問題の連鎖
前日、死神の不審者騒動を終わらせたフィーナだったが、翌日の店に並んだ人列の量には面食らってしまった。
今回は体調不良の者ばかりではなく、どう見ても身体的には健康体である人達が並んでいる。そんな人達に話を聞いてみると
「俺はこれまで悪い事をしていた。死神に連れ去られるのは嫌だ。なんとかしてくれ」
という事の様だ。どうも、不審者が死神であるという噂は少し前から出ていたらしく、最近特にポツリポツリと人が消えていっている。
そんな中、街でも評判の悪党が夜間に叫び声を上げて行方不明になってしまった事。
死神に似た人影が街で噂の聖女と話をしていた事。
死神が聖女と話をしただけで死神らしき人影が消えてしまった事から聖女=死神に話を付けてくれるという与太話が街中に広がっているのだそうだ。
そこで、ちょっと街中でやんちゃをしていた様な札付きのワルが死神に連れて行かれたくないあまりにフィーナに泣きついてきているというのが現状なのだ。
「そんな事で死神の人は来ませんよ。本当にどうしようもない更生の見込みがない悪い人の所に来るんです。」
縋り付いてきた街の札付きのワルにフィーナがやんわりと説明を続ける。
「どうしても不安なら教会で罪の告白をされてきて下さい」
正直、罪の告白と懺悔こそここに来るより先に街の教会に行ってやってもらいたい案件である。
罪の内容も誰々と喧嘩したとかあそこの店で万引きしたとか、死神が来るとは思えない案件ばかりである。
また、今日もフィーナ目当てのオッサンが少なくない人数でやってきていた。
挙動不審な者、既に付き合っているものと勘違いして迫ってくる者、得体のしれないプレゼントを持参してくる者等々……。
(うへぁ……)
王都が巨大都市である事を改めて実感させてくれる。
人口が多い分だけ変わった人間も少なからず出てくる。変わった人間には全員一律で帰宅を勧めるだけである。
「どこも異常はないみたいですので、すみやかにお帰り下さーい」
こうして帰しても何割かは性懲りもなくまた後日列に並ぶのである。
彼らも信仰心を育むかもしれない魂である以上聖女を襲名している自分が彼らを無下に扱う訳にはいかないのだ。
「はぁ……」
フィーナの口から思わず溜め息が漏れる。
どうにか彼らの勘違いを是正する方法はないものだろうかと考えてはみるが……そんな便利な方法は無いという結論に行き着いてしまう。
どうにか列を捌いているとアルフレッド達が学校から帰って来る時間が近付いてきた。
今日はまだ人列が続いていたので女将さんとアンが時間的に診る事が出来なさそうな人々に帰りを促してくれている。
大多数の人々は諦めてまた後日となるが……今日は意地でも帰らない覚悟のオッサンが並んでいた。
列の最後となった彼がフィーナの所まで来ると
「まったく……君は僕を試しているんだよね。でも僕は全然気にしてないから。愛に障害はつきものだからね」
フィーナが呆気に取られている間に彼は自己完結している発言を垂れ流している。
「本日の診療は終了です。どうかお引き取り下さい」
フィーナが手で出口の方を指し示すと
ーガッ!ー
中年男性はフィーナの腕を掴み、強引に店の外へと引き摺り始めた。
「え? あの……ちょっと待って……!」
中年男性はブツブツ独り言を口にしながらフィーナの意思とは無関係に進んでいく。
「は…離して下さい! 人を呼びますよ!」
女神とは言え身体的には華奢な女性らしい力しかないフィーナでは男性の力には抗えるはずも無くされるがままだ。
フィーナは必死に声を掛けるが男に気に留める様子は無い。
接客中だったアンと女将さんが男に気付いて警告するが彼は二人の話を聞こうともしない。
二人が止める間も無く男性はフィーナを連れ店の外へと出てしまった。
ーガチャー
男性にされるがまま腕を引っ張られたフィーナが店の外に出されると、帰宅して来たアルフレッドとリーシャの二人と鉢合わせしてしまった。
ひと目で状況を察した二人は男の進路を塞ぐ様に立ちはだかり中年男性に向かって猛抗議を始めた。
「僕のフィーナさんに何してるんですか! 手を離して下さい!」
アルフレッドは大きな声で男を静止すると、隣に居たリーシャに目配せをする。リーシャは頷くと何処かへ駆けていってしまった。
男性はフィーナの腕を引っ張りながらアルフレッドを避けて尚も進もうとする。
しかし、その度アルフレッドが男の進路を阻んで大声で静止する。
「アル、もう大丈夫です! 後は私が対処しますから下がって!」
あまりに頑なな中年男性の行動に実力行使がフィーナの頭をよぎり始めた。
なにより、このままではアルフレッドに危害が及んでしまうかもしれない。そんな時
「おい! そこで何をしてる!」
衛兵がフィーナ達の元に駆けつけてきた。遅れてリーシャも現場にやってきた事から彼女が衛兵を探して読んできてくれた様だ。
「離せ! 僕達は愛し合っているんだ! これは王国の陰謀だー!」
中年男性は妄想を喚き散らしていたが、衛兵に詰められ何処かへ連れて行かれてしまった。
「つっ……」
ようやく開放されたフィーナだったがブラウスの袖を捲ってみると立派な青アザが腕に出来てしまっていた。
どう考えても中年男性に長時間握られていた影響だ。
「フィーナさん! 大丈夫?」
そんなフィーナの様子に気付いたアルフレッドが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですよ、このくらいすぐに治してしまいますから」
フィーナかさも当然の様に患部に手を当てると
「待って! 僕に治させて!」
アルフレッドがフィーナの腕の患部に手を添えてきた。
「え? でも……」
戸惑うフィーナにアルフレッドが続ける。
「フィーナさん疲れてるでしょ? 僕に任せて!」
彼はそう言うとフィーナの手を取り店内への移動を促す。そこへリーシャも加わってきた。
「遠慮しないで下さい。アル君も私もフィーナさんの役に立ちたいんです」
彼らに促されるまま店内に戻ったフィーナは、二人のヒールで腕の青アザを治してもらうのだった。
その日の夕方、アルフレッドとリーシャを連れ公衆浴場での入浴を終えた後、フィーナは二人を店に送りそのままグレースとの約束の為に王城へ向かう事にした。
王城の門を超え敷地内を歩いていると日中に来るのとはまた違った印象を受ける。
王城の敷地内の街頭には明かりが灯されており城の造形も相まって幻想的に見える。
街頭の明かりも魔法を利用した物の様で、何とも言えない独特の明るさ加減である。
科学では成し得ない雰囲気にフィーナは改めて驚かされる。
異世界の雰囲気に当てられながらフィーナは王城一階の受付に向かうのだった。




