第二波
フィーナの視界の端に見えた火の玉はどんどん大きくなってくる。予想落下地点はどうあっても聖職者達に被害が及ぶ場所で間違いは無い。
ーパアアァァァー
フィーナが神力で聖職者達の頭上、火の玉の予想進路上にホーリーウォールを展開する。
ーボンッ!ー
火の玉は空中でホーリーウォールにふまつかると爆発してしまった。あのまま地上に激突していれば甚大な被害は免れなかっただろう。
霧が消えた陣地付近ではいつの間にか黒く低い雲が立ち込めており、まだ昼間なのに薄暗くすらあった。そんな中で雲の切れ間から火の玉が降ってきたのだ。
フィーナは頭上を見上げたものの、雲は異様に低い高度で広がっており、明らかに人為的で不自然な発生の仕方をしている。
これでは飛行型の魔物が上空に居たとしても、目視に頼るフィーナには手出し出来そうにない。
彼女の攻撃の狙いの付け方はあくまで有視界での直接確認が基本である。したがって、視界の効かない場合は別の探知方法、攻撃手段を考える必要が出てくる。
神聖な光の力を別の力学に変換という力のロスを経てまで、火水風土等のこの世界に準じた広範囲魔法で対処するべきか。
気化爆発や核爆発等の異世界の魔法文明を無視したオーバーテクノロジーな概念の方法を使うか……。
さらに言うならCIWS等の現代兵器を今ここで生成してしまっても、敵を倒すというただ一点の目的を果たすためなら決して出来ない事では無いのだ。
もっともそれらを生成する事による歴史に与える副作用は計り知れないものである。
したがって、神力で何でも出来るから何をしても構わないという単純な話でも無い。
フィーナの立場では、なるべく歴史が破綻しない様に折り合いを付けながら修正していくしか出来ない。
また、自分がこの世界に居る事で発生した不具合ぼ自分で後始末を付けなければ責任問題にもなる。
やはりここはこの世界に準じた方法で切り抜けるしか無いという事なのである。
(…………)
少し考えてみたが範囲魔法は力の変換効率から考えても費用対効果から考えても無駄が多過ぎるという結論となった。
三次元空間の何処かに居る敵相手に有効打となっているかどうかも分からない攻撃を当て推量で撃ちまくるなど贅沢以外の何物でも無い。
こうしてフィーナが考えている間にも時間は過ぎ去っており、雲の向こうからはギャアギャアと魔物達の少なくない鳴き声が聞こえてきた。
陣地の中の兵士達はすっかり準備を整えパリスタやクロスボウをありったけ上空に向けている。
ーゴォォォォォ!ー
そんな時、今度は火の玉が大量に地面に向かって降り注いできた。
敵の姿は雲の向こうに隠れているのでその姿は見えない。
「「ホーリーウォール!!」」
ードドドドドォォーン!ー
複数の神官が展開した光の壁は聖職者達の頭上で水平に発動し、王女やフィーナを含めた多くの人々を火の玉の脅威から守り切った。
しかし、上空の敵の動きは不自然だった。攻撃そのものを一回にまとめており火の玉の攻撃の後、連続で仕掛けてくる様な素振りは見せなかった。
だが、上空の魔物達はまたギャアギャアと騒いでいる。次は何をしてくるのだろうと、地上の人々全てが空を見上げていると……
ーバサッバサッ!ー
魔物達が羽ばたく音が聞こえてきたかと思ったら雲の向こうから列を成し多数の飛行型の魔物達が急降下を図ってきた。
急降下してきた魔物はワイバーンと呼ばれる飛竜だった。彼らは先頭の個体から口から火の玉を投下し再び上昇すると雲の切れ間へと飛び去っていく。後続の魔物達まで一糸乱れぬ統制された機動だった。
「敵直上! 急降下!」
「クロスボウ隊狙え! 射て!」
ーピュンピュピュピュピュン!ー
地上の兵士達は初動こそ遅れたものの後方の飛竜にはバリスタとクロスボウによる矢の攻撃を射掛けており、少なくない飛竜が火の玉をあらぬ方向に吐き出させるという攻撃の妨害という戦果を挙げていた。
また、今回の火の玉も神官達によるホーリーウォールで防ぎ切る事は出来た。敵の攻撃を二回とも無傷で退けた事に人々の間には安堵の空気が流れている。
しかし、急降下してきた飛竜以外にも鳥の様な魔物が居た事に気付いている者は少なかった。
「あの鳥は一体……?」
フィーナも気付いては居たものの、その鳥の意図は分からなかった。
その鳥は飛竜の急降下には加わらずに上空を旋回するのみで飛竜が戻るのとほぼ同時に雲の向こうへと戻って行ってしまった。
「ギャアギャアギャア!」
ーバサッバサッバサッ!ー
フィーナが考えを整理する間もなく雲の向こうから魔物達の騒がしい鳴き声と羽ばたき音が聞こえてきた。
その声はホーリーウォールの効果が消える頃を見計らったかの様なタイミングで発せられていた。地上の人々は再び上空を警戒する。
ーバサッバサッ!ー
再び雲の向こうから飛行型の魔物が急降下してきた。しかし今度は先程上空で旋回するだけだった鳥を先頭に急降下してきた。
ーピカッ!ー
先頭の鳥は眼から光線を飛ばしたかと思ったら踵を返すかの様に直ぐに上空へと戻っていく。
「うわあぁぁぁっ!」
その時、聖職者達の集団の中央から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
見ると、先程ホーリーウォールを唱えた神官が石化されてしまっていた。
また、唱えた者以外も同じ衣装の者は全て石化されてしまっている。
「ホーリーウォール!」
今度唱えたのは一番位が高そうだった年配の神官だ。
今度の急降下の際にも上空を旋回していた鳥が複数居たのだが、それらはフィーナが光の矢で全て撃ち落としていた。
ワイバーンの火の玉はまたもホーリーウォールで防ぐ事が出来た。
しかし、ホーリーウォールは何度も使えるものでは無い。少なくとも普通の人間では一度か二度が精一杯のはずである。その時
「どうする? まだ続けるかなぁ? 僕はどっちでも良いかな〜?」
また、拡声器で増幅させた様な男の声が聞こえてきた。
「もう止めてあげてもいいよ? その代わり王女様は一緒に来てもらおうかな」
勝手な事を話し続ける男に対し王女の近くに居る付き人達は怒り心頭である。
「何者だ! 名を名乗れ!」
腰の剣に手を掛けているグレースも男の軽薄な口調のせいか、相当に憤っている様だ。そんなグレース達の神経を逆撫でするかの様に男は
「おお〜、怖い怖い。僕の事はソーマって呼んでくれればいいかな?名前なんて意味ないからさぁ〜?」
おどけた様子で話を続ける。これには冗談の通じないであろうグレースの血管が切れる音が聞こえてくるかの様だった。
(…………)
フィーナは死霊術師が調子に乗って語っている間に状況の整理を進めていた。




