32. 死に戻り令嬢の手に入れた幸せ
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「本日、新たなサスビリティ公爵家当主が誕生した! その名もドロレス=ローラ・サスビリティ公爵だ」
陛下のそんな声に紹介されて、たくさんの拍手と共に私は迎え入れられた。
「ローラ!」
「アレク……」
アレクがそっと手を差し伸べてくれたので、その手に自分の手をしっかり重ねる。
「そして、改めて王子、アレクサンドル・デュラミクスとの婚約も発表する」
その声にあわせて私はアレクと共にお辞儀をする。
またまた、会場は盛大な拍手に包まれた。
(お父様、お母様……)
成人した時の私に対してお父様が陛下たちに申し出ていた話というのは、私の改名についてだった。
───ドロレス=ローラ・サスビリティ
これが、私の新しい名前。
お父様たちが遺した願い────
『“ローラ”って確かにドロレスの愛称ではあるんだけど、本当はサスビリティ公爵家から王家に嫁いだこの国の初代王妃の名前なんだよね』
そう教えてくれたのはアレクだった。
『僕は先祖返りで初代の王の力も僕と同じくらい強かったと聞いているから、初代王妃は王を癒す役目も担っていたんだと思う』
その話を聞いて私は思った。
(もしかして、お父様たちはそんな意味も込めて私のことを“ローラ”と呼んでいたのかしら?)
私はアレクに向かって宣言する。
『アレクのことはこれから私がたくさん癒すんだから!』
『心強いな……でも、ローラが側にいるだけで僕はこのうえなく癒されてるけどね?』
なんて話をしながら二人で見つめ合った。
そして、その後が甘い甘~い空気になったのはもうお決まりのいつものことで……
「ん? ローラ? 大丈夫? 顔が赤いよ。疲れちゃった?」
「え!!」
どうやら、アレクとの甘い時間を思い出していたら、顔が赤くなっていたらしい。
そんな私の顔を見たアレクが何かに気づいたようにハッとする。
「……ローラ。君って子は」
「えっと、アレク……さん?」
アレクが私のことを後ろからギュッと抱きしめてくる。
「その顔はダメだ…………今すぐ二人っきりになりたい」
「っっ!!」
アレクが私の耳元でそんな言葉を囁く。
耳元でなんてことを言うの!
(……そうだわ!)
それだったら今夜……そうよ、今日なら……うん。
アレを試すなら早い方が良いに決まっている。
陛下にも確認したし恥ずかしいけれど許可も貰っている。
私は今夜こそ密かにずっと考えていたことを実行しようと決めた。
「アレク……ありがとう」
「ローラ? 急にどうしたの?」
「だって、アレクのおかげで“今”があるんだもの」
私は会場内で談笑し合う人々を見ながらお礼を告げる。
理不尽に何もかも奪われて、名前さえ呼ばれなくなっていた私はあの日、惨めに殺されたはずだった。
それを自らの命を懸けて戻してくれたアレクがいたから……
だから、今がある。
「僕はローラを失いたくなかっただけだよ」
アレクは優しく笑って言った。
「……」
「そしてローラを傷付けた奴らは、それぞれ処分を受けた」
「ええ……」
叔父と叔母はアレクの追及によって、お父様とお母様の乗る馬車に細工をさせたことを認めた。
理由は言わずもがな。
(本当は私も一緒に事故にあってくれれば良かったのに……とまで言われるとはね……)
ドリーは当時まだ子どもだった。
なので何も知らされておらず、まさか自分の両親が伯父夫婦の事故に関わっていたとは思っていなかったらしく、その場で大きなショックを受けていた。
そんな彼らは、まず伯爵家が取り潰しとなり平民となった後でそれぞれ最も過酷な刑務所へと送られた。
身分が平民なので貴族の優遇措置や温情などは一切ない。
そして一生出てくることも許されない。
(この先は生きているだけで地獄のような日々が待っている────)
ドリーに対しては乗っ取りは親に利用されただけ、と減刑を求める意見もあった。
しかし、決してアレクが首を縦に振ることはなかった。
(他の誰が覚えていなくても、ドリーが私を毒で殺そうとした事は事実だもの)
その後、ドリーの公爵家での横暴な振舞いが発覚し、減刑の声も全く聞こえなくなった。
そんなアレクは叔父に雇われ、サスビリティ公爵家にいて私を虐げた使用人達への制裁も忘れなかった。
