勇者と王女の関係に、魔王巻き込まれるー5ー
「そろそろ武術戦闘の時間ね。私は先に行くけど、魔法戦闘に出るんだったら、同じ場所でやるんだし、観客席からでも雰囲気を感じてみるのもいいかもしれないわね。言っておくけど、私が戦う姿を見せたいわけじゃないから」
エリスは面倒臭そうに頭を掻きながら、サイガを残して闘技場に向かった。
武術戦闘の参加者はエリスを含めて二十人も満たないのに、大勢の生徒達が闘技場へと走っていく。
武術、魔法戦闘は全生徒に公開されているからだ。
サイガが闘技場に入ると、生徒達によって熱気に包まれていた。多くの歓声はマキナの応援であり、他の選手を応援する声もある中で、生徒ではない観客が一人いた。
それについて、誰も何も言わない。この学園には指定の制服がない事や、学生が多すぎる事で判別出来ていないのだろうが、サイガはすぐに気付いた。
「何でばれないんだ?誰か気付いてもおかしくないだろ……」
一人で大きな旗を持ち、その旗には勇者エリスと書かれている。大勢の生徒の中で唯一エリスの応援をしている機人。店を放っておいて、店長が応援の旗を振っていたのだ。
店長の周囲には生徒がいないのは、少なからず怪しいとは思っているのだろう。店が知られていない事からエリスが働いている店の店長とはばれていないようだ。
「むっ……君は」
目立つ行動をしている店長とは違い、生徒に紛れこんでいるサイガを店長は見つけ出し、距離が離れているのにも関わらず、一跳びでサイガの前に着地した。それによって、サイガの周囲にいた生徒もそこから離れていく。
「君はエリスのパートナー、サイガ君で合っているな。私と共にエリスを応援してもらうぞ。人に奇異な視線を送られるのは私にとっては嬉しいし、エリスからの仕打ちも楽しみなのだ。エリスのパートナーとなった君もそういった性癖の持ち主なのだろ?」
サイガと店長はトイレの中で一度会っただけで、それも一瞬だったはずなのに、エリスのパートナーというだけでそういった性癖の持ち主だと店長は判断したのだった。
「ち、違う!そんなわけないだろ。アンタとは一度トイレの中で流されただけだろ」
サイガは店長の言葉を否定するが、周囲の生徒達はさらに距離を取った。サイガの『トイレの中で流されただけ』という言葉で、二人が変な関係だと思わせたのだ。
それをよそに闘技場の銅鑼が鳴り響き、生徒達の歓声がさらに激しさを増す。




