兄弟機、姉妹機対決 ー8ー
「くそっ……エリスが離れたタイミングを狙ったのか。砕牙を使ったとしても力が完全に戻ってない状態で防ぐのは……それでも」
エリスがいたとしても魔法が使えない状態であり、解除するのにも時間の猶予がない。砕牙で無属性の力を引き上げても、今の体では吸収の許容範囲を越えてしまう。サンファイアボールを止める手段をサイガは持ち合わせていない。
だが、少しでも威力を弱めるためにサイガは上空に跳び、大剣からラバーカップに変化させた砕牙で受け止めた。その魔力に砕牙が壊れてもおかしくないのに、上手く外に流すような仕組みになっている。だからといって、消す事も降下を止める事は出来ない。
「……相手はわしの事も知っているんじゃろうな。全体の状況を把握させないようにするために仕掛けたのか?」
アイシャは蝙蝠と入れ替わり、サイガがいる場所に移動した。それも散らばさせた蝙蝠に与えてる魔力の供給を断ち、サンファイアボールに対抗するため。
「相手の事はいいから……早くどうにかしないと」
この魔法に対抗する魔力をアイシャは持っているのは確か。だが、魔法の選択によってサンファイアボールが分散する形になり、被害は最大を免れるだけになってしまう。
「分かっておる。何も考えずに来るわけがなかろうが。蝙蝠を一羽だけ移動させた。最小限には抑えてやる」
アイシャは砕牙から流れ出る魔力も利用して、ラバーカップの丸い形が巨大化したかのように、目の前に巨大な穴が出現させた。それは次元の穴のようにサンファイアボールを飲み込んでいき、ここから離れた海に移動させた。アイシャと蝙蝠が入れ替わったように、穴の移動先にしたのだ。
「よし! 下の魔物は兵士達に任せて、サンファイアボールを放った術者を見つけ出さないと」
サンファイアボールが魔方陣を消滅させたおかげで魔物の出現も止まり、サイガが下を見ると兵士達が全ての魔物を倒していた。それは建物に隠れていた人々も脅威が無くなったと思ったようで、次々に外へと出てくる。
「いや……其奴はこの場から消えたぞ。逃げていく人々の中、マントで姿を隠した怪しい奴が紛れておった。こちらを見ながら、影の中へ移動した。オメガの逃亡と同じ方法じゃな。つまり、奴の役目は終えたという事。いまいち納得出来んが」
逃げた相手の目的はアイシャをこの場に呼び、全体の状況を把握するのを阻止する事。本当にそうなのだろうか。相手の目的はサイガ達を倒す事。戦力を分散させるのは当然。それをさせるためにアイシャの蝙蝠を封じなければならなかった。だが、サイガとエリス、カテジナはパートナー関係になり、連絡を取り合える。アイシャと店長も同じ。サンファイアボールを放った者の目的は不透明なのだ。




