波乱の生徒会選挙 銀髪眼鏡VS魔王 ー16ー
エリスは悲鳴が聞こえた場所に走り、サイガも自転車を押しながら後を追った。
そこには狼型の魔獣が咆哮し、周囲の露店などを破壊していた。
「そこのアンタ!一体何があったの」
「魔獣便をしていた魔獣が突然暴れだしたんだよ。君も早く逃げたほうがいい」
エリスは魔獣がいる場所から離れようとする男を捕まえ、状況を聞き出した。
「暴れだしたって……サイガ!魔族のアンタなら、魔獣がどういった状態なのか分からない?店とか壊してるようだけど、人を襲うのは堪えてるように見えるのよ」
サイガが魔獣を確認すると、瞳が自我がある状態と暴走状態である真っ赤な瞳が交互に変化している。暴走状態は魔獣の本能が抑えきれず、人間を喰おうとしてもおかしくない。
「……暴走状態になろうとしてる。それを痛みで元に戻ろうとしてるんだ。だが、その自我がなくなれば人を襲いかねないぞ」
魔獣は建物や露店に体当たりをしているのは破壊が目的ではなく、痛みで自我を取り戻そうとしているのだ。
「誰か……俺を……止めてくれ……このままでは……パートナーに……迷惑が」
魔獣は意識が途切れ途切れになりながらも助けを求めた。それは自分の事よりも人間界のパートナーを気にしての事だった。それは自分が犯した罪が、パートナーにも降りかかるからだ。
「なら、気絶されても元に戻るかもしれないわよね」
エリスの体からは僅かながらの魔力しかなく、武器も持たない状態で戦おうとしている。
「無謀だ……ここは俺が何とか」
サイガも武器を持っていなかったが、魔法を使う事が出来る。魔獣を助けたいのであれば、エリスが聖剣を呼び出せたとしても、その威力で殺してしまう。
「こっちを向きなさい。私がアンタを助けてあげるから」
エリスは聖剣を呼び出さず、魔獣の目を自分に向けさせるために大声で叫んだ。それによって、魔獣はエリスの方に向いたのだが、それは間違いだった。
魔獣がサイガとエリスを認識した途端に真っ赤な瞳から変わる事がなくなり、口からは大量の涎が溢れ出した。それは完全に暴走状態に入った事を意味し、二人に殺気を放った。
その殺気は謎のゲートから出た殺気と似ており、魔獣の牙や爪が鋭く、筋肉も膨張し始め、三メートルほどの大きさが倍となっていく。
再度咆哮するが、その咆哮も先程とは違い、逃げる人々を竦み上がらせる。それは獲物を逃がさないようにするためか、もしくはここで戦えば周囲に被害が及ぶ事から、サイガとエリスの攻撃を制限されると察しての行動なのか。




