欲と欲
「お待ちなさい! 女神たる者、ふしだらな行為は許されません!」
ちびシトリーを止めるべくフィーナの脳内に現れたのは、シトリーと同じく二頭身となったレアだった。
女神の衣装に神々しい大剣を携え現れたのは、フィーナの欲望に惑わされまいとする倫理観の具現化だろうか?
「女神にあるまじき行為、この大女神レアちゃんが許しません!」
レアは言葉と共に大剣を大上段に振り被ると、白いロングスカートながら器用に走り始め
「たあぁーっ!」
ーカキーン!ー
「く、負けるかぁっ!」
ちびレアが振り下ろした大剣はちびシトリーの槍によって弾かれた。しかし、振り下ろした大剣の威力にシトリーは槍の利点を生かす為に後退し距離を空けるのがやっとだ。
「レア! あなたは間違っている! 愛し合う二人が結ばれるのさ自然な事なのよ!」
ーブアアアアアッ!ー
反撃に転じたちびシトリーが槍での多段突きを繰り出しながらちびレアに呼び掛ける。
ーキンキンキンキンキン!ー
「いいこと? 女神には清楚可憐、清廉潔白、質実剛健が求められるの! この私の様に!」
ちびシトリーからの突きを全ていなしたチビレアの防御は鉄壁だった。彼女は三叉の槍を受け止めると大剣をうまく噛まして
ーブオン!ー
「しまっ……!」
大剣を大きく振るいちびシトリーの手から槍を手放させて遠くに弾いてしまった。
「勝負あったわね。やっぱり女神は公平無私、清廉潔白であるべきなのよ」
(…………)
ちびレアの言動に気になる点が無い訳ではないが、ひとまずちびレアが勝った事にフィーナは胸を撫で下ろした。
やはり、軽挙に走るべきでは無い倫理観が大事だとフィーナが思い直そうとすると
「あなたはいつもそう! そうやって人を高みから見下ろして!」
フィーナの中では決着がついたはずなのだが、ちびシトリーは諦めない。一体どうなるのだろうと様子を窺っていると
「そうやって食い下がってフィーナちゃんも魔界に堕とすつもりかしら? あの子は私のモノなんだからダーメ」
ちびレアはちびシトリーの言葉など意に介していない。その辺りはフィーナの倫理観の高さが覗える。しかし
「だからこそよ! あなたお気に入りのフィーナちゃんと愛しの彼との初キッス、見てみたくないの?」
「はわっ!」
さらに続けられたちびシトリーの言葉にちびレアの全身に動揺が走る。
ーガラーン! カランカラン……ー
その動揺はちびレアが大剣を取り落としてしまうものだった。だが、ちびシトリーによる言葉責めはさらに続く。
「いいかしら? 普段から真面目ちゃんなフィーナちゃんがね? 愛する殿方の唇を、それも寝込みを狙うなんて背徳的だと思わない?」
ちびシトリーからの演説にちびレアは床に両手を着きがっくりと項垂れている。
それでもちびシトリーの言葉は止まらない。
「それだけの強い想いをぶつけたいって尊い気持ち、尊重してあげるべきじゃないかしら?」
ちびシトリーはちびレアに近付きながら言葉を終えた。そんな中、項垂れた様子を見せていたちびレアは
「シトリーさん。フィーナちゃんの幸せ……見たいです」
綺麗な掌返しを見せてきた。これは完全に天使役を間違えたフィーナの落ち度である。
(あわわ、他に天使役で適任は……)
フィーナは慌ててちびシトリーに対抗するための天使役を模索する。
ーパアアァァー
次に呼び出したのは転生課の同僚女神ノルンだった。やはり彼女もデフォルメされた二頭身で出現している。
(お願いです、ノルンさん! どうか頑張って!)
モンスターカード、ドローみたいなノリで気軽に天使役を呼び出すのはルール違反に近い。
しかし、こんな反則技を使う程にまでフィーナは追い詰められていると言えた。
「あ、あの〜私じゃ先輩方に敵わないんですが……」
残念ながらノルンには戦う気が無い。明らかに人選ミスだが、天界で交友関係が広くないフィーナには他に戦える天使役など……
「もう諦めたら?」
「キース♪ キース♪」
フィーナが天使役の召喚に難儀している横で、呆れ顔のちびシトリーと完全に寝返って囃し立てているちびレアの波状攻撃が繰り広げられている。
(もう誰でも良いんです! 誰か助けて下さい!)
ーパアアァァー
「コルァ! 何やっとるかぁ! お前達ぃーっ! 仕事せんか仕事ぉー!」
次に召喚したのは赤髪の女神ちびフレイアだ。彼女のあまりの勢いにちびノルンはいち早く消えてしまった。
「じゃ、じゃあね〜♪ バイバーイ♪」
「あ、私も仕事あるんだったわ、あとよろしく〜♪」
ちびレアとちびシトリーも我が身可愛さにあっさり消えていってしまった。誰も居なくなった空間にちびフレイアは
「お前も〜! 仕事しろ〜! 未処理の魂がどれだけあると……」
(あわわわ……!)
フレイアの剣幕に押されフィーナが思案を無理矢理終わらせたその時
ーバタアァァァァン!ー
「うわあああああっ!」
「おわあっ!」
グレースの部屋の扉が突然開き何人かが将棋倒しの様に折り重なって倒れ込んできた。
「フィーナぁ! あんた何やってんのよ! 普通あそこはチューでしょチュー!」
倒れ込んできた人の中の一番下のエルフィーネから、ぽかんとしているフィーナにクレームが寄せられた。
「いたたた……、だから出歯亀は止めろと……」
エルフィーネの上にはグレースが倒れている。更にその上には
「いたたた。クロエ様、あんまり押さないで下さいよぉ〜」
いつの間に来ていたのかアルヴィンが居る。そして最上段には
「だって私から見えなかったんですもの! 仕方ないじゃございません?」
こちらもいつの間にかここに来ていたクロエだった。そして
「あの〜、だから止めましょうって……」
入り口の隅から皆を心配そうに見ているのがリーシャだった。
そんな彼等の行動からフィーナはエルフィーネ達が何をしていたのかを超速理解して赤面するのだった。




