勇者は魔王と組むことを決めました ー2ー
それだけでなく、ガイエルの力が弱まった事で、死霊と残虐が作り出した世界が崩壊し始め、キースの体も聖骸布を纏いながらも、崩れ去ろうとしていた。
「俺の体が崩れる前に……残虐が体に縛られている内に……俺ごと斬れ。俺の心の弱さが招いた事だ。俺の体はすでに死んでいて、魂が戻ったのも奇跡……いや、お前のお陰だな。マキナ様を助ける力を貸してくれた」
キースはガイエルに心の弱味につけ込まれた。エリスだけでなく、サイガの存在がマキナの心に入り込み、自分の存在が消えるのではないかと恐れた。そうさせないためには力が必要だと願い、次元の穴が開いたのが見えた時、キースの体にはすでに死が刻み込まれた。
甘美な声がキースを騙し、体内にガイエルの魂と契約を埋め込んだ。そして、ガイエルは勇者に勝つための方法だと、残虐の力に当てられた関係ない魔族や魔獣だけでなく、人間をも殺させた。
「くそっ……無駄な足掻きを……一緒に斬られたとしても……死霊が甦らせるだけだ。お前は体を明け渡せばいいんだ!」
キースとガイエルの魂が拮抗しているのか、二人の声が発せられている。だが、死霊の力によって甦らせる事が出来るといいながらも、ガイエルの声からは焦っているのが分かる。
「死霊……あの声か……あの時の声とは……っ……早くしろ!他の魂は全て抜け出したぞ。力を取り戻されるわけにはいかないんだろ。躊躇う必要はない。自分がどうなるかも分かっている」
キースはサイガがガイエルに吸収された魂をも救おうとしているのが分かり、自らの魂を削ってまで、ガイエルを抑え込んだだけでなく、体に宿った魂に声を掛けたのだった。
それによって、キースに囁いた甘美な声は死霊ではなく、別の誰かだった事を伝える力は残されていなかった。魂は一筋の光に導かれ、天に召される。魂の消滅は無であり、転生もない。他の魂が導かれるのを見ながらも、自分には当てられていない事にキースは気付いていた。




