店長は過去を語る ー5ー
「その話は本当なのですか? 私が元人間……マミルトン家の血縁者だと……貴方が人間や機人を私が憎むような口ぶりをした理由はこれなのですね。それなら……私も知る必要があります。マミルトン家には一緒に行きます。メジーナを助けるためにも」
メンテナンス中であるはずのカテジナがエリス達の前に姿を現した。メンテナンスしながら、繋がれた線によって研究所で発生した会話を取り込んだ。そこで過去の話を聞き、いてもたってもいられなくなったのだろう。
「盗み聞きか……それは認められない。お前はメンテナンス中だ。それに狙われているという自覚がない。メジーナを助けるためと言うが、助けるのが殺す事になるかもしれない。自分を餌におびき寄せた結果、兵士達に捕まるかもしれない。戦闘する事も出来ない。聞いた事は消去する事を薦めるが」
「それは出来ません。記録ではなく、記憶しましたから。殺す事が救いなら……それをするのは私の努めです。それに……取り戻したい記憶はまだあるんです。貴方との記憶を……」
三人の関係にどう店長が関係するかは話していない。カトレアの頼みに店長は答えた。それはカトレアではなく、カテジナのためなのか。カテジナにある秘めた気持ちは過去に関係していると判断出来る。
「いいんじゃないの。それなら、私も一緒に行くから。カテジナが戦えない場合、守る事が出来るわけだし。カテジナしか分からない事もあるかもしれないでしょ。嫌な記録になるかもしれないけど、機人になった事とか、目覚めてからの事。そこは店長にも分からないだろうし」
エリスがカテジナの記憶ではなく、記録と言葉にしたのは死んだ状態になっていたから。それで得られるのは記憶ではなく、記録になる。さらにカテジナが目覚めた事に何か関係するのなら、その記録も必要になる。考えてみると、店長の話を事実であるとすればカテジナを目覚めるのはアズではなく、メジーナ。メジーナとカトレアが似ているなら、アズもアズィールと似ている事になる。メジーナがアズに発した言葉がカトレアだった場合、アズをアズィールと間違った事になる。それなら、カテジナはこの時代ではなく、アズィールの声で目覚めていたはず。因果ではなく、別の何かが関係している。
「……メジーナを殺す事になっても躊躇わないな。敵対するようになれば私が殺るぞ。お前を守る事もしなければ、邪魔するようであれば……」
それは国を敵に回しても、カテジナを破壊するという事だろう。下手すれば世界に危険が広がる、ミクス国で起きた二人の魔王、残虐や死霊の出現と同レベルと店長は考えているのだ。
「その時は仕方ありません。私を殺しても構いません。自ら死を選びます。本当は死んでいるはずなのですから」
「ここには二度と戻れなくなるぞ。十分なメンテナンスを受けれなくなるかもしれない。オメガに背く事にもなる。私達が一緒にいる事はオメガも知るはすだからな。それでも……」
カテジナが会話を盗み聞きしたように、監視カメラなどが設置されている。ここの所員がオメガに伝えれば、三人の会話の内容が知られる事になる。店長とエリスだけなら怪しまれないが、カテジナも加わると調べようとするはずだからだ。
「しつこいって……カテジナはもう決めてるんだから、何言っても気持ちは変わらないって。私達はマミルトン家の場所は知らないから、カテジナが案内してよね」
カテジナの言葉を、エリスが代わりに答え、三人でマミルトン家に向かう事になった。




