店長は過去を語る ー6ー
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「俺を置いて行くなんて酷くないか。話も見えてこないし」
「別に必要ないから。アンタはオメガの動向を監視するとか、アズの手伝いをするとか色々とやる事があるでしょ……以上!」
エリスはサイガとの腕輪でのパートナー通信を切った。エリス、店長、カテジナは学園を出て、マミルトン家まで車で向かっている。学園にある地下研究所を抜け出す時、オメガの妨害はなかった。サイガが残っていた事で時間を稼ぐ形になったのだろう。
「あの……置いて行くのは危険なのでは? 私が抜け出したのを知ったとすれば尚更」
カテジナはエリスの隣に座り、サイガの心配をした。サイガから連絡があってカテジナも存在を思い出したわけなのだが。
「大丈夫大丈夫。私のパートナーだから、普通じゃないの。カテジナも戦った事があるから分かると思ったんだけど、女だから本気を出さなかったんでしょ。なんせ、アイツは……」
エリスはサイガが魔王である事を滑らせそうになるが、何とか踏み止まった。勇者と魔王が手を組んだとなると、世界から色々と制限をかけられそうだからだ。
「変態だから。攻撃するよりも、受けたいのよ。店長と同じ……じゃない。それよりも勝手に車を使っても大丈夫なの?キーもなかったわよね」
エリスは店長の性癖をカテジナの前に言うのは駄目だと思い、違う話題にした。車を運転しているのは店長。自転車とは違い、流石に車に変形出来るほど店長は大きくない。それでも動かすための鍵がないのにも係わらず、車のドアを開けただけでなく、エンジンも動かした。機人なら車を鍵なしで動かすぐらい可能なら、鍵の意味がない。
「安心しろ。他の機人なら犯罪になり、人間のパートナーに罪を被せてしまう。だが、私とワーエンドは特殊だからな。それに盗んだのではなく、借りただけだ。カテジナに許可を取ったといえば通じる」
店長は悪ぶれもせず、堂々と口にしている。カテジナの前では普通でいたいのか。
「研究所用の車なので、私が乗っていれば問題ありません。そろそろマミルトン家に着くのですが……」
外はすでに夜になり、暗闇に支配される時間。マミルトン家は住宅街の外れ。そこまでが一本道であることから人通りがなく、電灯も多く設置されていない。それにより、マミルトン家の館の光が道筋にもなるはずなのだが、その目印がいつまで経っても見えてこない。夜といえど、まだ寝るには早い時間。親もメジーナを心配しているのならば家を空けるとは思えない。




