地下牢での再開
(…………)
自分の他にも誰かが居る。独りじゃない事に希望を感じたフィーナは辺りを見渡す。
明かりも殆ど無い建物の地下では暗闇に目が慣れたところでたかが知れている。
(ここは神力で……)
仕方無く自分の片目にだけ暗視能力を付与し、フィーナは改めて周りを見てみる事にした。
(いち……にい……さん……)
部屋の隅にうずくまっている人が何人も見つかった。
冒険者らしい見た目のハーフエルフの少女が一人。彼女もエルフの例に漏れずスカウトの様な姿をしている。
次に、隣に居るのは王都ではあまり見かけた事の無い犬の様な獣耳が頭に付いている犬耳少女だ。
彼女も冒険者らしい格好をしている。
重そうな鎧を身に着けているあたり剣士だろうか……?
他には町娘の様な格好の亜人の少女達が何人も居る。犬耳兎耳猫耳……ミレットにも良く似た町娘姿の亜人まで居る。
(……ん?)
改めてよく見てみるとその町娘の様な猫耳少女はミレットで間違いない。
知り合いを見つけた事に嬉しくなったフィーナは、お尻と踵を駆使して尺取り虫の要領でベッドの上をミレットの方向へ移動する。
メイド服の短いスカートがすっかりめくれ上がってしまっているが、暗闇だし周囲には女性しか居ないみたいなので多少の事は気にしない事にする。
(ふぅ……)
ベッドの端に到着したので両足を床に下ろす。床は石造りの様で硬い感触が両足から伝わってくる。
ミレットはベッドからすぐそこの壁際にしゃがんでいる。
いつもは冒険者がよく着ている革鎧を装備していたのに、今回はどうしてラフな格好をしているのだろう?
不思議に思うフィーナだが今はそれどころでは無い。
とにかくミレットと話をしなければ!と、改めて決意するフィーナであったが、猿ぐつわをされ両腕両足を縛られている状態ではミレットの近くに行く事も難しい。
(う〜ん……)
猿ぐつわだけでも外してもらえれば意思の疎通は出来るのだが……。
だがフ、ィーナがいくら目立つ姿をしているとは言え、暗闇のせいかミレットはフィーナの事に気付いていない様だ。
誰かがベッドの所にいるのは分かっているだろうが、それがフィーナだとは思われていないみたいだ。
(こうなったら……!)
ースタッー
若干途方に暮れたフィーナは意を決し上半身で重心を調整してなんとか立ち上がった。
そして、危なっかしい動作でミレットのいる場所に向かって小さくジャンプしながら進む事にした。
ーピョンピョンピョンー
何度かよろめきながらなんとかミレットとの距離をフィーナは詰めていく。
(もうちょっと……)
石造りの床で何度か躓きそうになりながらもフィーナはジャンプを続けていく。
今の彼女は両腕両足が縛られているため流石に転んだら起き上がれそうには無い。
その事を自覚しているフィーナは一飛びごとに慎重に歩を進めていく。
「んー、んー」
何とかミレットに気付いて貰いたくてフィーナは猿ぐつわをされた状態でもさっきから必死に声を掛け続けている。
フィーナの目に映るミレットはどこか焦っている様に感じた。彼女も後手に縛られている様だが身体を左右に揺らして身をよじってる様に見える。
「んん、んんんー!」
フィーナが近づきながら必死にミレットに呼び掛けると、その時ミレットを拘束していた腕の縄がバラバラと床に落ちたと思った次の瞬間
「こっち来るな、この不審者ぁ!……ニャ」
と、もの凄い速さでミレットに飛び掛かられるフィーナ。
彼女の目には眼前に迫ってくるミレットの爪を立てた猫パンチがスローモーションの様に見えた。
「んぁ!」
とっさに後ろに下がろうとしたフィーナだったが両足が縛られている為ただ単にバランスを崩しただけという結果で終わった。
(あ……)
後は後頭部から地面に倒れるだけ……抵抗も出来ず受け身も取れそうに無い。打ち所が悪ければ絶命は不可避であった。
自分は何処を間違えたのだろう……?フィーナが答えの見つかりそうに無い自問自答をしていると
「あれ? 先輩?……ニャ」
ミレットの声と共に猫パンチが瞬時に止まる。と同時に
ーガッ!ー
間一髪!背中から石造りの床に倒れようとしていたフィーナをミレットが抱き抱え、フィーナが床に叩きつけられるのを阻止する事が出来た。
「はぁ〜、先輩なら先輩って言って下さいよぉ〜」
ミレットはため息を付きながら額の汗をぬぐう仕草を見せる。
「うめき声を上げながら変な動きで近寄ってきたら誰だって不審者だと思いますって……ニャ」
助けられた身で何なのだが酷い言われようである。ミレットの悪気の無い素直な感想にフィーナはショックを隠せない。
(うめき声って……気付いて貰いたがっただけなのに……)
自己アピールに必死だった女神は今や完全に涙目である。
「まぁまぁ、紐切っちゃいましょうかね〜……ニャ」
そう言うと、ミレットはあっという間にフィーナを拘束していた紐をバラバラに切り裂いてしまった。
ようやく自由になったフィーナが安堵していると
「ぷはぁ……」
ミレットはちゃんと猿ぐつわも外してくれていた。
「それで、先輩は何をしにここへ? 助けに来てくれたとかなら嬉しいですけど……違いますよね?……ニャ」
Youは何しに極東の島国へ?みたいに言われても困るのだが、今更取り繕っても無駄だろう。
フィーナは素直に経緯を打ち明ける事にする。
「……帝都を歩いていたら捕まりました」
簡単明瞭、事実のみの羅列であり非常に解り易い受け答えである。
「先輩、抵抗しなかったんですか? 普段はあんなに色々出来るのに……ニャ」
不思議そうにフィーナを見るミレットの表情からは、あんな連中に捕まったのが信じられないと言う様な困惑の感情が感じ取れた。
「抵抗はしましたけど……あれこれ考えている間にどんどん状況が悪くなっちゃって……」
今考えると、男に捕まった時点で適当な場所に転移していれば良かったのだと思う。
どこでも良いから人の目に付く場所に転移していれば……。
あるいは必ず衛兵が居る王都入り口や城門などに転移していれば、ここまで無様な状況にはなっていなかったはずである。
両腕を後手に縛られた状態での転移などやった事は無いから、その辺りは不安要素の一つではあるが。
「ダメですよー、先輩は考え過ぎなんです。自分が助かるための最善の行動をしなくちゃ……ニャ」
本日、グレースに続きミレットからもかなりガチ目のダメ出しをされてしまった。
がっくりと肩を落としションボリするしかないフィーナの長い耳は感情に合わせて垂れ下がってしまっている。
「とにかく、少し休んで下さい。いずれ白銀の群狼の人達が乗り込んで来ると思いますから……ニャ」
ミレットの話によると彼女は王都で行方不明になっている女の子を捜す依頼を受け、その一環でわざと捕まりここに居たのだそうだ。
囮捜査や潜入捜査に近いモノではあるが……。
(はぁ……)
単純に捕まって連れてこられた自分とあくまで仕事としてここに居るミレット、その対比にフィーナは深く溜め息をつくのだった。




