおくかな。
今はまだ幹部級も2人しかいないし、部屋はまだまだ広すぎると感じるぐらいだ。
一応、円卓会議をイメージした10人ぐらいが囲んで座れるような、ちょっと艶の良い石机とかスレイブ達に作らせたんだがな。
今後のスカウト活動に期待ってところだぁな。
ちなみに、司令室に接続するように俺の私室も作らせている。
んー。
やっぱ運動不足だから、『武術』鍛錬も兼ねてソルファイドに指導を頼もうかね、本格的に。
よし、"脳"の次は"胃腸"に行ってみようか。
≪胃腸~環状迷路≫
【魔界】【人界】問わず、侵入者が俺の迷宮内の重要施設へ行くためには、必ず通らねばならないエリアとして『環状迷路』を組み上げた。構想と基礎工事自体は、まぁゴブリンどもを殲滅する時から制作を進めていたんだがな。
今では小部屋大部屋、小通路大通路、罠部屋罠通路などを縦横に組み合わせた立体迷路じみたスペクタクルアスレチックゾーンとなっており、どんな凶悪で屈強な侵入者が相手でも、お楽しみいただけると確信しております……。
冗談はさておき、要するに我が迷宮への侵入者を「食らう」ことで処理してしまう、防衛用の施設である。何から何まで「エイリアン」達に頼れる場面でない場合もあるだろうし、むしろ誰も居ないと油断させつつその隙を突くということも、迷宮を守る者としては必要な心得だろう。
だが、ゲームみたいにボタン一つで最初から完成された"罠"が、これまた画面操作であっさり好きな場所に配置できるというのでも無し。
簡単な罠を配置するのでさえ、スレイブ達をしっかり動員して、計画的に本格的な工事として作成しなければならないのである。
そしてテストも当然必要だが……これは大した問題ではないわな。
え? どうしてかって? いるだろ、いくらでも使い潰せる「モルモット」が、さ。
しかも、だ。
今や、実験動物どもを増やすことが、以前よりハードルが下がっているのは、先に言及した通りだから、そのことについては改めて述べるまでもなく割愛するが。
……ル・ベリ歓喜の展開にしかならない気がするがね。
そうだ、そんなル・ベリの現在ステータスについて、ちょっと
【基本情報】(一部省略)
名称:ル・ベリ
種族:魔人(半異系統)
職業:奴隷監督
役職:農務卿
位階:20〈技能点:残り0点〉 ← Up!!!
【スキル】(~詳細表示)
この一ヶ月半、彼には「農務卿」としても「奴隷監督」としても精力的に働いてもらった。
そのおかげか「経験」をそこそこ濃い密度で得られたようで、位階が1上昇して20になったのだ。
前の時の振り残しと合わせ、また俺が【眷属技能点付与】をMAXまで上げたことに伴って、新たに振った技能点は9点。
……なに? 2点足りないだと?
半魔人君が張り切りすぎてねぇ。また勝手に【殺戮衝動:ゴブリン】が弐に上がったんだよねぇ! しかも【嘲笑と調教の女王】にも1点振られてしまったしねぇ!
