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本編-0010 第二次遠征準備①

30分後。

そこには元気にもそもそ動き回るラルヴァの姿が!


ええ、【産卵臓】と言いつつきっちり孵化までやってくれましたよ、この肉塊は。

卵ができた後なかなか「排出」されないもんだから、設定間違えたかと思って何度も確認したものだ。

だが、よくよく観察を続けると、"杯"状の卵入れ部分のうねうねが伸びてラルヴァ=エッグの周りにまとわりつき、青に白にと血管のように鼓動していたのだ。栄養補給というわけか。


あぁ――そこまで含めての"排出"ということね。

となると「待機」モードとの違いは、本当に予約するか否かのみなんだろう。

多少予定と違ったが、ま、有為な一歩に変わりは無い。どの道今日はがっつりラルヴァを生産するつもりだ。

自動生成ONの効果か、次のラルヴァ=エッグが形成され始めていた。


「よし、やるか。情報閲覧:対象幼蟲(ラルヴァ)


確かラルヴァにも進化先で「???」があり、さらなる因子の解析だかが要求されていたはずだ。

すぐに奴隷蟲(スレイブ)に進化させる前に、そこを確認する。


果たして、そこには『進化:副脳蟲(ブレイン)』が新たな項目として加わっていた。

ただし、注意書きで後ろの方に「因子:肥大脳の解析が完了していません」ともあったから、進化させてみることはまだできないようだが。


んむ。

「副脳」か。

たしか大型の草食恐竜かなんかの腰あたりにあった神経の塊で、デカすぎる体の運動能力を支えるために、本体の脳を補助する役割のある臓器だ。

ということは、俺の迷宮領主(ダンジョンマスター)としての機能を補助してくれるということかな? これは新たな"拡張端末"くさいが……。

それと「胞化」ではなく「進化」に属するわけだから、スレイブやランナーと同じく動物型でもある、と。俺はなんとなくスレイブやランナーの、頭部が異常に肥大した姿を連想した。


ふうん。

便利そうだが、どの道後回しだな。

【肥大脳】の因子が解析完了した後で改めて確かめれば、それで足るさ。

俺はさっさとラルヴァに【進化:奴隷蟲(スレイブ)】を命じた。

巻いていくぞ、巻いて。


   ***


そして2時間後。

最初のラルヴァを手動でスレイブに進化させる間に4匹のラルヴァが孵化していた。

もちろん順次【進化】を命じており、3体は8時間かけてスレイブへ、1体は5時間かけてランナーへと進化する予定である。


え?

2時間もじっと作業していて、飽きないかって?

何をいまさら。初日は半日以上も無心にラルヴァ=エッグをいじり続けたこの俺、大丈夫大丈夫。


……俺は子供の頃、アリが大型の虫を解体するところとか、蜘蛛の巣に引っかかった虫が糸でグルグル巻きにされていくところとかが好きだった。

それこそ排水溝を水が流れていく様子とか、風車がクルクル回る様子、そういうのを眺めるのが好きだった。

なんというか、それで興奮するとかテンションが上がるのとは違うんだ。

無性に無心になれるのだ。

心が無になって余計なことを考えなくて良くなるというか。

動ではなく静。

その感覚を心地良いと言うならば、それは確かにそうだった。


ま、俺の身の上などは今に至ってはどうでもいいか。

目の前のことに意識を戻す。

今は、肝心のスレイブの胞化先がどうなっているか、だ。

これ次第で【産卵臓】を5体まず作るという方針も修正を余儀なくされるが――?


【スキル】

(中略)

・胞化:産卵臓

・胞化:抽出臓

・胞化:保存臓

・胞化:魔素結晶花 ← New!!!

・胞化:命素結晶花 ← New!!!

・胞化:???(更なる因子の解析が必要です)


「お!」


思った通り「解析済」の因子である【魔素適応】【命素適応】に対応した胞化先が表れていた。

てか「New!!!」て。

今は昔、個人ホームページの黄金期なんかによく見かけた更新表示だよおい。


まぁいいや。迷宮核さんの仕事に文句はつけまい。

んで、新たに2つ増えたものの「???」がまだ続いている、と。

今後、種類がさらに増えるということに、未収集の【因子】への期待感が膨らむ。


それにしても、今度は『臓』ではなく『花』と来たか。

迷宮核さんがわざわざ翻訳を分けている以上は、それなりの意味はあるだろう。

機能については、素直に言葉通りの意味を捉えれば、「魔素・命素」を「結晶」にする「花」となるわけだが。


魔素と命素は現状、この発光洞窟でこそ青と白の淡い光として見えるものの、実質的には見えないエネルギーと思って良いだろう。

それを「結晶」にするわけだから……おいおい、まさか本格的に『飛行◯』が作れる展開だったってことか?

