魔王と勇者はデートを企画する ー8ー
「こいつと二人の写真なんて……データを消さないと」
「その一つだけを消す事は出来ませんよ。エリスがいらなくても、サイガさんが欲しいかもしれない。二人がいらなくても、私が欲しいです」
エリスはカメラを奪い返すが、カテジナの言葉に動きを止めた。壊すのも勿体なく、実際は消去可能なのだが、全ての操作を把握していなかった。それに記念写真となるのであれば、自分の感情だけで消す事を躊躇ったというのもある。
「し、仕方ないわね。最初から気まずくなるのも嫌だし、今回は許してあげるわよ。けど、悪いんだけど二手に別れるから」
「二手だと……まさか、男と女で別れるわけでは……いや、それで構わない。私とサイガで行動するのも悪くない」
店長は二手に別れるという言葉に反応し、最初は男二人は嫌だと反論する素振りを見せたのだが、すぐに考えを改めた。カメラを手にしているのはサイガであり、エリスやカテジナ以外の女の写真を撮りに回ろうとしているのか。
「そんなわけないでしょ。店長も分かってるくせに。私とサイガ、店長とカテジナに決まってるじゃないの。店長が行きたい場所にはカテジナが案内出来るわけだし、服も機人とか分かれてるようだから」
カテジナもそれに反論しない。そういう手筈になっていたのだろう。サイガは何も聞かされておらず、エリスに腕を引っ張られながらその場を離れていく。そして、曲がり角を見つけるとそこに隠れた。
「二人の動向を探るわよ。何かあった時に発信器をカテジナのドレスのボタンに着けたって本人に言ってあるけど、実は盗聴器も搭載されてるのよね。アズが持っていたのを借りてきたのよ」
エリスは本当に店長とカテジナの恋の手助けをするつもりなのか。他人の恋愛を楽しみたいのか。盗聴器まで準備しているとは、サイガも思っていなかった。
二人は追いかけて来る事はなく、カテジナを前にどこかへ歩いて行く。どこかへ案内するのだろう。盗聴器を耳に当てる前に話は終わったのか、一言も話す様子はない。周囲の人々は、カテジナの服装だけでなく、雰囲気も違う事から誰も気付く事はなかった。
「二人して、何で黙って進むだけなのよ! 話さないのなら、行動するしかないでしょ。手を握るなり、腕を組むなりさ。カテジナが行くしかないわ。ほら、サイガは二人の写真を撮るのよ」
「……何で俺がこんな事までしないと駄目なんだ」
エリスは物影から拳を握りながら、二人の進展の遅さに苛立っていた。一方、サイガは二人の関係を知りたいと思ってはいるのだが、恋愛の協力までするつもりはなかった。それにカテジナが周囲に気付かれないのは、エリスとサイガ、二人の行動の怪しさの方が注目されているからだ。
「ちょっと」
「何よ。肩を叩かなくても」
エリスの肩を叩いたのがサイガと思い、振り向くと知らない男が立っていた。それも軍服に似たような服、つまりは警備隊の一人だとすぐに察知した。
「君達は機人をつけてるように見えるのだが……機人殺しに関係してるのではないか? カメラを持っているのも怪しい」
周囲の人々が怪しいと思ったのか、警備隊の一人に声を掛けたのだろう。
「そんなわけないじゃないですか!」
エリスはサイガからカメラを奪い、警備員にフラッシュを当てた。少しの目眩ましで、エリスとサイガはその場から逃げ出した。いつものエリスならサイガを置き去り、もしくは囮にでもするのだが、サイガが捕まるとパートナーのエリスにも共犯扱いになるので、一緒に逃げるしかない。そのために、店長とカテジナから離れる事になってしまった。