すでに、ほとんどの人が公爵家から去って散り散りになったはずなのに彼らを一人残らず探し出していた。
(対面した彼らは私が本物だったと知ってガタガタ震えて脅えきっていたけれど)
アレクは何も言わないけれど、その中でもスザンナさんにだけは特別厳しい罰を与えたことを私は知っている。
きっとアレクは最初に私が誰に殺されたのかも知っていたんだと思う。
私の為に命を削って時を戻し、時を戻してからも体調が悪いのにどうにか私を助けようとしてくれていたアレク……
こんな時、本当に実感する。
“私は彼に愛されている”のだと────
そして、パーティーが終わったその日の夜。
「ローラ? 公爵家に行きたいだなんてどうしたの?」
「……」
私はちょっと無理を言ってサスビリティ公爵家に行きたいとアレクにお願いした。
王宮とそんなに離れていない公爵家には、馬車を使えばすぐに辿り着く。
到着し、門の前に立った私はそっと屋敷を見上げる。
(帰って来た……)
「あのね? ここを飛び出した日に私は思ったの」
「?」
「……ここにはもう戻らない。でもね? もしも、再び私がここに戻る時があったなら。その時は………あの人たちから奪われたモノを全て取り返す時よ……って」
「ローラ……」
「取り返してからにはなってしまったけれど……戻って来ることが出来たわ」
───サスビリティ公爵家の新たな当主として!
アレクはそう呟いた私を優しく抱きしめてくれる。
その温もりを感じながら私は心の中で問いかける。
(お父様、お母様…………ただいま!)
───おかえり、ローラ。
私の大好きだった微笑みを浮かべたそんな二人の優しい声が聞こえた気がした。
「ア、アレク……あのね?」
「どうしたの? ローラ?」
私はサスビリティ公爵家の門の前で照れながらアレクに言う。
(頑張れ、私! 言うのよ!!)
「こここ今夜は、わわわ私とここで過ごして!!」
「えっ!?」
「誰にも邪魔されずに……ふふふ二人っきりで……今晩はアレクとす、過ごしたいの……あのね、公爵家に今は使用人いないけど、掃除だけは毎日王宮の侍女達がして…………んっ」
アレクの唇に塞がれて続きは言えなかった。
「……っ」
びっくりしていると、アレクの少し怒った声が聞こえる。
「…………ローラは意味を分かって言っているの? 僕の理性はペラッペラだと前から言っているよね?」
「わ、分かっているわ! 分かって、い、言っているし……その……それにね、もしかしたらアレクの───……んむっ」
再びアレクの唇が私の唇を塞いでしまう。
「僕の可愛い可愛いお嫁さんになる子は、とんでもなく大胆だな……」
「……だって」
「ローラ。今夜は疲れているだろうけど、眠れないと思ってね?」
「ア、アレク……?」
アレクはそう言って私を横抱きにして、公爵家の門を開けて中に入った。
その後、理性が旅に出てしまって当分戻って来ないから、と宣言したアレクに思っていたよりも激しく愛された私は、しばらくの間、アレクに重大なことを言いそびれることになる。
───私達が結ばれることが、アレクの一番の治療法らしいってことを。
そして、おそらく私の為に力を使って失った寿命も元に戻るはずだってことも────……
…………こうしてある日、全て奪われて何もかも失って死に戻った私は、
名ばかり婚約者に実はとても愛されていて、彼のおかげで全てを取り返し、とっても幸せな未来を掴み取りました!!
~完~
これで完結です。
ここまでお読み下さりありがとうございました!
元々他サイトでは2022年の9月頃に投稿していた話です。
転載するにあたってかなり加筆と修正を加えました。(疲れた)
同時に連載投稿した方が疲れないんでしょうか……
この話はよくある(?)婚約者に放置される主人公を書きたくて書いた話です。
ですが、私は一途なヒーローが好きなので、放置理由を他の女が……とかにしたくなくて。
それで病弱設定になりました。
ざまぁが甘いとか色んなご意見もあるかと思いますが、
私は残虐ざまぁが嫌い(生きて苦しめ派)なので、これで容赦いただけたらと思います。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
ブクマ等々もありがとうございます。
完結記念にもっとポチッとして貰えたら喜びます。
本当にありがとうございました。




