表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/69

33. 視聴者参加型企画

「まぁまぁ、エリザベータ」


 枢機卿が慌てて仲裁に入った。


「彼女はまだ新人冒険者だ。魔王の脅威など、実感できなくて当たり前じゃないか」


 マオは内心で舌打ちした。


(もう帰りたい……)


 敵地の中枢で正体を隠しながら、意味不明な説教を受ける。これほど屈辱的な状況があるだろうか。


(まぁまぁ、陛下! 奴らは金貨ですよ嫌なことを言う金貨。スルーしましょう。スルー。何言われても金を得た者が勝ちなんです!)


 リリィは必死になだめ、マオは深いため息をついた。



      ◇




「前置きはさておき、具体的な相談をしたい……」


 枢機卿がずいっと身を乗り出す。


「当初の予算から大幅に契約金が増えた分、少し協力をして欲しいことがあってね……」


「は? 協力……ですか?」


 嫌な予感がした。


「何、大したことじゃない。配信のダンジョンをだな、我が教国郊外の聖遺跡(せいいせき)月骸の(ムーンレス)聖壇(レクイエム)にして欲しいんだ」


 マオはリリィと目を合わせる。


(ダンジョンの場所など、どこでも構わんが……)


(まぁ、問題は……なさそうですね)


 リリィは小首をかしげ、うなずいた。


「まぁ、そのくらいなら」


「おぉ、ありがとう!」


 枢機卿の顔が、パッと明るくなる。


「どうしても王国周辺のダンジョンばかりが賑わってしまってね。最近は、こちらは閑古鳥が鳴いていて困っていたんだ」


 ダンジョンの入場税は、管理国の収益になる。多くの冒険者が訪れれば、周辺の宿屋や商店も潤う。ダンジョンは国力に直結する重要な観光資源なのだ。


「では、次の配信は月骸の(ムーンレス)聖壇(レクイエム)で……」


「ちょっと待って」


 聖女の冷たい声が、会話を遮った。その瞳が、獲物を狙う蛇のように光る。


「企画はあるの?」


「えっ!? き、企画……ですか?」


 マオは突然の話に言葉に詰まる。


「そうよ! 二十万ゴールドも払うんだから」


 聖女は嘲笑を浮かべた。


「視聴者数が爆上がりする企画がなきゃ、納得できないわ!」


「そ、それは……」


 マオは慌ててリリィを見るが困った顔をするだけだ。いきなりそんな企画など、思いつくはずもない。


「前回は勇者と戦ったんでしょう?」


 聖女の笑みが、さらに意地悪く歪む。


「だったら今度は……そうね、魔王でも連れてきなさいよ!」


 一瞬、室内の空気が凍りついた。


「……は?」


 マオは聖女の無茶振りに言葉を失う。


「ま、魔王!? さすがにそれは……いくらなんでも無茶だ!」


 枢機卿の顔が、真っ青になった。


「ま、魔王は止めましょう。魔王が配信など、出てくれるはずがありません!」


 マオも慌てて否定する。


 ――自分自身とどう戦えと言うのか?


 聖女は優雅に肩をすくめた。その唇に、侮蔑の笑みが浮かぶ。


「あんな脳筋バカなら、『強い奴が対戦を望んでる』って言えば、尻尾振って飛んでくるわよ」


「の、脳筋……!?」


 マオの思考回路が、完全に停止した。


 五百年の魔王人生。恐怖の象徴、暗黒の支配者、絶対的な力の権化――様々に呼ばれてきたが、まさか『脳筋バカ』呼ばわりされる日が来ようとは。


「ぷふっ!」


 横でリリィが噴き出した。慌てて小さな手で口を押さえるが、肩が小刻みに震えている。


(何? まさかお主……笑っておるのか?)


 マオの鋭い視線にリリィはビシッと背筋を伸ばした。


(と、とんでもございません! 失礼な女ですよねっ!)


「ま、魔王はまずい! それが引き金になって、大陸戦争にでもなったらどうするんだ!」


 枢機卿が渋い顔で首を振る。


「冗談よ」


 聖女は鼻で嗤うと涼しい顔で髪をかき上げた。


「でも、それくらいのインパクトがないと。魔王がダメなら……」


 彼女は天井を見上げ、わざとらしく思案のポーズを取る。そして突然、パチンと指を鳴らした。


「そうだわ! あんた、ダンジョンボスをやりなさい」


 ニヤリと笑いながら、マオを指差す。その瞳には、意地悪な輝きが宿っている。


「は?」


 次から次へと繰り出される理不尽な提案に、マオの頭はパンク寸前だった。


「ダンジョンのボスって、魔王軍の管轄でしょう?」


 聖女は勝ち誇ったような顔で続ける。


「魔王軍の許可を取って、あなたがボスになればいいじゃない。簡単でしょ?」


「え? 私が……攻めてくる冒険者と戦う?」


 マオは困惑した。配信者がダンジョンボスになる? そんな話は聞いたことがない。


「そうそう! 視聴者参加型イベント!」


 聖女の声が、興奮で高くなった。


「『美少女剣士マオを倒せ!』って触れ込みで。絶対盛り上がるわよ? くふふふ」


「ほう!」


 枢機卿も身を乗り出した。その目が、子供のように輝いている。


「攻めるのではなく、冒険者を迎え撃つ! これは革新的だ! 聞いたことがない! うむうむ、実に面白い!」


 完全にノリノリである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
始めに無茶な提案をして次にできない事はない提案をする。 バカそうに見えて上手い交渉術だ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