おかげで【魔眼の芽】が1足りない状態になってしまったから、また数週間地道にレベル上げさせるしかないな。
俺の実験予定を狂わせてくれた彼には、罰として【抽出臓】24時間の刑に処しておいた。
――いや、まぁ俺が【眷属技能点付与】がランクMAXになって追加された分の技能点を点振りするのを後の楽しみとして取っておきすぎたせいなんだが……ル・ベリがソルファイドに謎の対抗心を持って、自分も【抽出臓】に入ると言い出して聞かなかったもんだから、つい。
……いかん、話が大きく横道に逸れた。
元の『胃腸』における"罠"の話だったな。
とりあえず、今の時点で考案し『環状迷路』を中心に迷宮に設置してある罠は下記の通りだ。
・石兵八陣 …… 規模:超大型、殺傷力:低、拘束力:特高
スレイブの【凝固液】と噴酸ウジの吐く【強酸】を組み合わせた、隠し通路の出現と隠蔽を組み合わせた「不思議のダンジョン(物理)」である。
通る度に道が変化していたり、場所が変わっていることの表現として……というかこれを運用するという意味でも、噴酸ウジの生産目標数を増していたりするわけだ。
・溶焙烙 …… 規模:中型、 殺傷力:高、拘束力:中
ヒント。爆酸マイマイの"酸殻爆弾"。
くっくっく……。
・毒槍穴 …… 規模:小型、 殺傷力:中、拘束力:低
その名の通り。ゴブリンどもの木槍と毒液を再利用、エコというわけである。
・崩落路 …… 規模:中型、 殺傷力:高、拘束力:中
・凝固沼 …… 規模:小型、 殺傷力:無、拘束力:高
スレイブの【凝固液】は、こんな風にも有効活用できるわけである――"乾かない"ように工夫する必要はあるんだがな。
などなどである。
さらに詳しい個別の性質については、実際に使用する機会が訪れた時に、また。
『きゅぴぃぃい? けちんぼ!』
『黙れ』
さて、次は"膵臓"たる『研究室』だ。
≪膵臓~研究室≫
・【抽出臓】……7株
・【進化臓】……5株
・【保存臓】……10株:内容物は、島内からかき集めた植物、鉱物、生物由来の素材などなど
新たな「因子」の取得のための施設である『研究室』を順調に性能強化していって、今に至っている。
まぁ、実験を行うことで、俺の迷宮に新しい"化学変化"を起こすってことで、体内のホルモンバランスを調整する"膵臓"になぞらえさせてもらった。
長期的には、ここで「研究」された成果が俺の迷宮を複雑深化させていくことで、総合的な戦力や対応力の強化に直接繋がるという意味では、将来を見据えるという意味で重要な役割を担っているわけである。
≪口腔~性能評価室≫
とにかく硬い地盤を探して深くまで掘りまくった結果、縦に長い円筒形の闘技場みたいな部屋になった。
まぁ、使い方は実際ある意味「闘技場」じみているのだがな。
ここでは、新種のエイリアンやエイリアン=ファンガルなどの能力テストを行う場である。そして、迷宮の開発状況を確認しながら内部を歩きまわり、俺が辿り着いた場所でもある。
ここが「闘技場」であるならば――さしずめ、見下ろす位置に設けられたこの場所は『観戦席』というところかな。
見下ろせば、数カ所の「入口」があり、今まさにテスト用のエイリアン=ファンガルと実験台のゴブリン奴隷が運び込まれてくるところだった。
「観客席」では、俺の"視察"に備えて先回りして段取りを色々整えていたのか、ル・ベリが頭と四肢触手を垂らして出迎えてきた。
なんか重役出勤みたいな気分になるね……悪くない。
「御方様、お待ちしておりました」
「おう、ご苦労ル・ベリ。ソルファイドはまだか?」
「はい。地上の開発で、馬鹿な奴隷が根喰い熊を刺激してしまったようで。近くにいたので、対処しているとのこと」
「んー……そういうどんな些細な情報でも俺の耳には入れておいて欲しいんだがなぁ、念のため」
「お望みならば、躾てみせましょう」
「いらんいらん。まだ心話に慣れてないだけだろ。それより……」
「は、準備万端整っております」
ひとまず、内蔵を模した施設紹介は、現時点ではこれで打ち止めだ。
今日の俺のメイン目的は、完成したばかりのここ『性能評価室』で、いろいろな戦闘データを取っておくことなのである。新種も増えたエイリアンとエイリアン=ファンガル達の戦闘テスト、というわけだ。
――リッケル子爵がヒュドラ相手にまだ遊んでいるうちに、これは済ませた方が良いとずっと考えていたのだ。
「それじゃ、始めるか。面白い発見が期待できそうだしな」