俺はこの世界へ迷い込んだ時に、一番最初に驚いたことを思い出す。

ポ◯爺さんもびっくりだな、こりゃ――これ以上はいかんか。


【結晶花】は、おそらく目に見えず世界から"染み出す"魔素と命素を、結晶の形に固めて保存することができる機能なんじゃないかな。

そう思う根拠として、知識の中には『魔石』という存在があったからだ。

魔界でも人界でも滅多に採れないが、魔術の発動媒体として非常に高値で取引されるという、軍事物資としての側面も持つ存在。


物は試し、ということで1個ずつ作ってはみたいが――今は我慢だ。

眷属やら『施設』やらが増えて将来的に魔素・命素のフローが足りなくなるなんてことがあった場合に、使うことのできる「ストック」に相当するものと見て良いだろう。あるいは量産が見えてきたら「魔素・命素経済」から実際に目で見て把握ができる「魔石・命石経済」に切り替えることを検討するかだが。

魔素・命素のフロー限界がまだ見えていない今は、やはり【産卵臓】を増やし、まとまった数のスレイブ、ランナーを得るのが先だろう。


というか、施設1個作るのにはスレイブを1体消費しないといけないんだよ。

好奇心のままに「胞化」させまくってたら、いつまで経っても安定供給体制が整わないのだよ。

洞窟の【掘削】とか、物資の【運搬】とか、【凝固液】による洞窟内の整形だとか、あと予想が正しければラルヴァの世話とかで、スレイブ自体も労働力としてかなりの個体数を確保しておく必要があるだろう。


あとは、遠征時に連れられるランナーも増やしたいし、防衛用にもいくらか配置しておきたい。

そうなってくると、この『司令室(仮)』は今後手狭になるだろう。高校の教室程度の広さだからな。それを考えると拡張のためにスレイブを優先したい気持ちも出て来る……という貧乏性的思考ループに陥るわけだ。


だから【産卵臓】を増やして、単位時間あたりのラルヴァ生産量を増やすことが、結局は目の前の問題の解決には繋がる。

少なくともラルヴァ状態で置いておけば、後からスレイブにもランナーにもできる。


俺はスレイブに【胞化:産卵臓】を命じる。

スレイブは一つ目の産卵臓の隣へ移動し、その場でスポア化して胞化を始めた。


さて。

またしばらくは作業作業ひたすら作業である。

気張っていこう、気張って。


   ***


次に俺が頭を使うタイミングが訪れたのは、5時間30分後のこと。

1体のスレイブを手動で進化完了させ次第、途中まで自動で魔素・命素吸収していた、次の『スレイブ・コクーン』への手動進化へ移る。

それで、スレイブへの自動進化は8時間、ラルヴァの孵化間隔が30分毎であるから、細かい計算を省くと、最初のラルヴァ孵化から5時間半でスレイブが5体揃うことになるわけだ。

無論、全員順次【産卵臓】への自動胞化とする。


この30分前には【産卵臓】産では1体目のランナーがサナギを破って出てきていたんだが、手動での魔素・命素注入は集中力をそれなりに使うので、少しばかし待たせていたのだ。

ちなみに【産卵臓】からの7、8体目のラルヴァはランナーへ自動進化させており、1時間待てば俺の手持ちランナーは5体となる。

保有魔素も命素も余裕は十分にあるから、今【産卵臓】へ胞化中の『スレイブ・スポア』へ手動注入をしても良いのだが――。


ランナー5体を伴って、今度は【人界】側の道を探索するのが吉だろうか?

そのまま外へ出るかどうかはちょっと考えるつもりだが(人間から見たら魔獣以上に魔獣な外見だもんな、エイリアン)。

5体揃うまでにはラルヴァは10体追加される。

うち2体は【産卵臓】の護衛としてランナーに、8体はスレイブに進化指示しておけば、探索から戻った後にいろいろ捗るだろう。

戻った時にラルヴァがどれだけ増殖しているかも、ちょっと楽しみだしな。


スレイブの使い道については、戦果や戦利品に応じて考えが変わることもあるだろうが、今のところは【魔素結晶花】【命素結晶花】を1つずつ、【進化臓】を2つ、残りを労働力って感じで考えておくか。

【産卵臓】は5基で一旦打ち止めておこう。


んー。

俺が直接指示を出さないと、複数回の進化や胞化ができないのが少し不便だ。

事前に「奴隷蟲(スレイブ)になったらすぐに【胞化:進化臓】しといて」とかできまいか……あぁ、ひょっとして、そういう面を補ってくれるのが【副脳蟲(ブレイン)】だろうかね?

"主脳"である俺自身の固有技能を代替的に実行してくれる、という機能はあってもおかしくない――あったらいいな、という願望だが。

そうすると【因子:肥大脳】獲得のために、本格的に【人界】側を人間でも生け捕りにして、実験してみようか? ……発想が完全に悪の存在だな。リスクがちょっと高いから、やるつもりは無いけどな――今は。


さて。

考察していた間、我が3体目のランナーは、アルファやベータと挨拶だか威嚇だかよくわからない心温まる交流をしていた。

よし、こいつはガンマと名付けよう。


それじゃ、待ちわびた検証の時間だ。

俺は手始めに、ガンマに持ち帰ったゴブリン肉と青酸モモを食わせる。

あとついでにゴブリンの毒槍の穂先を舐めさせてみた。

毒は案の定ダメだったが……。


『――因子【強筋】の解析を完了――』


『――因子【強酸】を再定義。解析率を18%に更新――』


うん。

まぁ、これは規定路線だ。これで解析済の因子は3つとなった。

【魔素適応】と【命素適応】はスレイブの胞化候補を増したが、【強筋】はランナーの進化用だろう。

そしてランナーをあと28体作れば【強酸】の解析も完了する。これも……多分ランナー用だろうか?

まぁ青酸モモが100個以上は必要になるんだがな!


レベル上げがてら例の泉まで何往復かするか?

あるいは戦力を整えて青酸モモの群生地であった例の泉を一挙に制圧するか?

そしたらやっぱり「人界」側じゃなくて「魔界」側の外をもう一度探索したほうが良いか?


うむ。

悩ましいねぇ。


ゴブィザードの支援があったとはいえ、俺の横槍がなければゴブリン達は5体でボアファントを狩れていただろう。

ならば俺もランナー5体でボアファントを狩れるはず。

犠牲が出る前提でも、ランナー1~2体と引き換えならば、悪い取引ではない。

スレイブを十分に伴えば物資も多く運べるしな。


だが生肉……ん?

あ、そうか。

火をどうするのかって問題があったわ。

「魔法」とやらでどうにかならないだろうか?

だが、肝心の魔法ってどう覚えるんだろうな。簡単な発火だけでも起こせるんだったら、いろいろと、かなり捗るんだがなぁ――だてに人類の黎明となった技術の始まりに位置づけられてるわけじゃないってことか。

【疲れ得ぬ肉体】と【強靭なる精神】であまり気にならなかったが、じめじめしている湿気も多少どうにかできるかもしれない。


んで、魔法だよ、魔法。

【魔人族】としての種族技能には、あくまで【魔法適性】【魔法強化】というものがあるだけだ。ゴブィザードから得た因子【風属性適応】なんてのもあるが……因子ねぇ、そうなるとこれは技能とは別ということだろうか?


迷宮核の知識は万能ではない。

魔法という力と一連の現象が存在することに関する基本的な知識や、ある程度知名度の高い魔法についての知識はあっても、魔法それ自体が何を根源としたものであるか、どういう原理で発動できるのかについては、具体的に参考になるようなものは無かった。


――あるいは、迷宮核(ダンジョンコア)にその知識が無いということは、魔法という体系は迷宮(ダンジョン)とは異なる背景を持つシステムである、とも言えるかもしれない。


「神々の大戦、か」


それは500年前の【人界】と【魔界】の大戦よりもさらに前の話とされている。

迷宮核の知識を以てしても半ば伝説か神話じみたものだが――簡単に言えば、元は『諸神(イ=セーナ)』として世界創造に関わった神々が、2派に分かれて争った。

その時に敗れ、【魔界】を生み出してそこに撤退したのが【黒き神】であり、彼に付き従う眷属神達であるわけだが――【迷宮(ダンジョン)】というシステムがそれよりも後に創り出されたのならば、なるほど、魔法というシステムはそれ以前に生み出されたものではあるのかもしれない。

迷宮核の知識に無くとも仕方はないかな、そんならば。


まぁいいや。

とりあえずは今は、俺自身が魔法を使えるようになるにはどうすればよいかだ。

例えばイメージなんかで火を起こせたりしたら、すごく楽なんだが――ッ。


……。


ここでボフッと火が爆ぜてすっ転んでアフロヘアーになってびっくらこく、なんてのがお約束なんだろうが、特にそういうことは無かった。


考察に耽る間に、4体目5体目のランナーも進化が終わっていた。

こいつらはデルタ、イプシロンで決まりだな。


ひとまず戦力としてはこんなもんか。

それじゃ、第二次遠征と行きますかね。

道中でも魔法を覚えられないか、発動できたりしないか、ちょっと検証することとしようか。

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