勇者は魔王と組むことを決めました ー4ー
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「やれやれ……脱出するぐらいの魔力ぐらい残しておけ。これは貸しにしておくぞ。お前には残虐の魔力を吸収して、以前の力に少しでも戻ってもらうつもりだったが」
「仕方ないだろ。そんな力も戻ってないんだから、あれが今の限界なんだよ。それに脱出するぐらいの助けを求めてもいいだろ。それを貸しだなんて……ぐぉ……」
サイガは魔力が底をついただけでなく、ガイエルの戦闘でのダメージも重なり、死霊と残虐が作り出した世界から抜け出す力は残されていなかった。それをアイシャがサイガの首根っこを掴み、エリス達がいる世界へと移動したのだ。
「アイシャ!」
アイシャが降り立ったのはマキナ達がいる場所であり、二羽の蝙蝠がサイガとアイシャの場所を入れ替えた。エリス達を戻した時と同じ方法だ。マキナ達の前に立つのが分かっていたのか、アイシャは大人バージョンになり、口調も変えた。そして、マキナがサイガ達に近付いてくると、アイシャはサイガの腹に蹴りを入れ、気絶させた。
「こっちはサイガとキースが残虐を倒した。そちらも終わったようだな」
「……はい。エリスが死霊を倒してくれました。皆さん、この者達がもう一人の元凶を倒しました。これで暴走化関連の事件は終結です」
アイシャはマキナに残虐が倒されたのを告げると、マキナは周囲にいた者達に向けて、この事件が終わった事を知らせた。すると、歓喜の声が広がり、ラキアス学園の生徒がエリスやサイガ、マキナの名前を叫び、讃えた始めた。シリア事、シリアスの名前が上がらないのはエリス達有名な者達とは違い、誰なのか分かっていないからだろう。
「アイシャ……サイガは無事のようですが、キースを連れてきてないという事は」
残虐を倒したという事はキースの体も無事では済まず、魂も魔方陣の柱となり、助ける事は不可能だとマキナは思っていたのだが、それを実感させられた。救いがあるとすれば、サイガと共にキースが残虐を倒したというアイシャの台詞。残虐の呪縛を解き、サイガに手を貸したという事。
「ああ……キースは死んだ」
「そうですか……サイガと一緒に戦ってくれただけでも……ですが、最期に話をしたかった」
それでも、マキナはキースと言葉を交わしたかった。その気持ちを長年の付き合いから、アイシャにはそれが分かっていた。
「そうだろうと思っていた。だからこそ、これを持ってきた」
アイシャが見せたのはキースの目玉。それを形見にしろというわけではなく、アイシャ自身の目に当てると、それは灰になって消えた。
「……キース。何故貴方が……」
マキナとアイシャの目が重なり合うと、マキナの目にはアイシャではなく、キースの姿が映し出された。アイシャがキースの目玉を取り出したのは魂の残滓が残る事を察し、マキナとキースを会わせるためだった。記憶を操作するという事は、記憶を保管する力もあるという事。だが、姿を見せれても声まで再現するまでには至らず、アイシャはキースの記憶から声を取り出し、代わりにマキナに伝えた。




