魔王復活にバイト中の勇者 ー12ー
「はいはい……アイシャ様から話は伺ってます。遅れてくると聞きましたので、カギは彼女さんに渡しておきましたよ」
「えっ……彼女?」
サイガは管理人が何を言っているのか分からなかった。普通は本人にカギを渡すべきだとか、アイシャ様って何だよと言いたかったが、管理人は挨拶が済んだと思い、どこかへ行ってしまった。
「考えられるとしたら……アイシャしかいない。おい!お前には色々と言いたい事が……」
サイガは自分の家となるドアを開けると、そこにいたのはアイシャではなく、赤色のジャージを着たエリスだった。
「やっ!私もここに住まわせてもらう事にしたから。アンタってお金持ちなのね。良いマンションだし、TVとかベッドとかも、全てが新品じゃない。一部屋を私の部屋にさせてもらうから。勿論ベッドがある部屋ね」
「なっ……何言ってるんだよ!一緒に住めるわけないだろ。俺は変態なんだぞ」
サイガは意味が分からなくなり、本人が変態だと口走ってしまった。
「自分で変態とか言ったら駄目じゃない。決めたの!アパートの契約も切ってきたから、住む場所がないのよ。ここに来たら家賃とか色々とお金が掛からないし、部屋も綺麗だし、お風呂もついてる。だからといって、覗きとかは絶対になしだから。それから……ルールも決めておかないと……食費ぐらいは出すけど、私は料理が出来ないから」
エリスは怒涛の如く、一気に言葉を流していき、サイガの家に住む事を勝手に決定しようとする勢いだった。
「言っておくけど……私を追い出したりしたら、犯罪に手を染めてやる。アンタも同罪になるんだから」
エリスの言葉にサイガは開いた口が閉まらなかった。勇者のくせに考え方がたちの悪い魔族と同じであり、少し抜けているところも一緒だ。
「お前……それをするなら本契約を終えてからだろ?仮契約は一ヶ月だから、俺がその後に断ったら」
「……え~っと……これからよろしくね!私も色々手伝うし、家事は分担にしようかな。人間界で分からない事は教えてあげるし」
サイガの言葉を聞いた後、エリスの態度は一変し、頭を下げてきた。しかし、小さな声で『弱味を握れば何とかなる』と言っているのがサイガにも聞こえ、エリスが何も反省してない事が分かった。
「ハァ……住んでも構わないぞ。けど、先はどうなるかは分からないからな」
アイシャはエリスの状況を知っていて、サイガの家に住む事を予想していたのだろう。それが面白い展開になると考え、俺がどうこう言っても、アイシャがエリスをねじ込んでくる気がする。
サイガはそう思えた時点で諦めがついた。
とりあえず、サイガはエリスのパートナーであり、同級生であり、同居人として一ヶ月間過ごす事になった。
それがサイガの世界征服の一歩であり、エリスにとっては貧困から抜け出す一歩でもあった。




