未来の改変
フィーナは自らの成すべき事を頭の中で再確認すると
「アル、あなたの人生は変えてみせますから。少しだけ待っていて下さい」
そう言うとフィーナはベッドに横たわるアルフレッドに近付き
(…………)
彼の頬に口付けをすると神力を使った転移法陣を出現させ
ーパアアァァー
光に包まれたフィーナは目的地へと転移していくのであった。
フィーナが転移でやってきたのは王都に続く道の真ん中に出来ていた、クレーターが目の前に広がる街道の上だった。
「ここから過去に戻れば……」
アルフレッドの日記から考えると隕石の衝突はフィーナが王都でソーマに殺された直後と思われる。
今のフィーナ自身が戻れる過去は、自分がこの世界から居なくなった瞬間からなので隕石は恐らく落着寸前の状態だろう。
その一瞬で直径一キロメートルもの隕石を破壊しなければならないのだ。生半可な攻撃では難しいだろうが……神力を使い果たす覚悟で臨めば破壊出来るはずである。
ーパアアァァー
覚悟を決めたフィーナは過去へ転移する為に全身が光に包まれる。
過去に戻ったら恐らく考えている時間などは全く無いはず。
隕石を視認し、目標からここに至るまでの空間にホーリーウォールでトンネルを作らなければ、攻撃による熱がこの星の大気に悪影響を与えてしまいかねない。
そして、攻撃については指向性を持たせた光エネルギーの一撃であるガンマ・レイ・バーストによって隕石を消滅させる。
ガンマ・レイ・バーストを使えばフィーナの神力は空っぽとなってしまうが、あの隕石が衝した凄惨な未来を変える為ならば安いものだ。
ーパアアァァー
無事に過去へと遡ったフィーナの耳に
ーゴゴゴゴゴゴゴ!ー
空気が震えるような振動と熱気が伝わってきた。
「はあっ!」
ーバシン! バシン! バシン!ー
フィーナは目標の視認と同時に隕石への射線の周囲をトンネル状に大気圏外に至るまで光の壁を展開する。
それと同時に目の絵で組んだ両掌を落下が迫る隕石に向ける。
「はあぁぁぁーっ!」
ーズドオオオオオオーッ!ー
背中に白い羽まで発現させたフィーナの手から、極太の光のビームが隕石に向けて放たれた。
ージュワアアアアッ!ー
「や、やった……?」
フィーナの放ったガンマ・レイ・バーストは隕石を跡形もなく蒸発させてしまった。
しかし、神力を一気に使い果たしてしまったフィーナの疲労も無視出来るものでは無く……
「はあっはあっ……」
力無くその場にへたり込んでしまった。隕石が消え去った異世界には平和そのものな澄み渡る青空が広がっている。
自分にはもう女神らしい事は何も出来ないハズであり、ホーリーライトですら祈りをささげなければ発現は出来ないだろう。
収納空間はまだ使えるはずだが……フィーナは収納空間から冒険者時代の茶色のマントとエストックを取り出すとそれらを身に着け立ち上がった。
(王都に行きますか……)
今の王都は魔物の大群を退けて間もない頃だろう。自分が消えてしまった事にアルフレッドやリーシャ、他の皆も心配しているだろう。
しかし、これでもう悪夢の様な地獄の未来がやってくる事は無い。たった今、フィーナ自身が原因を元から全て消し去ってしまったのだから。
ーザッザッザッザッ……ー
土の街道を踏みしめる足音のみがフィーナの耳に聞こえてくる。心地良い風に若草の香りが乗ってきて鼻をくすぐってくる。
辺りの平原がどこまでも続く草原である何よりの証だ。ただそれだけでもこの異世界が平和である証であり、もう一つの未来を知っているフィーナにはそれがたまらなく嬉しかった。
(王都に着いたら……どうしましょう?)
先の事に気が向けられるのはそれだけ気持ちにゆとりが出来た証拠ではある。
今のフィーナは自力で天界に帰る事はおろか、プロテクトの影響で念話すら出来ない。レアやノルンに何とか気がついて貰って天界に引き上げて貰う以外には天界に戻る方法は無い。
それまでは大人しくこの異世界で暮らしていくしか無いだろう。
「フフッ……」
図らずも、再びアルフレッド達や他の皆と同じ時間を過ごす事が出来る幸せにフィーナの顔が綻ぶ。
それならば早く王都に辿り着こうと、フィーナが力強く王都への一歩を踏み出したその時
ーガラガラガラガラー
「あれ? あん時の嬢ちゃんじゃねぇか!」
後方からやってきた荷馬車の中から懐かしい声が聞こえてきた。
「こんなトコで会うなんて奇遇じゃねぇか」
それは荷馬車の荷台から声を掛けてきた大剣持ちの大男、シルバーベアからのものだった。
彼に会うのは皆で王都に向かう道中以来であり、この異世界の時間だけでもかなり久しぶりだ。
「おい、おっさん! その嬢ちゃん相乗りで良いよな?」
シルバーベアは荷馬車の前席に座っている商人風の男が何か言うより先にフィーナに荷馬車への同乗を勧めてきた。
そんなシルバーベアの誘いにフィーナが躊躇していると
「アンタ、噂の聖女様だろ? もしかしてさっきの火の球を消し去ったのってアンタか?」
他に方法が無かったとは言え、あれほどの神力を行使する様を目撃されていたとは思わなかったフィーナは
「あ、あの〜……ははは……」
笑って誤魔化す事しか出来なかった。
こうして新たな聖女伝説を打ち立ててしまったフィーナは、荷馬車に揺られながら王都への帰り道を辿っていくのであった。




