魔王は専用武器を、勇者は商品の作成に勤しむ ー1ー
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「どこに行ったかと思ったら……何時までも寝てないで、さっさと起きるのよ!」
「ぐはっ! エリス、お前……鳩尾に……起こすなら、優しくしてくれ。大怪我した身なんだから……って、ここは」
アイシャに転移された場所ではなく、サイガはベッドに寝かされ、目の前にはエリスの姿があった。ここはサイガが泊まる事になるアズの部屋ではなく、消毒薬の他に油の臭いが蔓延している。
「ゼータ学園の保健室よ。大怪我なんて大袈裟な事を言って、アンタが最低な事しただけじゃない」
「大袈裟だと……痛みで気絶した……回復してる」
カテジナの攻撃で、サイガの体全体に痣があってもおかしくないはずが、アイシャがそれを回復させていた。だが、腹に痛みがあるのはエリスの一撃のせいなのだが、頬に僅かながら痛みが残っている。近くに鏡があったので、サイガは自分の顔を確認した。
「手形……アイシャだな! 違うぞ……いや、間違ってないかもしれないが」
エリスが最低な事というのは、サイガがカテジナの胸を触った事。それをアイシャは伝え、その仕打ちに頬を打たれた事にしたのだろう。つまり、サイガとカテジナの戦闘を、エリスは教えられていない。カテジナに負けはしたものの、時間経過によって勝利したという事なのだろう。
「別に言い訳が聞きたいわけじゃないし。それをするならアズにすれば。アイシャなら私だけじゃなくて、アズにも教えてるんじゃないの」
「……ありえる。無理矢理アイシャに移動させられたから、アズは俺を探してるかも。けど、エリスは何でここにいるんだ?」
アイシャが知らせてきたとして、エリスが心配をして見舞いに来る事はないとサイガは分かっていた。何か裏があるに決まっているのだ。
「そこ! 重要なのはそこなのよ。アンタに協力してもらいたい事があるの。アズにもなんだけど……メジーナをどうにかして欲しいわけ」
サイガがアズと一緒にいるように、エリスはメジーナと寮で同じ部屋になった。アズとの関係を根掘り葉掘り聞いているのだろうと思ったのだが、そのメジーナから逃げてきた素振りをエリスは見せた。アズとメジーナを恋愛関係にしたいとかであれば、どうにかして欲しいという言葉は出てこない。
「はっ? 意味が分からないぞ。世話をしてくれるんだから有難い事だろ。俺にとっては御の字……痛っ……痕が残ってる場所を叩くな」
エリスはサイガの言葉にイラつき、頬にビンタした。サイガがエリスと一緒にいなくて済む事を喜んでいる事に対してなのか、何に癪に触ったのかが分からない。




