魔王と勇者が交換留学生に選ばれた件 ー8ー
「アンタがあいつ等の上司なわけね。手下のしつけはきちんとしておくのよ。今回は許してあげるけどさ」
「ありがとうございます。勇者エリスの寛大な心に感謝します」
エリスはカテジナという人物をまるで知らないように、偉そうな態度をとっているのだが、カテジナは笑顔で対応している。人が出来ているのはカテジナのようだ。
「……お主がカテジナなのか」
「挨拶が遅れましたね。私の名前はカテジナ。ワーエンド様の噂はかねがね聞き及んでいます。ゼフォード国の頼みを聞いてくれたのも貴女様の口添えがあったと聞いております」
アイシャには深々とお辞儀をした。エリスは小さな声で『姉のほうだけどね』と言ったのを無視し、握手を組み合わした。カテジナの方は初めて会った感じなのだが、アイシャはカテジナを見てから歯切れが悪そうに見えた。
「そして……貴方は……懐かしい感じがするのは何故でしょう? アズと会った時と似たような物が体を熱くするのですが」
カテジナが次に見たのはサイガではなく、店長。同じ機人同士、何か感じ取る事があったのだろうか。人間界と機界が繋がった時、店長はカテジナと会った事があるのか。その時代であればエルナやアイシャとも会っていてもおかしくないのだが。
「……気のせいだろ。私と貴女は初対面だ。データに残っていないのが証拠ではないか」
店長が言うデータというのは人間や魔族でいう記憶の事だろう。それが朧気ではなく、正確な記録。
「……そうですか。私の詳細は欠損があるのか、ブラックボックスにより修復が不可能なようなので。私を知っている者ではないかと……アズはそうではなかったようですが」
「それは……今を生きるために不要な情報であり、自らが消去したのだろう」
「何を格好つけてんのよ! 全然似合ってないから」
エリスは店長のカテジナの態度に足払いをした。カテジナの前で頭を飛ばすのは不味いと思ったのだろう。確かにいつもの変態らしさがカテジナの前ではなかったからだ。
「ふふふ……面白い方々。飛空艇も着陸したようですし、中に入ってください。貴方は二人の頭を忘れないように。修復次第、勇者様達に謝りにきなさい」
カテジナはそう言って、エリスやアイシャ、店長を案内するように巨大飛空艇の中に入り、三人もそれについて行く。
「あれ? 俺に挨拶もなければ案内もない……わざとなのか。俺の存在が見えてないのか」
カテジナに挨拶もされず、飛空艇への案内もない。乗るなという事なのか。一緒に行かずにすむかもしれないが、この小島に残されるのも嫌である。
「あの……偉い人達に囲まれて、た、大変ですね。勇者様達に普通の人がいてくれて、よ、良かったです」
「おわっ! いつの間に……君は確か……アズと呼ばれてたよな。俺が普通……普通か……」
影が薄いのか、サイガの側にアズがいた。近くで見る身長が百五十ぐらいしかないのが分かり、前髪で目が隠れていて大人しそうに見える。カテジナは緑色の髪と瞳、身長も百七十ぐらいで先程の態度からしっかりしている。二人は凸凹コンビのように見えてくる。
「は、はい。僕の名前はアズラエル=カイエンで、アズは愛称なんです。そう呼んでもらえると嬉しいです」
アズは握手を求めてきて、サイガが答えるとブンブンと振り回した。サイガは魔王であるが、アズには一般人と思われたようだ。カテジナもアズが話し掛けると分かったからこそ、サイガに話し掛けなかったかもしれない。
「カイエン……どこかで聞いた事があるような」
サイガはここ最近でカイエンという名前を聞いた事があった。魔王だった時代でなく、人間界の知り合いにその名前はない。
「あっ!そ、それはですね……多分アニメのエルナの冒険ではないだすか? 機界編で僕のご先祖様が出ているようですし」
「それだ! エルナの冒険でそんな名前があった」
サイガはここ最近アニメにハマっていた。自分が出てくる魔界編は見る気にはなれず、機界編を店長から貸してもらって、その時に聞いた名前。そこまで重要なキャラではなかった事から、すぐに思い出せなかった。




