悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー10ー
しかし、サイガが思っていた状況とは違っていた。キースがいた事には間違いないのだが、その相手は暴走した魔族や魔獣などではなく、複数の人間と魔族がキースを攻撃していたのだ。
「何やってるんですか!」
シリアはキースに向けられた攻撃を風の魔法で方向を変え、サイガはキースを庇うように前に立った。
それを見た相手側は攻撃するのを止め、散り散りに逃げ出し、それをサイガとアイシャ、キースも追いかける事はしなかった。
「……何のつもりだ。お前達が邪魔しなければ殺す事が……違う……捕まえる事が出来た。私が暴走化を止める事で、相手は狙ってきたのかもしれないな」
「何ですか!せっかく助けてあげたのに……キース先輩がそんな人とは思っていなかったですよ」
シリアはキースに対して怒っているが、サイガにはそんな気持ちは起きなかった。
「……邪魔したようだな。聞きたい事があったんだが、俺の勘違いだったかもしれないからな」
学園で起きた事や暴走化事件を全てキースが裁いている事から、何かを企んでいるのはキースではないかとサイガは考えていた。
しかし、キースが狙われたのであれば話は変わってくる。それに謎のゲートから流れ出た殺気はキースから放たれておらず、魔獣を殺したとはいえ、サイガとエリスを助けたのだ。
「私も暇ではないんでな。用がなければ行かしてもらうぞ。それと……今後邪魔するような事があれば……妨害として、攻撃させてもらう」
キースの目が一瞬だが、蛇のような目に変わった。しかも、先程の相手に攻撃を受けたのか、腕に傷のような物が出来ているように見えるのだが、そこからは血が流れた様子がない。回復魔法を使用したとしても、傷が塞がらない状態で血が止まっているのは奇妙だった。
「こっちも忠告しといてやる。首落としの……あの魔法はもう使うな。体に影響が出て……戻れなくなるぞ」
断頭台の刃の魔法を使った代償で、キースの体の構造が変わろうとしているのかもしれない。この魔法は他の魔族、人間が使えるようになったかと思ったが、そうでない事はキースの状態を見れば分かる。
「何を言うかと思えば……この魔法を使う度に力が増してくるのが分かるんだ。どんどん溢れていき、このまま行けば……勇者にも勝てる。そうすれば、マキナ様も分かってくれる。マキナ様に必要なのは誰なのか」
キースはサイガの言葉を無視し、空き地から出ていく。夕陽の光からキースの影が映し出されるのだが、サイガの目には人影から違う物へと変貌していこうとしてるように見えるのだった。




