フラッシュバック
すっかり落ち込んでしまったフィーナはエルフィナに付き添われ王都の外まで案内される事になった。
一方、エルフィナの指示で解散していくオーク達は皆口々にボヤいていた。
何しろ彼らにとっては久々となる上玉のエルフであり、それを取り上げられるのはご馳走のお預けという例えでは表現が足りない程、口惜しい状況に違いなかった。
エルフィナが直々に付き添いを申し出たのも、護衛に就かせたオークが送り狼とならないとは限らないからである。
「ねえねえ、フィーナさんって言ったわよね? 貴女歳いくつ? 私は九十八なんだけど」
フィーナの付き添いのエルフィナだが、オーク達が解散し彼らの目が届かなくなった途端にかなり砕けた口調で話し掛けてきた。
「あ、私は十七です。まだ学生ですので……」
ガラリと変わったエルフィナに戸惑いながらもフィーナは彼女の質問に答える。
「うっそ〜! まだまだ若いじゃーん! 私の方が年下かと思ってたのに〜!」
ーガシイッ!ー
エルフィナはそんな事を言いながらフィーナの肩を抱いてきた。
「あ、あの……近いです」
距離感バグり気味なエルフィナにフィーナはかなりドン引きしている。彼女の身近には居なかったタイプだ。
「私、普段は魔族領で暮らしてるんだけどイイ男なんて全然居なくてさぁ〜」
エルフィナは引いてるフィーナを他所にガンガン話題を振ってくる。
「私、本当はママみたいな冒険者ってのをやってみたかったんだ〜。それで旅先で素敵な男性と恋に……」
趣味の話から将来の夢まで初対面になのにお構い無しである。
「は、はぁ……そうなんですね」
フィーナも助けてくれた恩人である手前、エルフィナを無下には出来ず懸命に話を合わせている。
「この先にママ行き付けの宿屋があったみたいなんだけど……瓦礫になっちゃってるのよね」
ふいにエルフィナが王都の事に話題を変えてきた。そして、それとなくフィーナを裏通りに連れ込もうとしている。
「あ、あの……? そっちに何かあるんですか?」
「今、話したでしょ? ママ行き付けの宿屋があったって。昔、そこに聖女様が住んでてね……」
エルフィナが話すには母親縁の宿屋がこの先にあったらしい。
なんでも彼女の両親を引き合わせてくれた聖女様が済んでいたらしく、エルフィナにとっては縁結びの神様といった対象になっている様だ。
「ママが話すには聖女様も痴女で暴力的でショタコンだったそうなんだけど、ババと引き合わせてくれたのだけは感謝してるって……」
彼女が今、そこに向かっているというのも験担ぎの一環である様だ。もしかしたら、件の宿屋はエルフィナにとっての聖地扱いなのかもしれない。
「あ、ここ。ここがその宿屋」
エルフィナに肩を抱かれたままのフィーナが彼女と一緒に足を止める。
目の前の宿屋は他と同じ様な廃墟であり、一階から上の部分は何かに吹き飛ばされた様になっていた。
ーバシッ!ー
「あれ……?」
一瞬、フィーナの脳裏に懐かしさにも似た郷愁の様な不思議な感情が蘇る。
初めて見る場所なのに、元の賑やかで活気に満ちた綺麗な宿屋が見えた気がした。
「あ、目的の場所はこの先なの。ちょっと付き合ってね」
エルフィナはフィーナを伴って廃墟となった宿屋へと案内し始めた。
宿屋の中は崩れかけたテーブルや椅子などが山積みにされており瓦礫の山となっている。
「床とか傷んでるから気をつけてね」
ーギシッ……ギシィ……ー
一歩歩くたびに床の板が軋む音が聞こえてくる。傍目に見たらただの廃墟だがフィーナの目には
「ここ……何処かで見た様な……」
活気のある店内の様子が眼前に蘇っていた。
「フィーナちゃん! そっちのテーブルにこの料理頼むよ〜!」
「フィーナさん、そっちのお皿お願いします! は〜い、いらっしゃいませ〜!」
恰幅の良い女性と栗色のおさげ髪の少女の働く姿と声が聞こえてきた気がした。
店内は食事をするお客さんで賑わっている。
「い、今のは……?」
我に返ったフィーナの目に見えるのは瓦礫の山でしか無い。それでもフィーナは何かに誘われる様に廃墟の奥へと歩いていく。
「あ、先輩! そっちのテーブルやっつけときましたから!……ニャ」
「フィーナさん、あっちのテーブルの皆さんがセクハラしてきたんでファイアーボール撃って良いですよね?」
今度はピンクのメイド服を身に着けた猫耳少女と黒いメイド服でオレンジ色の髪の少女に声を掛けられた気がした。
ぼーっとしながら歩いているフィーナにエルフィナが
「フィーナ、どしたの? 何かあった?」
疑問に思って声を掛けてきたがフィーナの耳には届いていない。
(そうだ。あの子達のお世話しないと……)
何かを思い出したフィーナは、まるで勝手知ったる自分の家の様に廃墟の裏口へと向かっていく。
ーギギィ……ー
朽ちかけた裏口の扉をフィーナが開けるとそこには
(わぁ……)
久しぶりに帰ってきた感覚に満たされたフィーナが見たのは二階建ての質素な物置のある中庭だった。
フラフラと中庭に降りたフィーナに
「こんにちは、フィーナさん! アル君二階で待ってますよ?」
ピンク色のおかっぱ髪の少女が小走りに走ってきてフィーナに声を掛けていく光景が見えた。
そんな、フィーナが物置の二階に上がろうと階段を上がりかけたその時
「フィーナ、何してるの! 危ないわよ!」
ーガバッ!ー
「はっ……!」
エルフィナの静止の声と力任せに抱きついてきた衝撃でフィーナは我に返った。
「今のは……」
呆然とするフィーナが見たのは、他の建物の瓦礫の下敷きになっている廃墟の光景だった。
フィーナが下手に手を加えたら崩れそうな程に廃墟は朽ち始めている。
「あ……うぅ……」
フィーナはその場にしゃがみ込み涙をポロポロと流し始め
「どうしたの? フィーナ、大丈夫?」
そんな彼女の様子にエルフィナは戸惑うばかりだったが、彼女なりに気遣う言葉を掛け続けるのだった。




