店長は過去を語る ー9ー
「私はメジーナではありません。ご自分の娘を間違えるなど……メジーナがそれを聞いたらどう思うか」
「何を言い出すかと思えば……間違うはずがない。私が見ても、お前はメジーナではないか」
カテジナはメジーナの母親の言葉を否定するが、父親でさえもメジーナと認識している。だが、二人の言葉は坦々としており、メイドの時と同じで感情が見えない。
「……本気で言ってるわけ。親がこんなのだから……止めないでよ!」
エリスは父親の言葉に苛立った。親の駄目さ加減には通じるところがあり、思わず殴り掛かろうとしたのを店長に止められた。
「この二人も先程のメイドと同じだ。メジーナの親ならば人間であるはが、そうではなくなっている。その証拠にエリス達に一時的に反応しただけで、動きを止めてしまった。
「いつから……オメガから何も聞いてませんよ。メジーナは女子寮に移ってからなのか……」
この状態はアズの両親だけでなく、メジーナの親も殺されていたのも同然。これを知ったからメジーナは暴走した理由の一つにもなり得る。
店長は指示に従うのならばと、オメガの情報を引き出そうとしたが制限されているのか、消去されたのか何の反応を見せない。自分達で探索するしかない。この状態で止められる事もない。
「ねぇ……この状態ならお金とか必要じゃないと思うんだけど。金目の物を貰ったら駄目かな」
エリス達は屋敷内で別行動を取った。光も店長の片目が懐中電灯になり、エリスに渡した。そこで最初にエリスが入ったのは調理場だった。警備員と鬼ごっこをしている時から何も食べておらず、盗み食いをするため。だが、食料は腐った状態のままで保存されていた。三人は人間でなくなった時から食事を取っていないのだ。それを考えると金目の物が無くなっても、気付かないのではないかとエリスは考えた。こういう状況でも、エリスは抜け目がなかった。
「メジーナを助けた後にでも、報酬として貰えばいい。私もこれを……」
店長はメジーナの部屋らしき場所にいた。タンスでも探していたのか、下着を手に取っていた。いつもなら忍ばして持って帰りそうだが、握りしめながらも元に戻した。カテジナがその場にいなかったのは救いだろう。
「それよりもこれを見てくれ」
下着を手に取っていた事はなかったように、店長はエリスに何か見せようとした。それはメジーナの日記帳。女子寮に持っていかなかったのか。それでも乙女の秘密が書かれているのを見るのは下着を手に取るのと同等に、女にとっては最低な行為だろう。
「行方を捜すためで仕方ない事だけど、他にしたらどうなるか覚えておきなさいよ」
エリスは他の女子に日記を盗み見しないように釘を刺しながら、メジーナの日記に目を通した。最初は何気ない日常の出来事を書いていたが、終わりに近付くと内容が変化していく。両親や研究の事が書かれながら、永遠の命のような事も記されているのだ。




