魔王と勇者が交換留学生に選ばれた件 ー1ー
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「はぁ……何で俺まで連れていかれるんだよ。エリス一人だけだったはずだろ。アイシャはともかくとして、店長も一緒にいるし」
魔王サイガは勇者エリス、子供バージョンのアイシャ、店長のアンド=ロイドの三人で飛竜便に乗り、西大陸のゼフォード国にある学園に二週間の交換留学する事になったのだ。
「仕方ないじゃろ。エリスだけでは暴走しかねんし、マキナやシリアには荷が重過ぎる。アンドについては機界のアドバイザーとしてじゃな。わしの姿もエリスに黙っているように伝えてある。エリスもお前が一緒になったのもSS学の一環と思ってるはずじゃ」
アイシャの子供の姿は偽りであり、店長はパートナーである事から気付いているだろう。アイシャは本当の姿と子供の姿を使い分けているので、エリスにバレるわけにいかない。
「何二人で話してるのよ。まぁ、後一人来るのだとしたらアンタが選ばれるとは思ってたけど。勝手に選ばれた私の気持ちが分かったでしょ。それと! 店長も付きまとわないでよ。勝手に学園に来てたくせに」
エリスは生徒会が発足してからバイトを禁止されていて、店長の店に働きに行く事が出来なかった。そのせいで、店長は淋しく思い、何度も学園に侵入を試みているのは学園の誰もが知っている。それをエリスが追い返すのが日常茶飯事だったからだ。
「あれは良いのだが、一時だけだ。バイトの濃厚な時間とは違うぞ。それが久し振りに味わえるとなれば……天秤に計った結果、一緒に行く事を選んだわけだ」
店長はエリス、女子に痛めつけられるのが好きな機人の変態だ。迷わずエリスに付いていくと考えられるのだが、悩んだ素振りを見せていた。
「店長はいいとして……よく行く事を承諾したよな。SS学の一環だと説明しても渋い顔をしてたわけだし。留学は生徒会と関係ない事から時給が出ないって言われて尚更……あの時に俺も一緒に行くって気付くべきだったんだろうけど」
「ああ……あれね。少ないけど、時給じゃなく日給を貰う事で承諾したから」
エリスは笑顔で人指し指と親指で円を描き、お金を示した。エリスは借金を抱えていて、お金に貪欲なのだ。家賃とか払いたくないため、サイガの家に居候しているほどだ。
「……そういえば、そんな事を言ってたような」
事の発端は数日前まで遡る。
「ハァ! 私が選ばれないといけないわけ。生徒会でちゃんと働いてるわけだし」
サイガとエリスは正規のパートナーとなり、生徒会誕生から二週間ほど経った頃。学園行事や敵学園対抗戦などの準備に追われる中、交換留学というのが上から提出された。それは毎年の事らしく、敵情視察も含まれているらしい。時期も別大陸の対抗戦は大陸内の次であるため、猶予を得るためらしい。
「やっぱり、貴女なら嫌がりますよね。私が決めたわけではありません。父……先生が決めた事で」
昼休み。生徒会の会議の時間で、交換留学にエリスが選ばれたのをマキナが本人に告げたのだが、嫌がられるのは予想がついてるようだった。
「先生……やっぱり、ワーエンド、アンタの仕業なわけね」
ワーエンドとはアイシャリウス=ワーエンド。アイシャの本来の姿、大人バージョンである。エリスは前回の出来事で良いように扱われ、更に口先にでも負けてしまった事から敵視しているのだ。
「私への嫌がらせなわけね。交換留学なんて誰でも良いじゃない。生徒会からだって言うなら、シリアでも良いでしょ。もしくはアンタの弟子であるサイガでも。私は生徒会にやりがいを感じてきたんだから」
「貴女がそんな事を言うなんて……」
エリスの言葉にマキナは感動したわけでなく、疑いの目を向けた。マキナもエリスがそんな事を言う性格は分かっており、断るために嘘をついたと考えた。
だが、サイガはエリスが嘘を言ってないのを知っていた。生徒会で働く事で時給が8800円も入るので、それを無くすわけにもいかないからだ。
「懸命さは認めよう。無理に長時間居続けようともしていたからな。だが、交換留学二人の内、一人エリスで決定だ。生徒会の一員で、機学に関して無知に近い馬鹿だからだ。対抗戦の前に知識を増やしてこい。機界に行く事が出来ずとも、西大陸でその世界に触れれば少しは身に付くはずだ」
「この……」
「止めとけって……この後にSS学のゼミがあるから、そこでどう動くか話し合おう」
エリスはアイシャに殴り掛かろうとするのをサイガは止め、小声で伝えた。アイシャ自身がそういう流れになるようにしたのだが、長年の付き合いでサイガには分かってしまった。
「ふん!」
エリスは会議の途中であるにも関わらず、生徒会室から出ていってしまった。しかも、昼休みだった事からサイガの弁当を奪っていた。エリスの分も作っていたはずなのだが、早弁でもしたのだろう。
「俺の弁当が……」
「私の分を少しあげますよ」
シリアは大きな帽子からパンを取り出し、サイガに渡した。シリアの帽子は何でも入ってる袋であり、乗り物にもなる優れ物。
「ああ……あ、ありがとう」
賞味期限が切れてるのが見えてしまい、ありがた迷惑とはこの事だろう。




