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29 最終話

 あれからふた月が経ち、私は公務にも復帰をし少しずつ社交も行うようにしている。

 そろそろ夜会などにも出席した方が良いのではと考えているが、それについてはエルティミオ様の許可がなかなか出なくてまだ当分出られそうにない。


 先日は久しぶりに悪役会(乙女ゲームの悪役令嬢キャラでの集まり)を開催した。会えていなかった二年半の間に、みんな結婚しており、全員から「リナルーシェ妃にも招待状を送ったのに体調を崩されていて残念でしたわ」と言われて、王宮から逃げ出した過去を心底後悔した。


 アリシアとはあれから会っていないが、手紙のやり取りをしている。

 アリシアは内緒で私のことをエルティミオ様に引き渡したジェラルド殿下に大激怒したらしい。私からの手紙も読んだのだが、アリシアの不在の間にお別れもできずにいなくなってしまっていた、というのが特に気に入らなかったらしい。友好関係にある隣国の王太子夫妻が不仲であるのはよろしくないと思うので、アリシアに手紙を出すたびに『ジェラルド殿下のお陰で今は幸せです』と書くようにしている。

 その後の二人の様子は手紙には書かれていなかったが、結婚式は一年後の予定だと教えてくれたので、無事に仲直りはできたのだと思う。二人の式にはシェフレラ国王の代理として私とエルティミオ様が参列を予定しているので、今からとても楽しみにしている。



     ◇



 ある日の夜。


「アルヴィン、おやすみ」


 エルティミオ様はいつものようにアルヴィンの頭に口づけを落として部屋を出ていこうとした。


「ん?」


 だが、アルヴィンはエルティミオ様の服の裾をしっかりと握っていて離さない。


「どうしたんだい、アルヴィン?」

「……ちょ」

「ん?」

「いっちょ、ちゃんにん、いっちょ、ねゆ」


 アルヴィンは小さな声で何か言っており、私はもしかして……と思った。


「アルヴィン、三人で一緒に寝たいって言ってる?」


 私がアルヴィンに確認するとアルヴィンは小さくコクンと頷いた。

 途端にエルティミオ様の顔がパアァッと物凄い光を放ち始める。


「寝よう! 今すぐ! 三人で!」


 そう言うエルティミオ様はまだ執務室に戻る予定だったようで、夜着ではなく洋服を着ている。


「あ、このままでは寝られないか……! ちょっと待っててくれ」


 そう言って部屋を出ていったので、私はアルヴィンに「絵本でも読んでパパを待ちましょ」とアルヴィンに読んでほしい絵本を選ばせた。

 そして寝台に入り絵本を読もうとしたところでエルティミオが夜着を着て戻ってくる。髪の毛もわずかに濡れている様子を見るとちゃんとシャワーまで済ませてきたのだとわかる。

 私は思わず「はやっ」と声を漏らしてしまう。


「うん、アルヴィンの寝る時間が遅くなってはいけないからね!」

「執務は大丈夫なのですか?」

「明日、倍速で進めるから大丈夫! 今、最高に幸せな気分だから多分三倍速でもいける気がする」


 エルティミオ様はキラキラした笑顔でそう応える。

 もうすぐ二歳になるアルヴィンは私にはベッタリだが、エルティミオ様に懐いている様子が見られなかったので、アルヴィンの変化に私も微笑ましい気持ちになる。


 アルヴィンの選んだ絵本はエルティミオ様が読んでくれた。そして部屋の照明を薄暗くして三人で手を繋いで眠りに就いた。

 私も最高に幸せな気持ちになった。



 だが──


「うぅ……ううっ……」

「アルヴィン……? ちがう? エルティミオ様……?」


 うなされるような声が聞こえて目が覚めた。


 アルヴィンを挟んで向こう側で眠るエルティミオ様は眉間に皺を寄せて、汗びっしょりでうなされていた。


 起こした方が良いのか悩んでいると小さく「ルーシェ」と呼ぶ声が聞こえる。

 寝言だろうか。

 すると彼はうなされたまま声を出す。


「目を開けて……愛していると言ってくれたじゃないか……」


「ねぇ、ルーシェ……もう一度……私を愛していると言ってくれ……」


 っ!


 ――私が死んだ時のことを夢で見てる……?


 彼は目を瞑ったまま「うーん」と唸り苦しんでいる。

 隣で眠るアルヴィンは熟睡しており、うなされている彼に起こされることはない。


 私も過去には何度も悪夢を見た。地下牢に入れられたあの時のことを……

 だが、偽者を判断できるようになった今、もう悪夢を見ることは無くなった。


 目を瞑る彼の目の端から一筋の涙が見え、どきりとした。


 ――エルティミオ様の涙、初めて見た。


「ルーシェ……ルーシェ……」


 小さく苦しそうな声で紡がれる私の名前。

 彼はいまだに私が死んだときの悪夢に苦しんでいる。辛い思いをしたのは死んだ私だけではない。


 私は手を伸ばしてそっと彼の手の上に私の手を重ねた。

 そしてアルヴィンを起こさないよう、小さな声で囁く。


「私はここにいます」


 私は少しだけ手に力を入れてみる。


「もう私はどこへも行ったりしません。ずっとあなたの側にいます」

「ルーシェ……」


 彼は目を瞑ったまま少し安堵したような声を出す。


「私もあなたを愛しています……エル様……」


 私はアルヴィンを潰さないよう気を付けながらエルティミオ様に口づけた。

 するとエルティミオ様は目を瞑ったまま表情を緩めてスーッと穏やかな眠りに就く。私はホッとして再び寝台へ潜り込んで目を閉じる。



 朝になったらもう一度彼に愛してると告げよう。そんなことを考えながら眠った。





 翌朝、起きて早々にエルティミオ様は私から「愛しています」と言われ、アルヴィンからは「ぱぱ、おはよう」と言われ、「えっ? 今日、私、死ぬのかな……?」と戸惑いながらくしゃくしゃな顔で泣いていた。

 昨夜初めて見た彼の涙だったが、こんなに早く二度目の涙を見ることになるとは思わなかった。


「死んだらもう聞けないから、もう一度言ってくれる?」

「死なないと思いますが、何度でも言いますよ。エル様……愛しています。いつまでも……あなたを愛します」


 エルティミオ様はそれを聞いて「ああ」と胸を押さえて何かに浸っていた。

 そしてアルヴィンも彼の服を引っ張って「ぱぱーっ」と言う。そして彼はもう一段階高い音で「ああ」と感嘆の声を漏らした。


 彼は涙を拭って心を落ち着け、スーッと息を吸ってから言う。


「私も……! 私も愛しているよ。ルーシェ……アルヴィン……」


 エルティミオ様は私とアルヴィン、二人をまとめて、きつく、ぎゅうっと抱きしめた。

 とても幸せな一日の始まりだった。



今作はこれで完結とさせていただきます。

拙い文章でしたがお読みいただきありがとうございました。

評価いただけると嬉しいです。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました(^^)



【追記】

ムーン版がリブラノベルさまより電子書籍化しました!11月25日シーモア先行配信(その他書店は12月18日)

詳しくは…お手数ですがムーンの活動報告を覗いていただけると幸いです。


せいかな

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