彷徨える骸
総勢十人を超える冒険者パーティーはまず居ない。人数が多すぎて作業内容と報酬が見合わなくなってしまうからだ。
仕事中に他の冒険者パーティーと合流して目的の為に共同作業となる事はあっても、それらはあくまで複数パーティーでの共同作戦であって、一人のリーダーが全員を統率している訳では無い。
「お前ら、油断すんじゃねーぞ!」
一応のリーダーであるファングだが、彼の様子は確かに何時もと違っていた。
洞窟を進む一行の前に、洞窟の横道等が増え始め、その都度慣れない指示を強いられる事に疲労の色が濃くなり始めていたのだった。
「大丈夫っスか、アニキぃ?」
「なんかいつもと違くない?」
「無理しない方が良いっすよ?」
いつも一緒に行動してるだけあって仲間の変化にはいち早く気付いたらしい。
ファングは古参メンバー達からしっかり心配されていた。しかし
「なんで、心配してくれんのが野郎ばっかなんだよ……」
ファングは本音をボヤいている。どうも疲れた時くらいは女の子に癒されたいというのが本音な様だ。
「こらこら、リーダーは疲れを顔に出さない! 余裕綽々なフリしてないと仲間は不安になるんだからね?」
癒すどころか疲れた身体に鞭打ってきたのは大ベテランのエルフィーネさんである。
千年以上生きている彼女からすればファング等赤子どころの騒ぎでは無い。
しかし、リーダーという立場を誰にも移譲してないのだからファングにはリーダーとしてパーティーメンバーを生きて帰らせなければならない責任がある。
「眉間にシワよせて険しい顔してるリーダーなんか余裕ないみたいでこっちが心配になるんだからね! 余裕見せて笑ってる位が丁度良いの!」
エルフィーネからリーダーの心構えがレクチャーされる。
「こ、こうか……?」
「気色悪い顔してニタつくな! うすら笑いじゃなくて微笑すんの!」
ファングなりに余裕の笑みを試みた様だがエルフィーネには不評だったらしい。
「んな事言われてもな……。これ駄目か?」
ファングは彼なりの余裕の笑みをミレットやプロージットにも披露してみるが……
「あ〜……ニャ」
「あの、こっち見ないで貰えますか? パワハラでギルドに苦情入れますよ」
ミレットには微妙な顔をされて顔を逸らされ、プロージットにはパワハラ扱いされるばかりだった。
これは多分に普段の行いが反映されている証左と言えるが、エルフィーネに言われるがままに実行した真面目なファングも不憫ではある。
「アニキィ、大丈夫っスから……」
「そう気にすんなよ」
「俺達はアニキとは長い付き合いだしな」
リーダーのフォローに回る古参メンバー一同、それなりの信頼関係が築かれている事は窺えるが誰一人としてファングの笑顔に触れないのが答えではある。
そんな一行が洞窟を奥へと進んでいると
「うあぁ〜……」
洞窟の十字路の様な場所に差し掛かったその時、周囲からうめき声の様な不気味な声が聞こえてきた。
「敵だ! 構えろ!」
ファングの指示に従った全員が武器を手に全周に注意を向ける。
「あぁ〜」
支道から両手を前に突き出しながら緩慢な動きで人影多数が近づいてきた。
「グールよ! 死霊だけど物理攻撃は効くから!」
人影の正体を判別したエルフィーネから全体に指示が飛ばされる。
「俺とラットで右を抑える! 反対側はタンクとノッポだ!」
「それじゃ俺は真ん中で突破口を開くとするか」
ファングの指示に戦士職がそれぞれ三方に向かい、グールの接近に対処し始めた。
「ここは俺達で抑えるからフィーナ達は先に行け! 全員で足止めされる必要は無え!」
支道から押し寄せてくるグールを斬り倒しながらファングが指示を出す。進行方向のグールの数はあまり多くは無くシルバーベアの力があれば十分進める圧力だった。
「ミレットとプロージットはここであいつ等をフォローしてあげて」
この十字路に残る人員を選定したエルフィーネから二人に指示が出される。
「あ、あの……皆さんを置いていくなんて……」
目まぐるしく変わる状況に置いていかれ気味なフィーナだったが、敵の真ん中にミレット達を置いていく事に異議を唱えた。しかし
「私達なら大丈夫ですよ? これでもシルバーランクなんですから……ニャ」
「まぁ、グールだけならファイアーボールでなんとでもなりますからね」
フィーナの肩にポンと手を乗せ得意気に笑みを浮かべるミレットと、魔術師の杖を手にファイアーボールの撃ち方を吟味しているプロージットからフィーナを先に進ませる為の安心させる返事が返ってきた。
「な、なら……私もここで皆さんの援護を……」
この期に及んで、まだここに残ってミレット達白銀の群狼メンバーの援護をしようとしていたフィーナに
「あんたは先に行くの!
何のために皆がここに居ると思ってんのよ!」
ーガシッ!ー
「あ、あの……ちょっと……!」
彼女の首根っこを掴んだエルフィーネが彼女を引き摺りながら、シンシア達と共にシルバーベアが切り開いている突破口を進んでいく。
「あのグールの数……私がターンアンデッドで援護すれば……」
引き摺られながら抗議するフィーナにエルフィーネが
「あれは多分、あいつに操られてるグールなの! あそこで皆でグズグズしてたら何か仕掛けてくるに決まってるんだから! やるなら進行方向援護しなさい!」
年長者としての状況判断が告げられた。ソーマによってここに転移させられたのだから、ある程度は彼の手の内というのは覚悟しておかなければならない。
その上で彼の予想を越えなければならないというエルフィーネなりの考えなのだろう。




