魔王と勇者が交換留学生に選ばれた件 ー9ー
「あっ……そっちが名乗ってくれたのに、こっちはまだだった。俺の名前はサイガ=オウマ。こう見えても人じゃなく、魔族だから」
「そ、そうなんですか。普通の人に見えたんで……すみません」
何度も普通と言わないで欲しいのだが、低姿勢のせいか怒るのは気の毒だとサイガは思ったのだ。
「いや、大丈夫。魔族に見えないと思うのは仕方ないからさ。飛空艇の案内はアズがしてくれるのか?」
「あ、はい。僕が案内しますね。中は広いので迷子になるかもしれませんし、僕としても安心しますから」
話の腰を折るようで悪いとサイガは思ったのだが、ここに残っているのはサイガとアズの二人。二人の存在が薄いせいかは分からないが、今にも巨大飛空艇が空を飛ぶように音を鳴らし始めたのだ。アズはそれを気にせず、ゆっくりと飛空艇の中に入っていく。
「おお! 凄いな。機械だらけでわけが分からないぞ」
飛空艇内は緻密な機械で溢れていた。飛空艇を飛ばすだけでなく、内部にある様々な施設のためだろう。部屋には食堂や寝室、訓練室まである。ただ、アズはサイガをエリス達がいる場所に案内するのではなく、本当に飛空艇を案内するだけ。飛空艇内を歩く中、見るのは機人ばかりで、アズが一人でいるのは気まずいと思ってしまうのも仕方がない事だが。
「サイガ君は勇者のパートナーとなんだ。強そうには見えないんだけど、もしかして恋人とかなんですか?」
親近感なのかアズはサイガに対して言葉を噛む事もなくなり、普通に接するようになった。
「いや……血筋とか……そういうのが関係してるだけだ。そっちはどうなんだ? カテジナとパートナーになったりしてるのか。目覚めさせたのはアズなんだろ?」
エリスと恋人同士なんて、お前の目は節穴かとサイガは言いたかったが、アズとカテジナの関係を聞くチャンスだと気持ちを切り替えた。
「僕の声でカテジナが目を覚ましたのは確かですけど、パートナーにはなってないです。最古の機人と言われてますけど、人間界と機界の間に微妙な立場なんですよね」
アズの説明ではカテジナは人間に近い機人であるだけでなく、発見されたのも人間界。最古の機人と言われながらも、パートナー関係になる事はまだ認められておらず、機界に戻る事は許されていないらしいのだ。その説明の中にカテジナと恋人関係みたいな事は触れなかった。その関係が成立するのかは分からない。だが、カテジナがアズを信頼しているのは確か。
「あっちの説明も時間が掛かるようですし、特別な場所に案内しますよ。秘密の場所で、カテジナにも内緒なんです。友達になった記念に……サイガさんも好きなはずですよ」
アズは腕に付いた機械の腕輪に目をやった。それはパートナー関係になる事で身に付けられる腕輪ではないが、カテジナと連絡手段に用いられる物なのだろう。それにアズはいつの間にかサイガを友達に認定していた。
「俺が好きって……そんな話なんかしてない……」
アズは更衣室に一度目を向け、その近くにある隠し扉というべきか、板を外すと、機械と機械の隙間が作られていた。アズは大人しそうな感じながらも男なのだろう。これはサイガが好きなのではなく、店長。離れた場所にいても駆けつけてきそうなほどだ。




